リーダーシップなくして生産はなされない

2008年10月3日(金)
藤田 勝利

そのシステムは本当に社会をよくしているのか?

ここで筆者とドラッカーとの出会いについても少し触れたい。10年前の1998年、筆者は総合商社からコンサルティング会社に転職し、優秀な上司にも恵まれ、仕事に励んでいた。大規模なIT導入プロジェクトなどで主にBPR(Business Process Reengineering)やIT導入前の組織変革を担当し充実感もあった。

しかし、ふと「高価で高性能なITを提案・導入しても、必ずしも会社がよくなっていると実感できないのはなぜか」と考えるようになった。さらに「では、よい経営とは一体何だろう」と考え、ビジネス本を読みあさった。その中でドラッカーの著書に出会い、何か問いに答える大きな手がかりをつかんだ気がした。

そして、2002年にマネジメントを学ぶために、ドラッカーが教鞭(きょうべん)をとっていたクレアモント大学院大学P.Fドラッカー経営大学院MBAに入学した。講義を受講する中で、どの教授もそろって「この考え方が、組織全体のマネジメントにどう影響するか、考えて答えなさい」という種の質問をぶつけてきた。難しい問いではあったが、自分なりに考える中でITや財務・会計、戦略といった「各論」と「組織全体のマネジメント」というテーマが線としてつながっていくのを感じた。

筆者が抱いたたぐいの疑問やジレンマにぶつかったことがある方は多いだろう。こういったジレンマを解決するには、一般的な「プロジェクトマネジメント手法」「プロジェクトマネジメントツール」だけでは十分でないはずだ。本来求められているのは「経営そのものの目的や理想の姿」であり、「このプロジェクトによって経営の目的はどのような形で達成されるのか」という問いへの答えではないだろうか。

組織社会から「プロジェクト経営」の時代へ

ドラッカーは常に組織というミクロからではなく、社会全体の時代変化に100年以上の単位で着目する。多くの仕事や成果が組織を通じて生み出される「組織社会」への移行、さらに土地や設備機械など産業資本がビジネスの成否を分けていた時代から、人間の生み出す「創造性」「知恵」が最大の競争優位になる「知識社会」への移行と、時代の変化はドラッカーの予見どおりに推移している。

さらに晩年、ドラッカーは就労形態の変化につき頻繁に語っていた。つまり、職能型組織の定型的なワークスタイルではなく、会社/部署の別、人種/国籍の別、さらに正社員/パート契約社員の別を問わず、多様なメンバーが協働するワークスタイルである。

今、実際に多くの業務が「プロジェクト」型で遂行される時代になっている。かつては一部の業種に限定されていた「プロジェクト」的な労働形態が、多くの業種や職種で採用されている。自社・顧客向けソフトウェア開発、コンサルティング、販促プロモーション、キャンペーンやイベント、広告制作、Webデザインなど、ほとんどの業務が固定的な組織ではなく「プロジェクト」の中で実行されている。

結果、プロジェクトと経営の距離はますます短くなる。プロジェクトの成功が経営の成功を占う重要な指標になれば、当然プロジェクトマネジャーへの経営的な期待も高まる。

現代において、プロジェクトは経営の「縮図」のようなものだ。実際に、顧客の要望理解や、自社製品の競争優位性把握、戦略的優先順位づけ、メンバーの能力向上など、多くの経営課題が凝縮されているのがプロジェクトである。

プロジェクトマネジャーとして優秀な人は、経営リーダーとしても間違いなく優秀だ。逆に、「自分は1プロジェクトマネジャーにすぎないから」といった発想で、本当に高いレベルでのマネジメント(経営)スキルを学ぼうとしない人は、成長がない。厳しい言い方をすれば、その部下からも成長の機会を奪ってしまう。

実際にシステム開発のプロジェクトマネジャーとして業務を遂行する中で図2に示すような悩みを持たれている方も多いだろう。これらはいずれも「人」「組織」のマネジメントに起因するもので、システム開発の「プロジェクトマネジメント」の問題というよりも「マネジメント」そのものの課題と言える。

では、あらためてドラッカーの言うマネジメントとは何なのだろうか。

エンプレックス株式会社
エンプレックス株式会社 執行役員。1996年上智大学経済学部卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、米国クレアモント大学院大学P.Fドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得(MBA with Honor)。専攻は経営戦略論、リーダーシップ論。現在、経営とITの融合を目指し、各種事業開発、コンサルを行う。共訳書「最強集団『ホットグループ』奇跡の法則」(東洋経済新報社刊) http://www.emplex.jp

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