「人間×センサー」で進化する組織!
情報技術とセンサー情報
ここからは、この新しいセンサー情報技術の説明を順追って説明していく。具体論に入る前に、大きな流れについて述べる。
センサー情報が変えるのは、情報技術の根幹となる基本モデルである。従来の情報技術が価値をもたらすモデルは、作業の自動化とそれによる省力化や時間短縮である。その基盤は、1911年にF.W.テーラーにより発表された「科学的管理法」にさかのぼり、複雑に見える作業も、要素に分解すれば単純な工程の組み合わせとなり、その多くは機械やコンピュータによって少ないコストで短時間に遂行できるというモデルである。
しかし、21世紀に入り、イノベーションなどの省力化を越える経営への期待が高まり、その模索が始まっている。この新しい情報技術においては、既に起きつつある3つの変化が鍵となり、センサーがこれまでにない大きな役割を果たす。
3つの変化とは
1つ目の変化は、コンピュータの小型化が次の段階へ進むことである。携帯電話は約100ccのコンピュータであるが、次の飛躍としてその100分の1の「1ccコンピュータ」が期待される(図2)。この時「意識しない」という価値が生まれる。これは1ccという大きさでは、キーボードによるデータ入力が不可能となるため、センサーが自律的に情報を取り込むことが必然となるからである。つまり、意識しなくとも、センサーがITへの情報の入り口になる。
2つ目の変化は、「ダウンロード型」から「アップロード型」へのシステムアーキテクチャの変化である。従来のインターネットでは、サーバーから端末へのダウンロード方向のデータの流れが主流であったが、上記「1ccコンピュータ」としてのセンサーノード、RFID、カメラなどの入力手段の発展により、アップロード方向の実世界データが急速に増える。
現在でも、検索サイトにおける検索キーワードのアップロードが大きな経済的価値を生んでいるが、実世界の状況を集めるセンサー群からの大量データのアップロードが生む経済価値はさらに大きくなる。この意味で「サーチエコノミー」は、より大きな「センサーエコノミー」の序章と位置づけられる。センサーは、今後の情報経済の価値の源泉となる。
3つ目の変化は、「省力化から知覚化へ」と呼ぶ、「情報技術と人間との関係」の変化である。
ドラッカーは、『明日を支配するもの(上田惇生訳,1999)』の中で、「20世紀最大の偉業が、製造業における肉体労働の生産性を50倍向上したこと」であり、「21世紀に期待される偉業は、知識労働の生産性を同様に向上すること」と述べている。20世紀の情報技術の役割が自動化であったのに対し、21世紀は知識労働の革新に移る。
新たなセンサー情報は、人間の知覚の価値を高める。知識労働においては部分の総和は全体ではないため、作業を分解して、コンピュータで置き換えることができない。論理を基盤とするITと、知覚を基盤とする人間との関係は、20世紀には、論理が知覚と相反する「対立型」であった。21世紀にはITがセンサー情報を取り込むことで、人間の知覚との「相乗型」に移らねばならない。この相乗効果を「人間×センサー」と呼ぶ。
「相乗」「人間×センサー」の具体的特徴として、ITシステムに人の「メンタルモデル」が重要な要素として登場する。これが「知覚化」と呼ぶ理由である。メンタルモデルの重要性は、消防士からCEOまでの幅広い業務の意志決定において認識され始めている。
メンタルモデルとセンサーとの連動は、一足先にライフサイエンス分野で重要性が認識されている。例えば、体重計というセンサーの役割は、自らの生活行動と体重との関係のメンタルモデルを生みだし、その結果として行動を変えることである。ITにおいてもセンサーから得られる多様な「兆候」とメンタルモデルが相互作用し、これが社会や組織の行動を変える。