おいしいフルOSSクラウドの食べ方

2010年12月27日(月)
伊藤 雅典飛内 拓弥

4.2. OSSクラウドの展望

本節では、OSSクラウド(IaaS)の今後の展望を解説します。

クラウド(IaaS)基盤構築ソフトには、かなりの数の実装が存在します。

オープンソースでは、Eucalyptus、OpenNebula、OpenStack、CloudStack、Nimbusなどがあります。国内にも、あくしゅ(axsh)のWakame-vdcなど、複数の取り組みがあります。商用製品では、EucalyptusをOpenCore戦略で展開する米Eucalyptus Systemsのほか、米Morph Labs、米Enomaly、米Cloud.comなどが挙げられます。なお、CloudStackは米Cloud.com製品のOSS版(Community Edition)です。

この中で、第3回で紹介したEucalyptusは、Amazon EC2/S3互換インタフェースを実装していることと動作実績などから、2010年前半の時点ではIaaS構築OSSの本命とみなされていました。ところが、2010年7月19日のOpenStackプロジェクトの設立発表後、状況が変わってきています。

Eucalyptusは、NASA(アメリカ航空宇宙局)のNebula Cloudで採用されていました。ところがNASAは、独自にEucalyptusに代わるIaaS基盤ソフトを開発しました。なぜなら、Eucalyptusには、NASAで要求されるレベルの大規模なデータ量・ノード数を支えるスケーラビリティや開発体制のオープン性に課題があったからです。

一方、米Rackspace Hostingも、クラウド・サービス業界首位の米Amazon Web Servicesを追撃するため、自社クラウド基盤のOSS化を図ることで、ユーザー・ベースの拡大と、開発コストをコミュニティで分担していくことを検討していました。

このように、NASAと米Rackspace Hostingの思惑が一致して発足したのが、OpenStackプロジェクトです。NASAからはAmazon EC2に相当する仮想計算機・ストレージ管理基盤のNovaを、米Rackspace HostingからはAmazon S3に相当する分散オブジェクト・ストレージ基盤のSwiftを提供し、2つの主要コンポーネントを構成しています。

4.2.1. 注目を集めるOpenStackプロジェクト

OpenStackプロジェクトは、発足当初から業界関係者の高い関心を集めています。本稿執筆時点で、参加企業一覧ページには44社のロゴが掲載されています。プロジェクトに貢献するための手続きを行った企業一覧の中にはロゴを掲載してない企業もあるため、実質的な参加者は企業、公的組織、個人を含めてかなりな数に上ります。この中には、米Intelや米Dell、米Microsoftなど、大手ベンダーの名前も含まれています。日本からも、NTTデータ、NTT、ミドクラ(Midokura)が名前を連ねています。

OpenStackプロジェクトの運営体制は、定期的かつ継続的に安定した品質のリリースを出していくために、Ubuntuプロジェクトにならった運営方法をとっています。

リリースとリリースの間には、開発者を一堂に集めたDesign Summitを開催し、追加機能単位ごとに開発者がひざを突き合わせてオープンに議論し、次版以降に盛り込む追加能能を決定します。この議論には、開発規模や影響範囲に由来する品質面の観点なども含まれます。追加機能として承認された後は、開発ポータルのLaunchPad [2]上で、進ちょくも管理されます。

コミュニティ・ベースでの開発を円滑に進めるため、コミュニティのキーマンを専任で割り当てる方針をとっています。まず、XenのCommunity Managerを務めていたStephen Spector氏をCommunity Managerとしてリクルートしたほか、プロジェクト全体の進ちょくとリリースを管理するRelease ManagerとしてThierry Carrez氏を専任で割り当てています。また、コミュニティ・ベースのOSS開発プロジェクトでは一般的にドキュメントの整備が遅れがちになりますが、Anne Gentle氏が専任でTechnical Writerの任に当たっています。

このように、OSSプロジェクトとしては例外的に手厚い体制でスタートしたOpenStackプロジェクトですが、2010年10月21日にリリースされた第1版(Austin Release)は、率直に言って開発者向けプレビュー・リリースの感が強いものとなっています。これは、プロジェクト発足直後であり、参加者の間にコミュニティ・ベースの開発の進め方が浸透していなかったことが主な原因でした。

しかし、第2版に向けて、2010年11月9日から開催されたDesign Summit以降、Release ManagerのThierry Carrez氏の強いリーダーシップの下、追加機能項目が徐々に整理され、開発者の間にもプロジェクトの進め方が浸透してきています。今後のスケジュールは、以下の通りです。コミュニティの目標としては、第2版のBexar Releaseで商用品質を、第3版のCactusリリースで(クラウド)サービス・プロバイダと同等の規模のスケーラビリティを目指しています。

OpenStackの開発ロードマップ
2011年2月3日 第2版(Bexar Release [3])
2011年4月中旬(見込み) 第3版(Cactus Release)
第4版以後は6カ月ごとのリリースに変更される予定。

以上のように、OpenStackプロジェクトには勢いがあります。また、クラウドに関連する企業がほとんど顔をそろえている状況であるため、当面の間はOpenStackを軸にエコ・システムの構築が進んでいくものと考えられます。

OpenStackを中心とした日本語による最新情報は、日本OpenStackユーザー会 [4]の有志のメンバーが発信していますので、参照してもらえればと思います。

OpenStackの情報
[1] OpenStackプロジェクト http://www.openstack.org/
[2] OpenStack開発ポータル http://launchpad.net/openstack/
[3] Bexarはスペイン語由来のテキサス州の地名で「ベア」(/ˈbɛər/)と発音します。
[4] 日本OpenStackユーザー会 http://openstack.jp/

4.3. まとめ

4回にわたって、プライベート・クラウドの設計・構築・運用と、近年の動向について解説してきました。今後、読者の皆さんがプライベート・クラウドを導入される際に、本連載の情報が役に立てれば幸いです。

株式会社NTTデータ 技術開発本部

シニアITスペシャリスト。専門分野はオペレーティングシステム一般。専門以外には進化論等に興味を持つ。現在はインタークラウド連携の研究開発に従事するほか、GICTFやVIOPS等、各種団体・コミュニティで活動中。趣味は子育て。

株式会社NTTデータ 技術開発本部

入社以来、EucalyptusをベースとしたフルOSSクラウド構築ソリューションの開発・構築・サポートを担当。趣味は子育て。
 

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