洞察力を高めるフェルミ推定

2008年10月15日(水)
坂田 祐司

今、ビジネスでフェルミ推定が求められるわけ

 現在、「フェルミ推定」がビジネスの現場に必要な「考える力」の基本となる手法として注目されています。フェルミ推定は正確な値を算出することが困難な、大きな物理量を少ない情報量から短時間で概算する考え方です。この手法は20世紀のもっとも偉大な物理学者の1人といわれる、エンリコ・フェルミにちなんだものであり、彼がシカゴ大学で教鞭をとっていた際、学生たちに実際に問うた「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」という問いが典型的な問題として知られています。

 「フェルミ推定」は20世紀前半にはフェルミがすでに用いていたわけですが、なぜ今、注目されているのでしょうか?

 1つの理由は、マイクロソフト社やグーグル社、多くのコンサルティング会社の入社試験で、この考え方を用いる問題が出題されていることです。例えば、「富士山をどう動かしますか?」などという問題が出題されており、考える力が重要とされる会社では以前から「フェルミ推定」を使った考え方が要求されていました。そして、最近ではこの考え方ができる人がビジネスのいたるところで求められるようになったということです。

 なぜ、今ビジネスで求められるのでしょうか?そもそも、「フェルミ推定」は、どう推定してよいかすらわからないよう壮大な事象の物理量を見積もるための考え方です。例えば、図1に示す「銀河系に存在し人類とコンタクトする可能性のある地球外文明の数」を推定するドレイクの方程式(Drake Equation)は、この考え方が利用されて導かれたものです。

 地球外文明の数の見積もりほどの規模には至らないまでも、現在のビジネス環境におけるプロジェクトは、大規模な事象に関する数字を扱う必要があります。このことは現状のビジネスが、不確実性・不透明性を増したため把握すべき事象の範囲が空間軸においても時間軸においても広がったためでしょう。

 大きな原因の1つはインターネットの発達です。インターネットで提供されるサービスは、その利用者の数が予測困難であり、激しい競争により提供すべき機能を目まぐるしく進化させなくてはなりません。

 このようなサービスの提供者や開発者は、多くの競合、多くの顧客、多くの機能、そしてそれらの頻繁な変更についての把握が必要です。しかし人間の思考能力には限界があるので、このような「膨大な事象」の把握にはそれらを大局的に「1つの事象」として扱い、それを何らかの観点で分解し推定するという思考が必要です。そして、これらを短時間で少ない情報から計算できることが重要です。このような概算を少ない作業で見積もることがビジネスでは重要なのです。

SI企業の研究所においてソフトウエア工学の研究に従事。試験やプログラムの解析技術に興味を持ち研究に従事。研究の一方、ソフトウエアのライフサイクル全般を考慮した開発方法のあるべき姿を探っている。http://d.hatena.ne.jp/ysakata

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