クリエイティブと開発のはざまで

2010年1月6日(水)
山本 啓二

Webサイトの要件とシステムの要件

Webサイト構築のプロジェクトが始まり、顧客の主催でキックオフ・ミーティングが行われました。参加者は、マーケティング部のほかに各ブランドのマネージャー、店舗の統括マネージャーといった歴々に加え、ソフトハウス以外からも社外のスタッフが参加していました。前々から付き合いがあるというデザイン会社で、商品を入れる手提げ袋やフライヤー(チラシ)といった紙のほか、今のWebサイトを作った会社だそうです。

キックオフの前に確認しておいた既存のWebサイトは、Flashを多用した、いかにもファッショナブルなもので、企業やブランドのイメージには沿ったものなのでしょう。ただ、中身はさほど充実しておらず、会社案内/店舗案内と、ブランドのイメージ広告くらいのものです。デザイン会社からの自己紹介では、「Web制作は手がけているがシステムには強くないので、その面で助力してほしい」とのお願いもありました。

キックオフ後、実際にプロジェクトが始まってみると、要件定義と称してデザイン会社から渡ってくるのは、主要なページについての美しいデザイン画と、サイト構成を表すラフな画面遷移ばかりです。システム担当の立場からは、パッケージやフリー・ソフトウエアなどECサイト構築のための製品を調査しているので、どの製品を使うかを決めたいと考えるのですが、どうにも話がそういう方向に行きません。

お願いして要件定義のミーティングに同席させてもらうと、店舗の担当者とは「プロモーション・メールの文言とサイト誘導後の動線」を議論し、マーケティング部とは「Webサイトで通販するブランドごとの見せ方」を議論しています。こうしたことももちろん大切なのは分かるのですが、いつになったらシステムの要件に落ちていくのか見えません。とはいえ、「サイト誘導後の動線」は、システム設計の肝ともなる「メニュー構成」に大きく影響を与えますし、「ブランドごとの見せ方」の議論の向かう先によっては、第一候補と腹の中で考えている「ECサイト構築向けのパッケージ製品」の適用が難しくなるかもしれません。

このプロジェクトで自分はどう働いていけばいいのか、ソフトハウスのリーダーは途方に暮れてしまいました。

デザイナさんの言い分/システム屋の言い分

システム屋の立場からすれば、採用するパッケージが決まらなければシステム全体の設計もできず、開発費用の見積もりもままなりません。さらに、この要件定義と呼ばれている期間については、明確な契約もないまま、もらえる費用も決まっていません。紹介してくれたSIerの人から「Webの世界の商習慣はそういうものみたいだよ」と聞かされて受け入れてはいるものの、リスクを強く感じます。

ここで掛かった原価は、開発工程の請負費用から回収することになります。見込みの予算枠も数百万円程度と、企業システムを手掛けてきた感覚からすればそうそう潤沢ではないことは分かっています。このまま工数を空費するのも怖いですし、結果としてパッケージが使えずフル・スクラッチの開発とでもなれば、回収するどころではありません。

この時、デザイン会社のほうでは、どう考えていたのでしょうか。

実は、デザイン会社としても、Web通販システムを作った経験などありませんでした。プロモーションの議論をしていても、「顧客のセグメンテーション」について、実際にシステムではどのような分け方ができるのか分からないまま、ユーザーが言うことを整理するのが精いっぱいだったのです。

もちろん、デザイン会社は、「ブランドごとの見せ方」がデザインの腕の見せ所だとも思っています。ただ、その見せ方いかんによっては、例えば似て非なるページや部品の画像を大量に生産する必要が生じ、原価が増大することを恐れてもいました。制作原価を抑えるためにも、システムがどのようなことをしてくれるのか、知りたかったのです。

ウルシステムズ株式会社
ウルシステムズ株式会社 主席コンサルタント。独立系のSIer・ソフトハウス2社を経て、2001年より現職。システム開発プロジェクトにまつわる要件定義・設計・実装・テストなど、多岐に渡った分野でITコンサルティングを提供している。阪神タイガースが強い年は、ワークライフバランスがプライベート側に倒れがちな傾向があるが、今年はどうなるものか。
http://www.ulsystems.co.jp/

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