Flashはなぜ嫌われるのか
Webサイトは「目的」ではなく「手段」
ユーザーがWebサイトを通じて何らかの目的を達成したいと思うとき、Webサイト自体(あるいはその中に組み込まれているFlashアプリケーション)は、あくまでも「手段」にすぎません。あらためてこのことを強調しておきたいのは、Flashクリエーターの方々はしばしば、「かっこいい」「美しい」Flashアプリケーションを「作品として」つくることを「目的」にしてしまいがちのように見受けられるからです。
ユーザーにとっては、あくまでも自身の目的(情報を得る、サービスを受ける、モノを買うなど)をスムーズに達成することが最優先事項なので、そのUI(ユーザーインターフェース)がFlashアプリケーションかどうかというのは、ある意味「どうでもいいこと」だったりするのが現状です。
この事実は、Flashクリエーターにとっては少なからずショッキングかもしれませんが、筆者自身がこれまでかかわってきた数々のユーザビリティ改善プロジェクトの中で実施したユーザーテストで得られた知見(ユーザー行動の例)は次のようなものでした。
まず、ユーザーインターフェースが、Flash「だから」よかった・満足したというユーザーは、限りなくゼロでした。もちろん、Flashアプリケーションの「作り方」次第では、ユーザーエクスペリエンスを高めることはできるかもしれませんが、単にFlashを使っているというだけの理由では、ユーザーを引き付けて満足させることはできません。
次に、Flash「だから」というだけで反射的に嫌悪感を感じ、すぐにスキップ(skip)をクリックするユーザーは案外多いです。スキップするためのクリック個所が瞬時に見つからない場合、ユーザーはいらいらした反応を見せます。
補足になりますが、ユーザーテストとは、ユーザビリティ評価手法の1つです。ユーザーに、評価対象となるWebサイト(またはそのプロトタイプ)を使ってもらい、そのユーザーの行動を観察することで、さまざまな問題点を発見することができます。また、ユーザーエクスペリエンスとは、ユーザーがWebサイトを通じて得られた体験が有意義だったか(うまくいった、面白かった、心地よかった、熱中した、など)を評価する価値基準です。
Webサイト運営者とユーザー間のギャップ
上記のようなユーザー行動の例がある一方、Webサイトを新規で立ち上げたり、リニューアルしたりする際の、Webサイト運営者(クライアント企業)における制作会社選定(コンペ)の場などでは、Flashを使ったWebサイトデザインの方が評価が高い、というケースがよく見られます。
クライアント企業にとっては、Flashを使ったWebサイトの方が、かっこよくて美しくて、魅力的に見えるからでしょう。このような評価はしばしば、予算を握っているマネジメントクラスによって最終的には下されますが、残念ながら彼らには、「マーケティングツールとしてのWebサイト」という視点が欠けていることが往々にしてあるようです。
このため、上記に挙げたようなユーザー行動とのギャップが埋まらず、せっかく高いお金を払ってFlashでかっこいいWebサイトをつくっても、ユーザーに満足してもらえないケースが後を絶たないわけです。
今までは、こうしたクライアント企業側の「無知」につけ込んで、うまいこと受注していたクリエーターの方も少なくないことでしょう。ただし筆者はここで、プロフェッショナルなクリエーターの皆さんに「Webサイトというのは、最終的には誰のためのものですか?」と問いかけたいと思います。Webサイトがユーザー自身の目的を達成するための「手段」であることを考えれば、当然、ユーザー(クライアント企業にとってはお客さま)の利便性を第一に考えなければならないはずです。
今はまだそれほどではないかもしれませんが、早かれ遅かれ、Webサイトの費用対効果が今後シビアに求められるようになると、クライアント企業側の意識も変わってくることでしょう。これまで、クライアント企業の「無知」にあぐらをかいていたFlashクリエーターは、要注意です。