「自由な生き方」を実現した2人のコミュニティ創始者に聞く、田舎での仕事づくりとは

2018年11月2日(金)
新美 友那(にいみ・ともな)

2018年10月4日(木)、NPO法人グリーンズが主催するイベントgreen drinks Tokyo 「コミュニティで仕事をつくる、自由な生き方」が東京・入谷のSOOO dramatic!にて開催されました。

green drinksはロンドンから始まり、今では世界中の都市で行われている「飲み会ムーブメント」です。そのテーマは「グリーン」「エコ」など様々で、日本ではNPO法人グリーンズが東京のオフィシャルオーガナイザーとして定期的に開催しています。

今回のgreen drinks Tokyoは、千葉県いすみ市でコミュニティに関する仕事をしている2人をゲストに、「コミュニティで仕事をつくる、自由な生き方」をテーマに開かれました。元公務員ライターの新美友那(@inaka_free213)がレポートします!

<ゲスト>
【山口拓也さん(株式会社Ponnuf 代表取締役)】

いすみ市を含む3つの地域でコワーキングスペースを運営し、それぞれのスペースを活用して移住体験型講座「田舎フリーランス養成講座」(以下、いなフリ)を開催するほか、現在では「ぎふとりっぷ」という「体験を贈れる」ギフトカタログを制作中。陶芸・銀細工など15~20店舗の中から好きなものを体験できるというものだ。また、「料理人で選ぶレストラン」を手掛け、フリーランスの料理人や独立を目指す料理人と地元民や観光客、料理人のファンをつなぐ場を目指している。

【目指す社会】
①場所に左右されず、誰もが活躍できる社会…田舎がハンディキャップにならない
②人生の選択肢を広げられるコミュニティづくり…楽しいことがたくさんある
③個人の活躍を最大化できるプラットフォームづくり…コワーキングスペース「hinode」はいすみの仕事拠点となる場

【三星千絵さん(シェアハウス・スペース運営)】

千葉県出身。東京で就職後、20代後半に「自分は田舎が好きなのでは」と思い、いすみ市に移住。今年で移住7年目となる。移住当初に「古民家で何かできないか?」と相談を受けて古民家シェアハウス「星空の家」をオープンし運営していく中で、「もっと気軽に利用できる場を」との思いから、納屋を改装した「星空の小さな図書館」もオープン。結婚・家探しを機に「星空スペース」という寄り合いカフェ&シェアオフィスも運営している。現在、これらの施設・事業をまとめ、夫婦で会社の設立を検討している。

【目指す社会】
「ひとりひとりが望む、仕事と暮らしが見つけられるように。」…一人一人が自分らしい「しごと」と「くらし」を見つけるきっかけづくりの支援をしたい。そんな会社を作りたい。

<ホスト>
【鈴木菜央さん(NPO法人グリーンズ代表)

2010年いすみ市に移住。「月刊ソトコト」での編集を経て独立後、「ほしい未来は、つくろう」がテーマのWebマガジン「greenz.jp」を創刊。また「仕事・暮らし・社会」がつながる生き方を応援する「いすみローカル起業プロジェクト」を行っているほか、いすみローカル起業フォーラム・いすみローカル起業キャンプ・いすみ未来百人会議など、いすみ市を盛り上げる活動に精力的に関わっている。自身が発案したいすみ市発の地域通貨「米(まい)」は困った時のお手伝いやマーケットでの買い物などに幅広く利用されている。

パネルディスカッション
~コミュニティ創始者の頭の中は?~

ここからは鈴木さんがモデレータとなり、山口さんと三星さんに「田舎に移住したきっかけ」をはじめ、田舎での「生活」や「仕事」、「生き方」などについて聞きました。

Q:東京ではなく、田舎を選んだ理由はありますか?

  • 山口:田舎に住む気はなかったのですが、結果的に住むことになったタイプです。はじめは都内で独立しようとしたのですが、都内だと飲みのお誘いとか、誘惑がたくさんありますよね。それが「田舎なら無いかな」と思ったんです。でも実際に田舎へ行ってみたら、その町で飲み会がありました。終電もないしお互いの家も知っているから、断れないんですよね。田舎にいても東京の友達に飲みに誘われれば嬉しくて行っちゃうので、そういう意味ではあんまり意味がなかったです(笑)。
  • 三星:私は東京で会社を辞めて、一人でやっていく自信がなかったので田舎へ行きました。6年勤めた前職の会社では、会社員を辞めてフリーランスになる人もいましたが、「自分にそれができるか?」「家賃は?」「生活は?」と、とにかく自信がなかったんです。そんな中、たまたま地方に目を向けたら、今の半分の家賃で駐車場付きの戸建てに住めるとわかって。そこで「これだけコストがかからないなら挑戦できるかも」という希望が持てました。

Q:山口さんの田舎フリーランス養成講座は、やっぱり田舎だからできるのでしょうか?

  • 山口:仕事はオンラインで獲得するので、収入面では関係ないです。でも、支出面は田舎の方が安いですね。周りにフリーランスの友人がいるのも良いところです。(いなフリ開催地の)金谷やいすみを移住先に選ぶ人は、「田舎だから」というより「コミュニティがあるから」という理由の人が多いです。「コミュニティに移住する」という感じでしょうか。

    移住する人は、もともとのプライベートに「コミュニティ」がなかったんだと思います。金谷やいすみにはそれがありますし、仕事のコミュニティもあるので断然楽しいですね。

Q:唐突ですが、お二人は自由ですか?

  • 山口:仕事を選べるという意味では、自由な気がしています。
  • 三星:東京で会社員をやっていた時よりは自由だと思います。朝起きて何時までに電車に乗って…という縛りもないので。ただ、会社に所属せずに自分で色々と運営していると責任が発生します。それに伴って窮屈になってくる部分はあります。

    田舎って、コミュニティが密なので、どこで何してても大体見られてるんです。「ここで買い物してたよね」とか「○○さんと一緒にいたよね」と言われることもあります。そういった点では不自由さを感じる瞬間もありますね。そういうところを不自由だと思う人は、田舎のコミュニティは合わないと思います。
  • 鈴木:完全なパラダイスはない、ということですね。努力や勉強も必要だし、責任も伴う。二人はそこを続けているのがすごいですね。
  • 三星:私の周りにも自営業やフリーランスの人は多いし、表向きには自由で華やかです。でも、話してみるとみんなよく努力しています。それがない人は、途中でつまずいてしまいがちだったり。田舎はパラダイスに見えるかもしれませんが、長く住んでいる人ほど努力をしてきている方が多いと感じます。

会場からの質問~3人が語るいすみの魅力~

Q:なぜ、いすみを選んだのですか?

  • 三星:私はもともと千葉に住んでいましたし、いすみでは地域にいる人とゆっくり話せた場所だったからです。行政が移住者の受け入れに一生懸命でしたし、会う人はみんな楽しそうでしたね。私が東京で働いていた会社の上司たちは疲弊しきって、「5年後は私もこうなるのか」と思うと寂しかったんです。おばあちゃんになってもこんなに楽しいことってあるんだな、と気づかせてくれたのがいすみの人たちなので、そこに惹かれたのではと思います。
  • 山口:1つは、市役所の方に声をかけられたからですね。コワーキングコミュニティのhinodeは市から場所を借りてるんです。基本的に誘われたら断らないタイプなので(笑)。いすみのことは知っていましたし、市役所の方も親身に対応してくれたので、よりレベルが高いコミュニティに身を置いたら面白そうだと思ったからです。

    もう1つは、自分が身を置く場所を1つに絞る必要はないと思ったからですね。体は1つしかないですが、だからといって1つの場所を選ぶ必要もない。いすみに住んでいるわけではないですが、移住している気持ちでいます。
  • 鈴木:僕もいくつか理由があって、1つは市が移住の受け入れに積極的だったからです。NPO団体の人たちが仕事後なのに案内してくれたり、市役所の方たちも休みの日に対応してくれたり。そうしてシェア別荘に住んでみたら、周りに面白い人が多いとわかりました。

    もう1つは、土地が安いからです。例えば「商売をやってみたい」と思った時に土地が安いとハードルが低いのです。色んなことを始めるのに適していると思います。他にもいろんな点を見たうえで、いすみを選びました。

Q:なぜ、いすみ以外の人も巻き込んでいきたいのですか?

  • 山口:人が増えたほうが面白いからです。それに尽きますね。今ではバスケもできる人数になって、もう3チームあります。
  • 三星:私もそう思います。いろんな人が増えると、楽しいことも増えていきますよね。いろんな人と出会いたいですし。かつての私はこういったことを知らなかったので、「目の前にある毎日のこと」が全てだと思っていたんです。一つうまくいかないと「もう人生ダメかも…」と落ち込んでいました。「色んな世界があるよ」ということを他の人に知ってほしいというのもあります。
  • 鈴木:僕もお2人と同じ意見ですね。

Q:地域通貨「米(まい)」の仕組みはどうなっているのでしょうか?

  • 鈴木:「米」には中央銀行がなく、A4の紙を8つ折りにして作った通帳で管理しています。通帳は誰でも発行できるので、会員の人にコピーしてもらって、30分くらい説明を受ければ使えるようになります。
    例えば、レストランの人が食材をたくさん仕入れたのに、お祭りの日と被って料理がたくさん余ってしまった…という時に、「200米で買えます」とFBで宣伝すると、お客さんは通帳に貯まっている「米」と引き換えに料理がもらえます。引き換えるとき、お互いの通帳に+200、-200と書いてサインをすれば取引完了です。残高がマイナスになっても良いし、現金と併用もできます。全員の通帳が0米から始まるので、全員の通帳を足すとゼロになります。

    遊びのような制度ですが、米があることで誰かを助けたり、可能性を広げたりできますよね。米を使った貸し借りでものを買わなくてよくなるなど、色んな意味で生活にプラスが生まれます。自然とお互いに良いことをしたくなるので、ぜひ移住して体験してください。

Q:地元の方とのうまい交流の仕方はありますか?

  • 三星:それは、移住当時からすごく考えてやっていたことの1つですね。いすみ市内でもオープンなところとクローズなところがあると思います。私はまず、市役所の職員さんなど自分と接点のある人に「この集落は誰に挨拶に行けばいいか」を聞きました。でも1人で行くと「若造がいきなり来て…」と思われるだろうから誰かと一緒に行ったり、シェアハウスの説明内容も「1人じゃ住めないので友達と下宿みたいなことをしています」と、わかる言葉に変えて伝えたりする工夫をしました。

    地元のコミュニティは受け継がれているものなので、よそ者が入ってくることに抵抗を持たれます。でも、コミュニティの根っこは人と人の繋がりなので、こちらから歩み寄れば嫌な顔する人はいません。若い人がいない地域だし、仲良くするメリットもわかってくれているんです。「にぎやかになるのは良いことだよね、お祭り手伝ってくれるんだったら嬉しいよ」とか。そうやって、お互いにできなかったことができるようになるので、地域の人も協力的でオープンに受け入れてくれると思っています。

    今、夫は消防団に入っているんですが、そのつながりで地元の若い人たちと交流できるようになりました。焦らずゆっくりと、段階を踏んでいくのが大事だと思います。
  • 山口:私も大体そんな感じです(笑)。
  • 鈴木:私の言いたいことも、今のお話しに全部含まれています(笑)。

※ ※ ※

人と人の繋がりや新しい通貨など、様々な可能性を秘めたいすみ市。会場には定員を大きく超えた約50名が集まり、いすみ市役所の担当者も駆けつけていました。いすみのお米で作ったおにぎりが振る舞われ、移住を検討している方やコミュニティに興味のある方など、活発な交流が行われていました。

いすみ市は新宿から電車で2時間程度。自由な生き方をお探しの方は、いすみ市を訪ねてみると新たな発見があるかもしれません。

著者
新美 友那(にいみ・ともな)
元公務員ライター・編集者
法政大学卒業後、5年間の都内市役所勤務を経てライターへ。 取材を中心に活動。 主な執筆分野は転職・アラサー女子・アニメ・料理。FMラジオ出演・ライティング講師の経験あり。イベント登壇やオンラインでの転職相談も行っている。ブログ:元公務員ライター 新美友那のブログ Twitter:@inaka_free213

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