SDNへの潮流とOpenFlowの歴史

2012年2月2日(木)
前田 繁章

1.1 はじめに

このところ、ネットワーク業界では、Software-Defined Network (SDN)というコンセプトおよび、それを実現する技術の一つである、OpenFlowが注目されています。

このOpenFlowという技術は、サーバやストレージと比べて遅れがちであったネットワークの部分で仮想化を実現することが可能なため、クラウドの世界で注目を集めています。その上、OpenFlowではネットワーク仮想化のみならず、既存のプロトコルの枠組みを超えた多種多様なネットワークを実現することが可能です。

本連載では、SDNとはどういう概念なのかということからはじめ、OpenFlowの歴史、プロトコルの詳細、さらにその使い方や活用事例について4回にわたって解説していきます。

1.2 SDN(Software Defined Network)

1.2.1 従来のネットワークの特徴

現在主流となっているTCP/IPやEthernetといったネットワーク技術では、OSI参照モデルで定義されるように、通信機能をレイヤと呼ばれる階層に分割しています。そして、その各階層においてRFCやIETFで標準化された信号の挙動に従って各ベンダーがネットワーク機器を開発し、相互に通信をする形態になっています。

各ネットワーク機器ベンダーは、ネットワーク装置のハードウェアと各階層に応じた処理を行うソフトウェアの両方を開発し顧客に提供しています。その際、標準化されていないものでも独自の機能・付加価値については各ベンダーの強みとして機能を追加し、それを製品として提供していく形態です。その際、特徴的なのは、ハードウェアとソフトウェアの両方を同じメーカーが開発・提供することです。

1.2.2 従来のネットワークが抱える問題点

このような場合、各ベンダーの製品が必ずしも標準化された機能のみを実装しているわけではないため、とある機能を利用したい場合は、おのずと採用できるベンダーが限定されるといったことも生じます。その結果、ベンダーロックが進み、価格の決定権という観点では、どうしてもメーカー側に有利になりがちです。

また、実現したいネットワークがあったとしても、ネットワーク装置の制約によって実現ができなくなってしまうことも考えられます。機器のソフトウェアとハードウェアが一体となっているため、機器ベンダーが想定するアーキテクチャ以外のネットワーク構成は実現できないのが現状です。ネットワークサービス提供事業者を例にすれば、「自社のサービスに特化したネットワークを構成したい」と考えても、ベンダーが対応してくれなければ実現できないというのが問題点です。

1.2.3 SDNというコンセプトの出現

そこで、近年大きなトレンドとして起こっているのがSDNというコンセプトです。これまでのように、個々のネットワーク機器にそれぞれコンフィグレーションするのではなく、各装置を集めたネットワーク全体を一つの単位として、一括で制御するという考え方です。

従来のネットワークでは、ネットワーク技術者がネットワーク全体を見通した上で設計をし、それに応じて各装置に個別のコンフィグレーションをする(各機器のソフトウェアの動きを設定する)ことで全体としての整合性を担保していました。そうではなく、ネットワーク全体を制御するソフトウェアを一つだけ用意し、そのソフトウェアですべての装置を操作してしまうというのがSDNの考え方です。

図1:これまでのネットワーク機器アーキテクチャ(左)と、SDNのアーキテクチャ(右)の比較

図の左側がこれまでのネットワーク機器のアーキテクチャです。ハードウェア上にIOSやJUNOSといったOSがあり、その上で各プロトコルに対応したソフトウェアが載っています。各ソフトウェアはあくまで一つの機器を制御するだけにすぎません。

そして、図の右側がSDNのアーキテクチャです。ネットワーク全体で一つのOSとして見え、ソフトウェアから見れば個々のネットワーク機器が隠ぺいされています。こうすることで、ソフトウェアを開発さえすれば(たとえハードウェアを持っていなくても)自由にネットワークを制御することが可能になります。

OpenFlowはこのようなSDNのコンセプトを実現することが可能な技術の一つです。その詳細に触れる前に、SDNに集まる期待や、OpenFlowにかかわる歴史と標準化動向について紹介したいと思います。

株式会社NTTデータ 技術開発本部

入社以来、IT基盤分野の技術開発に従事。これまで、RFIDプラットフォーム開発、NGN接続連携プラットフォーム開発などを行う。現在は、OpenFlowコントローラの開発を主とし、OpenFlowを活用した新規サービスの検討および開発に取り組んでいる。

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