既存システムをモバイル化するポイント

2010年5月14日(金)
アイエニウェア・ソリューションズ株式会社

モバイル化のためのノウハウが必要

ビジネス環境へのモバイル・システムの実装は、成功すれば業務効率が格段に上がりますが、失敗しやすいことも事実です。失敗の原因はさまざまですが、もっとも大きな原因の1つを挙げるとすれば、それは「モバイル化ノウハウの欠如」と言えます。

モバイル化の導入で障害となる要素の1つが、「既存システムとの連携をどのように行うか」という点です。ここで、モバイル・システムに対するノウハウもなく単純に連携させればいいと考えてプランを立ててしまうと、完成後に「レスポンスが悪い」「データの不整合が起きる」といった運用上の問題が発生し、かえって効率を落とすことになりかねません。

もともとモバイル・システムのクライアント端末を想定していない情報システムに組み込むのですから、システム全体を見渡し、問題になりそうな部分(ツボ)を押さえて設計する必要があります。

では、モバイル・システムを成功させるノウハウはどこにあるのか。1つは、システム設計の最上流で行う業務フロー設計と要求仕様策定のフェーズにあります。このフェーズの主役は、あくまでも利用者であるエンド・ユーザーです。適用分野ごとの留意点をきちんと踏まえつつ、モバイル・システムを想定した業務フローや処理フローを検討していくことが不可欠です。

もう1つは、既存システムの状況を踏まえたうえでの、ユーザーの要求仕様に基づいたモバイル・システムの設計・開発フェーズです。このフェーズはプロの領域であり、モバイル・システム構築の専門的なノウハウを持っているシステム・ベンダーやシステム・インテグレータ(SI)の力を借りることが不可欠です。

何度も言うとおり、モバイル・システムには、通常とは異なるノウハウが要求されます。このため、「大手SIに任せれば安心」といったことにはなりません。SIベンダーのネーム・バリューよりも、過去にモバイル機器を使ったアプリケーション開発経験があるかどうかや、モバイル・システム向けのミドルウエアやデータベース製品などを扱った経験が豊富かどうかで判断することが重要です。また、一言でモバイル機器と言っても、オープン・プラットフォーム系の経験があるかどうかが重要です。

設計のポイント

設計のポイントについて、いくつか触れます。

一例として、CRM(顧客関係管理)システムを構築する際のポイントの1つに、「レスポンスを考えて1画面に情報を押し込まない」ことがあります。例えば、膨大な顧客情報をすべて表示させるのではなく、必要なタイミングで必要な情報だけを表示させることが大切です。

モバイル機器側では、多くの場合、画面サイズが限定されます。限定された画面に情報を押し込んでしまうと、当然、画面をスクロールさせる必要が生じ、それだけ操作が煩雑になります。また、情報量が多くなれば、データをダウンロードする時間も長くなり、無駄な待ち時間が発生するだけでなく、(端末のスペックにもよりますが)表示速度が遅くなるなどの弊害も生まれるでしょう。

入力項目に関しても、表示スペースの都合上、10個程度が上限となるでしょう。入力項目は、少ないに越したことはありません。

スクロールのしやすさも重要です。モバイル機器によってはスクロール操作が難しいものもあるので、一度に表示しきれない画面は、スクロールではなく「ページをめくる」ような操作で画面を切り替えて使うことが良いと思われます。この場合でも、ページをめくる回数が少ないに越したことはありません。

現場担当者が嫌がるこのような事態を避け、システムを効率的に運用していくには、情報を押し込まず、必要な情報だけを提供するように設計する必要があります。例えば、あるシステムでは過去3回分の購買履歴があればよいことがわかっていたので、持つデータは過去3回分の購買履歴に絞りました。

また、サーバーのデータをモバイル機器上のデータベースに反映するタイミングを見極めることが重要です。購入履歴の場合、夜間に通信を行ってデータを同期させておけば、開店時には前日までの最新情報が参照できます。一方、顧客の購入回数や購入量などは、商品・店舗・顧客の特性によって、フレキシブルにデータ同期のタイミングを設定すべきでしょう。

次ページでは、オフラインでローカルDBを利用するという、オフィスのPCには見られない、モバイル機器に特有のシステム・アーキテクチャについて解説します。

著者
アイエニウェア・ソリューションズ株式会社

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