日本は本当にガラパゴス?アメリカで働く日本人からのメッセージ(米マイクロソフト訪問記その2)

2012年6月22日(金)
浅見 城輝田口 一博

アメリカでエンジニアとして仕事をするということ

米マイクロソフト訪問レポートの第2回では、5年ほど前から現地で働いている成本正史氏に、アメリカでのエンジニアのワーキングスタイルについてお聞きした内容を主に紹介したいと思います。後半は田口さんのシアトル訪問記もあるのでお楽しみに。

ここからは、成本氏のお話を中心にお届けしていきます。はじめは、アメリカこそが特殊な仕事環境を持つという、我々には意外な言葉から始まりました。

  左:入館手続き中
右:全員が手続きを終え、いざオフィスビル内へ・・

多民族国家アメリカだからこその特殊な仕事環境

よく勘違いする人がいるのですが、アメリカで仕事をするということは、“アメリカ人と仕事をする”ことではありません。“アメリカにいる人たちと仕事をする”ということです。

つまり、アメリカは多民族国家で、だいたいはアメリカ、アジア、ヨーロッパからの人たちが混在した環境です。日本の仕事環境が特殊だと思う皆さんには意外かもしれませんが、こういったことから日本はヨーロッパと同じイメージで、どちらかというとアメリカの方が特殊だといえるでしょう。

オフィスの雰囲気はとても明るく、みな笑顔で、音楽をかけながら仕事をしています。多民族だからということもありますが、自分の世界に閉じこもらず、毎日のあいさつやジョークなどを言い合ってまわりと打ち解けることはとても大切なのです。

また、上司と部下の関係はほぼ対等です。部下は上司に対して自分の評価をしている立場だということは認識していますが、自分の意見を遠慮することはありません。上司はピープルマネジメントが主な仕事のため、開発作業に口出しすることはなく、部下が働きやすい環境を作ります。

マイクロソフトでは毎週1対1のミーティングがあり、上司が一人の個人として部下の面倒を見てくれます。また、メンター制度というものもあり、自分と同じ部門ではない人を選んで『この人と仕事がしたい』などと希望することもできます。

> 日本では多くの企業が静かなオフィスで働いていることを考えると、大きな違いを感じますが、それは多民族ゆえコミュニケーションを大事にしているからなんですね。上司に向かって遠慮なくズバズバものを言う習慣も、日本ではあまり聞きません。

  左:ミーティング前の準備
右:アメリカでの仕事環境を話してくださった成本氏

コミットメント重視の人事評価、新卒・中途の概念がない採用形態

人事評価はコミットメントを基準に行われます。年初に、どのプロジェクトでどのような貢献をするのかを数値で明確に宣言し、それが年末に何%達成したかで、昇進、給与、インセンティブなどに大きな差を与えます。コミットメントは1年の内に細かく調整しますが、継続してパフォーマンスが悪いと人員整理の対象になる(クビになる)ことも多くあります。

新卒採用・中途採用による違いがないことも、日本との大きな違いです。企業は即戦力を求めているため、採用して教育するという概念がありません。また、年齢・性別は仕事上ほとんど考慮されず、公平に扱われ、人種も含め差別にならないように気を配っています。同僚の年齢を知らないことも多く、そもそもあまり気にかけません。このことは、年下の上司、年上の部下という関係を円滑にしています。さらに、定年もありません。

> 毎年一定の割合で新卒採用することの多い日本では考えられませんね。年齢・性別に加えて民族による差別が起こらないように気を使うことも、公平な仕事環境に大切なことがよく分かります。

ディスカッションでは無言も賛成もいらない

意思決定がものすごく早いことも特徴です。5~10分話して結論が出ないと、みなイライラしてきます。そこそこの基本的な合意ができればあっけなく決定し、実行しながら順次修正していきます。話しながらその場で決めなければならいため、「もう少し考えさせて」ということは許されません。

また、多民族でバックグラウンドも趣味趣向もみな異なるため意見の対立が多く、自分が思っても他国の人はまったく逆のことを言うことも多くあります。

ディスカッションしたら反対意見しか出てこないと思っていいでしょう。そもそも賛成にはあまり意味がないという考えのため、違う角度からの意見を求められます。もっと悪いのは発言しないことで、これは存在しないことと一緒です。

価値を提供しなければ認めてもらうことはできません。自己主張が重要です。日本では、残業が大変だから…、頑張ってるから…と情緒に訴えることもあるかもしれませんが、アメリカではまったく通用しません。

このようなさまざまな意見から、ロジカルに全員が納得するものを作り上げるのがPMやアーキテクトと呼ばれる人の仕事です。この人たちは、その場で理路整然と合意形成を進めていく調整能力に長けています。

反対意見が多く飛び交う会議を円滑にすすめるため、誰もあからさまに「I don't think so !(それは違うよ!)」などと失礼な言い方をすることはありません。まずは相手の意見をほめ、そして、よりよくするためにはどうすればよいかを提案するのです。

> ちなみに、TOEICは常に満点を取ることが当たり前のようです。これは、英語の意見を自然に聞けるようにならなければ、自分の意見を伝えるどころではないから。成本氏も、当初は相手の意見を聞くことで精いっぱいだったとのこと。

株式会社pnop

ネットワーク機器メーカーでの情報システム、DB管理パッケージベンダでのコンサルタント、フリーランスを経て、株式会社pnop(http://www.pnop.co.jp/)代表取締役。
クラウドやデータベースのコンサルティングを中心にWebシステムの構築やWindows 8、KINECT開発なども行う。最近は、Windows AzureでPHPやLinuxなどの非マイクロソフトなテクノロジを利用してサービスを動かすことに喜びを感じる日々。

スカイコード株式会社

主にマイクロソフトの技術を中心としたプログラマ兼システム管理者兼コンサルタント兼雑務係として従事。Microsoft Azureで少しでもラクに楽しく生きていこうと企む毎日。基本怠け者。

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