開発ツールの導入とライセンス管理
プロジェクト内でのツール導入に関する問題
プロジェクト単位でツールを導入する場合に問題となるのが、購入するライセンスの数です。ツールには、毎日使う作業のベースとなるもの、ときどき使うもの、いざというときに使うもの、があります。
毎日使うツールについては、当然開発者数分のライセンスが必要になりますが、開発者数が変動する場合が問題です。緊急対応で人員を強化する際に、ツールも追加で購入してしまうと、一時的なライセンスで使い捨てになってしまいますし、人員コストにツール・コストが上乗せされて、ますますコストが膨らみます。
このようなケースでは、一時的に利用できる期間ライセンスがあれば、コスト削減につながるかもしれません。しかし、一般的に、期間ライセンスは、ある程度の期間使うと購入したのとあまり変わらない料金になってしまうので、限定的に用いるべきかもしれません。また、開発ツールなどでは、そもそもこうした期間ライセンスを用意していない場合があります。
ライセンスをプロジェクト所属型ではなく、プール型にすることで、一時的な需要に対応することもできます。ある企業では、社内で利用するライセンスを管理部門で一括購入して、各開発プロジェクトへの割り当てを行っています。もちろんプロジェクト側で個別に購入するツールもありますが、共有ツールで調達できるものは、これを利用することでコスト削減を図っています。
ただ、このようなケースでも悩みはあります。
最近、オンラインで使用者の登録を行うツールが増えてきました。その場合、利用者が変わると、再度登録を行わなければなりません。使用者の変更などの手続きが煩雑になるといった問題もありますが、管理する側からすれば、以前の使用者が確実にツールの使用を終了していることを確認するすべがなく、ライセンス違反をしていないかどうか常に気にかけていなければならなくなります。
先ほど言ったように、ソフトウエアのライセンスはあくまでも使用権であり、物理的なパッケージを返却したらOKというわけではありません。使用権を返却したユーザーが完全に使用できなくなる仕掛けがないと、コンプライアンス上問題になる場合もあるでしょう。
グループ会社や協力会社などがプロジェクトにかかわってくると、問題はさらにややこしくなります。プロジェクト用に購入したライセンスをプロジェクト・メンバーであるグループ会社や協力会社が使用することについては、問題がないように思えますが、もし、社内のプール型のライセンスを利用してもらおうとすると、ライセンス管理上の問題が出てきます。社内ユースのライセンスを、協力会社まで広げてしまっていいものでしょうか。
一般的に、ライセンスの利用範囲についての規定は、ツール・ベンダーによって異なります。ただ、いずれの場合も、ライセンスを管理不能な状態にしてしまうわけにはいきません。このためか、高コストであってもプロジェクト専用ライセンスだけを使う傾向にあるのでしょう。でも、それが原因で高コストになり、技術者が必要とするツールを導入できないとすれば、釈然としませんね。
標準化におけるツール導入の問題
標準化を推進する場合はどうでしょうか。標準化といえば、ある程度のコストをかけてツール環境を整えることができそうですが、実際に、社内全体にツールを導入させるのは大変です。
ツールを使って標準化を推進しようとしたときに障壁となるのが、ツールの利用環境です。社内全体で「ツールを(標準化の)仕掛けとして」標準化を行おうとすると、かなりの数のライセンスを用意しなければなりません。そして、ツールの導入が標準化推進の前提であるにも関わらず、ツールの導入がすなわち標準化の完成ではないため、ツールの導入効果を計りがたい、という問題もあります。
しばしば、ツール導入で頓挫してしまうのは、それを導入したらどれだけ効果が上がるのかといった「相対価値論」が原因です。ツールを前提に標準化を考えている立場からすれば、ツールなしだとどれぐらいの効果が出て、ツールありだとどれぐらいの効果が出るのかといった比較はできません。でも、決済する立場からすれば、あったときとなかったときという単純な比較を求めたいわけです。
ツールには、(a)なくてはならないもの、(b)あると便利なもの、(c)あることによって別の価値が得られるもの、の3つがあります。これらを混同して、単純に「あるなし」比較をしてしまうと、何のために導入を検討しているのか、わけが分からなくなってしまうでしょう。
標準化では、それがあることによって別の価値を得るような部分をツールに期待します。ただ、こうしたツールの需要は、開発の基本作業をサポートするツールのように毎日頻繁に使うものではないことが多く、ツールのライセンスが相対的に高価であると感じられます。
新たな価値を得るための投資といえば聞こえはいいですが、実際には、利用者数を最小限に絞ってコスト削減をするべき、という意見に対抗できません。何かよい方法はないでしょうか。