連載 :
  インタビュー

「Fluentdをきっかけにビジネスが回る仕掛けがとっても気持ちイイです。」

2015年7月17日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

クラウドを活用したデータマネージメントサービスを展開するトレジャーデータのCTO、太田一樹氏にインタビューを行った。同社がメインで開発を進めるログ収集のためのオープンソースソフトウェア「Fluentd」とコアなビジネスモデルとの関係、トレジャーデータの狙っているユーザー層、更にはエンジニアの雇用から人工知能の可能性まで幅広いトピックに及んだ。

まずはCTOとしての業務領域を教えてください。

現在はCTOという肩書きで、約80名ほどの社員の中の30名ぐらいを占めるエンジニアリングとプロダクトマネージャーを統括する仕事をしています。プロダクトマネージャーというのはアメリカのIT企業では普通なんですが、製品の位置付けとか顧客ニーズを理解したり、顧客向けのメッセージを作る役目です。それに加えて製品を使って頂いているお客様への対応を行うカスタマーサポートのエンジニアという人たちも統括しています。その中にはオープンソースソフトウェアとして公開しているFluentdのコミッターも含まれていますが、Fluentdのエンジニアに関して言えばもう勝手にどんどんやって貰ってるって言った方がイイかもしれません。

トレジャーデータのビジネスはどんな感じなんですか?

ビジネスは毎年倍々というか常に前年比3倍くらいの勢いで伸びてますね。基本的には日本と北米、それ以外の地域での売上が1/3づつという感じです。意外と日本での売上が多いんです。トレジャーデータそのものはアメリカで立ち上げた会社なんですけど、創始者が3人とも日本人でやっぱり知り合いも日本人が多いのでビジネスを拡げようとすると日本人のコネを最大限に利用した結果こうなったという感じですね。顧客数も既に数百という感じだと思います。ベンチャーキャピタルから資金を投資して頂いているのでとにかくIPOでExitしないといけないので毎日頑張ってます。

Fluentdがログ収集のためのプラットフォームとしてかなり幅広く認知され実際に使われていると思いますが、それに関してはどう思われますか?

これに関してはスゴくうまく動いているなと感じています。つまり、Fluentdが単なるログを収集する役に立つツールというだけではなくてトレジャーデータのビジネスを拡げるためのLead Generation、営業につながるきっかけとして動いているということです。ログを収集する機能はタダで提供します、データを格納するモノはMongoDBでもなんでもイイです、でもその運用に疲れちゃった時は相談してくださいね、という感じの営業につながるセールスツールという位置付けですね。いわゆるオープンソースソフトウェアの中で基本機能は無償で公開してコミュニティに任せる、でも機能を追加したソフトを有償で提供するというモデルは実際にはそんなに上手く行ってないのではないかと感じています。それが唯一上手く行ってるのはRed Hatだけじゃないですかね。それが上手く行かない理由は企業としてのビジネスモデルとフリーなソフトウェアが競合してしまうからだと思います。基本機能をオープンソースソフトウェアで、付加価値を付けたモノを有償で出すとするとバグの修正や機能強化が追い付かなくなると思っています。なのでビジネスモデルとして無理があると。

トレジャーデータの場合、ログ収集のツールは無料、そのソフトに関しては有償の別バージョンを作るのではなく、競合するソフトを作らずに無料のソフトとして公開することでコミュニティを育てることに成功しているかなと思います。よく言うんですが、今の時代、ソフトだけをコピーするのはコマンド一発で出来ちゃうんですよね。でもコミュニティはカンタンにはコピーできない。そういう意味でFluentdのコミュニティを盛り上げることには成功しているのかなと思います。

実際にGoogleのエバンジェリストの人とかも強烈にプッシュしてますよね。

そうですね。Googleの佐藤さんにはお世話になってます。あとAWSのCTOが日本に来た時にも色んなAWSの顧客事例を紹介された時に必ずFluentdの鳥のロゴがシステム構成の中に出てきて、「このツールはなんていうツールなんだ!」って聞かれたなんてエピソードもあるぐらいですから、相当浸透してるんじゃないですかね。クラウドでデータマネージメントを行うサービスが日本では上手く行っているという分析もあるらしいんですが、その成功はFluentdのお蔭じゃないかと自負しています。実際に営業と一緒にお客さんのところに行く時でもFluentdのステッカーが先方のエンジニアが持ってきたノートPCに貼ってあるのを見たら、このプレゼンは勝ったなって思いますから。

そういう意味で営利企業がオープンソースソフトウェアを作ることで企業のビジネスモデルに合致させることは可能であるということでしょうか?

そう思います。営業とかマーケティングとかしていても我々のコアなビジネスのモデルに沿っているから、プレゼンをしてても気持ちイイんですよ。どこにも無理が無い。それはとても重要だと考えています。

機械学習を始めとして人工知能がもてはやされていますが、トレジャーデータとしての取り組みは?

人工知能というか機械学習は若干、もてはやされ過ぎかなと思います。ディープラーニングを始めとして本当の意味でビッグデータを活用している企業はほんの一部でトレジャーデータとしてはそういうアーリーアダプターではなくもっとマジョリティに使ってもらえるツールを提供することをゴールとしています。もちろん「Hivemall」という人工知能のライブラリを組み込んだソフトウェアも開発していますが、何よりももっと多くの企業に使ってもらえるツールを作ることを目指しています。そのためにお客さんと会話して何が必要なのか? を理解することが大事だし、僕自身、お客さんの声を聴くのが大好きなんですよ。

トレジャーデータは今、とてもよい感じに進んでいると思いますが、困っていることは有りませんか?

そうですね、いま困っているのはハイヤリングですね、もう毎日インタビューしてますから。今はたまたま日本が円安なので日本でエンジニアを雇うのは良い状況なんですが、それもいつ変わるか分かりません。現時点ではアメリカと日本に拠点を置いて開発と営業を進めるのがイイと思っています。トレジャーデータは営業とエンジニアがとっても仲が良いのが特徴なんですよ。なので今のところはオフショアに開発拠点を作ろうとは思っていません。良いエンジニアを採用するためにいろんな人と常に接点を持ってアンテナを張っておくことが必要なんですね。良いエンジニアにはいつでも来てもらいたいとは思ってますけど、こういうのは向こうの事情もありますから、こっちの要求だけが通るわけじゃないのが難しいんですね。最近、入社してくれたエンジニアも3年ぐらいかけて口説いてますから。

◇ ◇ ◇

日本とアメリカを往復する忙しい業務のさなかにインタビューに応えてくれた太田氏だが、CTOというよりは如何にビジネスに貢献するソリューションを提供するか? IPOという目標に向かって何をすべきか? を常に考えているアントレプルナー精神に溢れたパーソナリティはトレジャーデータにはふさわしいのかもしれない。Fluentdを始めとしてこれからもオープンソースソフトウェアの推進役としての活躍が期待される。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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