ネットワーク機器がクラウドを支える
ネット設計はサーバー境界やサーバー内にも配慮
1ページ目で説明した通り、クラウドが立脚しているIT基盤は、すなわちビジネス・ロジックを動作させるための基盤である。本質的なビジネス・ロジックさえ動作すれば、あとは基盤側でリソースの動的追加/拡張/可用性を保証する、という流れである。
リソースの動的追加/拡張/可用性を保証するために有効な技術要素は、メインフレーム(汎用機)か、またはオープンシステム上のサーバー仮想化ソフト(ハイパーバイザ)である。現実的には、オープンシステムとハイパーバイザを使うことが、初期導入コストから見て優位である。
サーバー仮想化の前提として、XaaSがマルチテナント機能を意識しないということの意味を考えてみよう。
ネットワーク・サービスから見たアプリケーションには、少なくとも以下の3種類がある。
(1)Intranetで使うアプリケーション = 社内ネットワーク
(2)Extranetで使うアプリケーション = 企業間ネットワーク
(3)Internetで使うアプリケーション = マルチテナント
上記はネットワークから見た分類だが、クラウドの特性をよく表している。クラウドにおいては、システムとはネットワーク経由でアクセスするビジネス・ロジックであると言える。つまり、どのようなユーザーがアクセスしてくるのかが、ネットワーク設計に大きな影響を与える。
図2-1に示した通り、サーバー仮想化やクラウドを前提としたIT基盤では、従来ではネットワークのコアスイッチ部分を設計する際に考えていたネットワーク特性に関する考察が、エッジ(サーバー機を収容する境界)・スイッチやネットワーク・アダプタ(NIC)、ハイパーバイザ内のソフトウエア・スイッチにまで及ぶ。
いずれにせよ、上記の3つのパターンを提供できることが、クラウド指向データセンターには求められる。具体的には、個々の仮想アプライアンスに対して災害対策などの機能を提供可能な、フラットで広帯域なレイヤー2ネットワークが求められる。
フラットで広帯域なレイヤー2ネットワークは、特別新しい技術を要するものではない。例えば、既存の広域イーサネット・サービスに見られる、MPLS(Multiprotocol Label Switching)やPB(Provider Bridge)/PBB(Provider Backbone Bridge)などの技術を用いても実現できる。また、レイヤー2をEthernetからInfiniBandに置き換えることも可能である。
仮想環境には運用管理機能やインターコネクト技術が重要
システムを動作させるのに必要なネットワーク技術の要素は、何もレイヤー2ネットワークやIP(レイヤー3)ネットワークだけというわけではない。サーバー仮想化やクラウドのためには、リソースのプロビジョニング(配置)、モニタリング(監視)、アカウンティング(課金)などの機能が統合的に必要になる。
クラウドの運用時に扱うべきコンピューティング・リソースの例は、以下の通り。
【代表的なコンピューティング・リソース】
- 仮想アプライアンスの仮想プロセッサ数
- 仮想アプライアンスに割り当てるメモリ量
- 仮想アプライアンスの仮想I/Oアダプタの数
- 仮想アプライアンスの論理ボリュームの大きさと数
- 仮想I/Oアダプタ・ポートに割り当てる仮想/物理コントローラの数
- 仮想I/Oアダプタ・ポートに割り当てる帯域
- 仮想I/Oアダプタ・ポートに割り当てるキュー長
個々のサーバー内に存在するネットワークについても考慮が必要である。サーバーのアーキテクチャーを細かく解説するつもりはないが、システム内に存在するネットワーク/インターコネクト技術に関する知識は最低限必要になる(図2-2)。詳しくは情報システムの解説書などを参照していただきたいが、以下の要素が存在する。
【データセンター内のネットワーク/インターコネクトの例】
- CPUとメモリ間のインターコネクト: QuickPath Interconnect、HyperTransport
- I/OチャネルやDMA チャネル: PCI-Express
- システム・インターコネクト: Fibre Channel、InfiniBand
- ノード間ネットワーク: Ethernet(TCP/IP)
ビジネス・システムのサービス・レベルを担保するためには、上記のリソースを適切に管理する必要がある。これらのすべてのネットワーク/インターコネクト技術を集約して管理するべきとは言わないが、きょう体間の通信は統合される方が管理上望ましい。こうした技術の1つが、ストレージ業界を中心に話題となっているFibre Channel over Ethernet(FCoE)である。
次ページでは、こうしたネットワーク/インターコネクト技術を踏まえたうえで、システムのボトルネックを回避するポイントを解説する。