リッチ・クライアントの胎動と現在

2010年4月2日(金)
永井 一美

リッチ・クライアントとは

Webブラウザ+HTMLの操作性の悪さを改善する方策として登場したのが、「リッチ・クライアント」です。簡単に言えば、「WebシステムとC/Sシステムの良いとこ取り」をしています。Webの良さである、“サーバー集中型によるクライアント管理コストの削減”を実現しながら、C/Sシステムと同様の“高い操作性”を実現するものです。

アクシスソフトがリッチ・クライアント製品「Biz/Browser」の設計を開始したのは1998年のことですが、製品カテゴリとして「リッチ・クライアント」という用語が定着したのは、2003年頃からでしょう。現在では、「RIA(Rich Internet Application)」とも呼ばれています。

リッチ・クライアントの代表的な製品としては、Biz/Browserのほかに、米Adobe Systemsの「Flex」「AIR」、米Microsoftの「Silverlight」、米Curlの「Curl」、米Nexaweb Technologiesの「Nexaweb」などがあります。

Biz/Browser誕生秘話

ここで少し、Biz/Browserの誕生秘話を紹介させてください。実は、Biz/Browserは、Webブラウザ+HTMLによる操作性の悪さを改善するために生まれた製品ではなく、これとは別の発想から産声を上げました。

当時、アクシスソフトの技術者の1人は、以下の2つのシステム開発案件を同時に抱えていました。

  1. 実験データ管理システム(HTMLベース)
  2. 販売管理システム(VB+RDB)

HTMLベースのシステムは、WebブラウザがNetscapeで、クライアント機がWindows/SPARC Solaris/HP-UX/AIXの混在環境でした。クライアントOSごとに文字コード(シフトJIS、EUC、Unicode)もフォント環境も異なり、日本語を表示するだけでも大変で、そのうえNetscapeの挙動もOSごとに異なっていました。

このため、UI(ユーザー・インタフェース)の実現に苦労しました。しかし一方で、クライアント・ソフトを配布する必要がなかったため、遠隔拠点をまたいだ運用は容易でした。UIについては、そもそもHTMLの限界があるため細かなことは要望されず、開発時によくあるUIの細かな仕様変更が多発することはありませんでした。

VB+RDB(Visual Basicで作成したGUIベースのデータベース・クライアントと、リレーショナル・データベース・サーバーとの組み合わせ)の方は、UIの実装こそVBによって容易に実現できましたが、ユーザーの細かい要望に答えるために仕様変更/手戻り作業が多発し、結果としてコンポーネント(部品)の安定性や性能に苦労しました。

VB+RDBではまた、ある拠点を中心に20カ所ほどの支店にまたがるネットワークの構築/運用にも苦労し、さらに、RDBのリモート接続機能を使うことによってライセンス費用が高額になり、そのしわ寄せがアプリケーション開発費用に影響したため、営業面でも苦しいプロジェクトとなりました。

HTMLベースとVB+RDB。これら2つのシステム開発案件を同時に手がけた技術者は、以下のような思いを持つこととなったのです。「UIは、VBのように簡単に構築したい。通信は、HTTP+HTMLのようにシンプルなものがいい。こうした開発環境が欲しい」と。

この技術者は以前にExcel風の表計算ソフトを開発した経験から「プログラミングをすることなく、実用的なUIを表現でき、必要な計算処理を実行し、結果の印刷までできるソフトがあったら素晴らしい」と考えていました。

この考えをベースにしながら、上記の2つのシステム開発経験をきっかけに発想したのが、「Excel+HTTP」です。これが、Biz/Browserのベースとなっています。時は、1990年代後半。Biz/Browserが製品として顧客を獲得するのは、ずっと先のことです。

次ページでは、リッチ・クライアントの現在と今後の動向を解説します。

アクシスソフト株式会社 代表取締役社長
SI会社においてOS開発、アプリケーション開発、品質保証、SI事業の管理者を経て、ソフトウェア製品の可能性追求のため、当時のアクシスソフトウェアに入社、以降、一貫して製品事業に携わる。2006年より現職。イノベータであり続けたいことが信条、国産に拘りを持ち、MIJS(Made In Japan Software consortium)にも参加、理事として国産ソフト発展に尽力している。

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