DWHの定着化とBICC、活用促進

2010年3月31日(水)
長谷川 武
定着化の難しさ

旗振り役の「情報活用推進委員会」

ベスト・プラクティス(効率的な営業手法など)は、個人のスキルにひも付いています。このため、ベスト・プラクティスを会社に提供してもらうことは、多くのスキルを持っているベテランの人ほど抵抗し、実際に行うのは難しくなります。

ベスト・プラクティスを提供してもらうためには、スキルを提供してくれる人たちに十分なインセンティブ(対価)を感じてもらう必要があります。このための仕組み作りが必要ですが、この点については、またの機会に説明したいと思います。

今回は、ベスト・プラクティスを収集し、十分なノウハウが組み込まれたDWHができたと仮定します。

それでも、情報系システムが変更されると必ず、BPR(業務プロセスの再構築)が生じ、DWHの導入による社内的な混乱・不安が生じます。この現象をネガティブ・インパクトと言います。

筆者も以前、社内的な混乱・不安を抱えたユーザー企業から、DWH定着化の依頼を受けたことがあります。エンドユーザーにヒアリングすると、いくつかの消極的なコメントが返ってきました。

そこで、「情報活用推進委員会」(以下、委員会)を設置しました。大層なネーミングですが、そのくらいインパクトがあって目立った方がよいのです。

メンバー構成は組織の事情によって異なりますが、「IT部門+ユーザー部門(数人を選抜)」というケースが多いです。

リーダーには、声が大きい、力のある役職者を据えるのが理想です。また、利用部門からできるだけITに明るい人に加わってもらうことも重要です。利用部門は忙しいので、新人を送り込みたがりますが、BPRをともなうことを利用部門のリーダーに納得してもらい、中堅クラスで業務フローを熟知している人を選出してもらいます。

委員会を成功させるコツの1つは、収益を上げている部・課に目を付けて仲間に入れることです。そうした部門の人は忙しいので、DWHにあまり関心を持ちません。しかし、その部・課に協力してもらえれば、ノウハウの集約になるだけでなく、他部・課もこぞって優秀な人材を出してきます。

委員会が取るべきアクションは、大きく以下の4つに分かれます。

【コミュニケーション】

いつでも対応してもらえる安心感と、人的ネットワークの形成

【トレーニング】

段階的にシステムを使いこなせるメニューの作成

【目標設定・効果検証】

評価する項目を段階的に設定し、システムによって何が変わったかを検証

【マニュアルの作成】

エンドユーザーが理解できる平易な操作マニュアル

この4つの対応策によって、新システムの「操作の理解不足による不安感」や「業務の標準化(今まで各人がばらばらにやっていた分析などの集約)に対する抵抗感」が無くなります。

委員会のメンバーには、この4つのアクションを実践してもらい、理論武装したうえで、各自の部門に戻ってDWHの伝道師役になってもらいます。

情報活用推進員会から分析専門集団へ

委員会は、エンドユーザーのDWH活用を促進する組織ですが、ユーザーのニーズや使い方の相談を受けているうちに、業務ノウハウとBI(Business Intelligence)分析ノウハウの両方が蓄積されていきます。

委員会の中心となっているIT部門は、これまでは「基幹系システムを運用監視している重要な部門だが、収益を生みだす部門(プロフィット・センター)ではない」と思われていました。

しかし、企業の重要なデータは、常にIT部門の手元にあります。しかも、それらのデータはリアルタイムに更新されています。このように企業の心臓部を掌握している部門は、IT部門のほかにはありません。

さらに、経営企画、営業部、マーケティング部、総務部、人事部などのあらゆる部門からそれぞれのニーズをヒアリングして、こうした各部門にデータを提供している部門も、IT部門以外にはありません。

委員会とIT部門は、DWHの定着が進むことで、「ユーザーのニーズをくみ取り、情報として加工して提供する」ことや「統計解析を用いて何かしらの仮説を立て、ユーザーに提供する」といったことが多くなります。こうなると、さらに相談されることが多くなり、あらゆる分析を依頼されるようになります。

こうして、IT部門から生まれた情報活用推進員会は、次第に分析専門集団へと昇華していきます。

次ページでは、分析専門集団をさらに進めた組織について解説します。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 ITコーディネータ
大手ソフトハウスでのPM経験を経て、1997年より伊藤忠テクノソリューションズ株式会社に所属。以来ずっとDWH・BIを専門にプリセールス、要件定義から定着化まで業種・業態を問わず、10年以上全国延べ600社・700部門の企業の経営者、管理者、担当者の方とお会いし、幅広くコンサルティングを行っている。

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