BIツールを利用したシステム構築時のポイント
会計データを取り扱う際に立ちはだかる壁
前述した流れに沿ってポイントを踏まえつつシステムを構築することで、BIシステムを利用できるようになります。ただし、分析対象のデータとして会計データを利用する場合には、会計という特性を踏まえた考慮すべき点がいろいろとあり、注意が必要です。
例えば、会計システムにおける「勘定科目」では、借方・貸方による金額加減算や、プラスとマイナスの区分が必要となるケースがあります。ところが、BIツール単独では、この意味を判断できません。そのまま表示してしまったり、単純にすべてを合計してしまったりする場合があります。
具体的には、売上が100、原価が80であった場合、利益はいくらでしょうか。普通に考えれば20ですが、BIツールから見れば、いずれも同じ「勘定科目」です。売上と原価の合算値である利益は、ツール上で単純に合算すれば180になってしまいます。会計データは言葉自体がプラス/マイナスの意味合いを持つため、この意味合いをデータ・モデルの概念として考慮しなければなりません。
BIツールでは「年→四半期→月度」など、任意の期間を指定した分析が可能です。この場合、指定期間の金額を合算するだけでよいPL(Profit and Loss、損益計算書)科目の出力は、比較的容易に実現できます。
ところが、指定期間の最終月度の金額(期間累計額)が必要となるBS(Balance Sheet、貸借対照表)科目においては、BIツールだけでの対応は難しくなります。分析元となるERPパッケージのデータの保持方法を変更するなどの工夫が必要になります。
また、棚卸関連科目のように、指定期間に応じて特別な考慮が必要なものについても同様に、BIツールで表示するには、何かしらの工夫が必要です。
ほかにも、ドリルダウンによってデータを展開するための前提条件として、階層化したデータを事前に用意しておくといったように、分析元システム側のデータ保持方法を変更する必要が生じる場合があります。
運用面においても、作業負荷を軽減する仕組みが必要になります。例えば、取引先の名称などのような、会計データ分析時の集計軸となる情報が変更になる場合があります。こうした際に、BIツールに連携済みの情報を、過大な負荷をかけることなく分析元システムの最新情報に入れ替える仕組みが必要です。
以上、会計データを扱う上での注意点を挙げました。これらのポイントは、「BIツールで会計データを表示するためには何かしらの工夫が必要であり、取り扱いが難しい」と言われるゆえんとなっています。
前ページでは、BIシステムの構築負荷を軽減するためにERP連携テンプレートが有効と述べました。ここで、会計データの取り扱いの「壁」を考慮して、あらかじめ工夫を加えておくことにより、さらにテンプレートの効果が高まると言えるでしょう。
管理会計とBIツールの連携例
管理会計とBIツールの連携例として、筆者が所属する住商情報システム(SCS)のERPパッケージ「ProActive E2」の管理会計システムと、ウイングアーク テクノロジーズのBIツール「Dr.Sum EA」の連携について紹介します。
ProActive E2は、中堅企業を中心に利用されているProActiveシリーズの最新版です。Webアプリケーションでありながら、リッチ・クライアント「Curl」を適用して操作性を高めている点が特長の1つです。この中の「管理会計システム」は、企業グループ全体およびグループ企業ごとの経営状況を把握するため、予算・見込・実績の対比や過年度比較、セグメント別の状況把握、財務比率分析などの機能を備えています。
国際会計基準へのコンバージェンス(移行)の一環である「セグメント情報等の開示に関する会計基準」において、経営者視点(内部組織視点)で業績を開示するマネージメント・アプローチの採用が高まっているように、管理会計の重要性は日々高まっています。
こうしたニーズに応えるため、SCSでは、ProActive E2管理会計システムとBIツールのDr.Sum EAを連携させ、相互の機能補完と早期稼働を実現しています。なお、Dr.Sum EAは、業務の現場から経営層まで幅広い層のユーザーが使うことを想定したBIツールです。“誰でも使える操作性”や“ノンプログラミングでの開発”などを特長としています。
次ページでは、ProActive E2管理会計システムとDr.Sum EAを連携させる具体的な仕組みについて、機能を中心に解説します。