情報活用のトレンドと導入ノウハウ

2010年3月24日(水)
久保田 さえ子
マーケティング施策の精度を高めるポイント

マーケティングPDCAを支援する情報活用基盤

次に、前ページに記載したポイントを実現するために、どのようなIT技術が必要となるのかを説明します。

筆者が所属する伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)では、マーケティング・プラットフォーム構築のナレッジを活用して、顧客中心のマーケティング・プラットフォーム「Customer Centric Warehouse」(CCW)ソリューションを提供しています。このソリューションを適用する際には、プラットフォーム機能を大きく以下に示す4つの層に分けて整理しています。

1. 実行層

企業と顧客との接点となる機能です。ここでは、コンタクト・センターや店舗(営業)など、どのようなチャネルであっても顧客情報を取得でき、適切な商品/サービスを提案できる、そのような仕組みが必要です。メールやWebサイトでは「レコメンデーション機能」によって顧客ごとに最適な情報を提供します。

2. キャンペーン管理層

実行層で実施する施策を、計画/管理する層です。複数のチャネルを通じて全社的に施策を管理する場合は、チャネルごとのキャパシティやコスト、施策の優先順位、顧客ごとのアクションの上限設定、重複の管理など、複数の施策をコントロールする仕組みが必要です。キャンペーン管理ツールには、キャンペーンの設定・有効期間、効果測定方法(KPI)の定義といった機能が求められます。

3. データ分析・検証層

“消費者インサイト”を探る各種の分析機能、施策の効果を検証する機能、顧客のイベントをキャッチアップする機能など、マーケッターの仮説検証を支援する機能を提供します。狭義のBIツールやデータ・マイニング・ツールなどが利用されます。

最近では、マーケッターやWeb企画、営業・経営企画といった企画部門だけでなく、全社組織でマーケティング・プロセスを可視化してモニタリングすることで、マーケティング戦略の効果を最大化する方法も注目されています。このような仕組みを実現するのが、BIツールを活用した「マーケティング・ダッシュボード」です。

4. データ基盤層

各種の分析対象となるデータを蓄積する「データ・ウエアハウス」(DWH)や、複数のチャネルの顧客が統合された「統合顧客マスター・データ」などが必要です。DWHには、企業情報や市場情報などの外部データや、コンタクト・センターや営業店で収集した顧客の声(Voice of Customer)などの定性情報、地図情報など、さまざまなデータが蓄積されます。こうしたさまざまなデータを収集・加工するにはETL(Extract/Transform/Load)ツールが、顧客情報を統合(名寄せ)するには名寄せツールが利用されます。

余談ですが、10年前のDWHのヒアリング・シートにおけるデータ量確認項目の最大値は「1T(テラ)バイト以上」でした。時は流れ、現在のDWHの要件はTバイトを大きく超えるものが多くなっています。こうした大規模化の流れの中、性能だけではなく運用やチューニングなどのメンテナンス/拡張作業を容易に実施できるかどうかが、トータル・コストを削減するポイントと言えます。

これら4つの層で、CTCの「CCW」ソリューションを適用することが可能です。現状のシステムと今後必要な機能を整理し、優先度をつけて、必要な部分からシステム化していく、これがCTCの「CCW」ソリューションの導入ステップです。

マーケティングPDCAを支援する情報活用基盤導入のポイント

DWHやBIを導入する場合、想定される意思決定シーンや、意思決定の根拠として必要な知見など、「情報活用の目的」と「活用方法」を定義することが重要です。

マーケティング・プラットフォームとして情報活用システムを導入する場合にも、同じことが言えます。まずは、「施策の精度を向上させるためにはどのような仮説・検証が必要なのか、どのような意思決定が必要なのか」を定義します。

さらに、仮説の根拠として必要な知見を整理し、「必要な情報は何か、足りない情報は何か、どのような分析方法が必要か、データの確保方法は何か、どの粒度、どの期間のデータを用意すべきか」を定義します。

収益を上げる施策を決定できる情報分析基盤こそが、ROI(Return On Investment)を最大化する情報分析基盤になります。

前回のテーマにもなりましたが、マーケティング・プラットフォームの製品選定で失敗しないコツの1つは、「提供すべき分析方法・活用方法が定義されていること」です。Webキャンペーンを実施する部門、キャンペーンを企画してダイレクト・メールを送付する営業店、優良顧客の定義を検討するマーケティング部など、それぞれの部門ごとに情報活用の目的、提供すべき分析方法・活用方法を定義し、提供すべき機能とコストから、適切な製品を選択するべきです。

加えて、全体を通して言えるポイントをもう1つ述べます。マーケティング・プラットフォームとしての情報活用基盤には、高い柔軟性が求められます。さまざまな仮説をトライ&エラーで分析する必要があります。少々視点の異なる仮説を検証しようとするたびにデータ・マートを都度構築しなければならないようなITインフラは不向きであり、さまざまな分析要件に柔軟に対応できる高速なDWH基盤が必要です。

次ページでは、マーケティング施策の先進ユーザー事例を紹介しつつ、情報活用システムを構築するための製品/サービスに求められるポイントを解説します。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 ソリューション営業3部DWH/BIソリューション課 課長
国立音楽大学卒業後、伊藤忠テクノサイエンス(株)(現:伊藤忠テクノソリューションズ)入社。データベースエンジニアとして、プリセールス、教育、チューニングなどを経験後、DWH/BI製品を担当。流通・サービス業・通信業など各社のビジネスインテリジェンスシステムの導入・構築を経験。現在にいたる。

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