ローマン体を知る
オールド・ローマン
オールドローマン体は、16世紀初頭から18世紀にイタリアを発祥としてフランス、オランダ、イギリスへと広まっていきました。
代表的な書体として16世紀フランスのクロード・ギャラモン(1500?-1561)によって作られた「Garamond(ギャラモン)」、18世紀にイギリスのウイリアム・キャズロン(1692-1766)によって作られた「Caslon(キャズロン)」などがあります。
ここでは、オールド・ローマン体の前期代表格としてあげられる「Garamond(ギャラモン)」について紹介します。
オールド・ローマン体の1つギャラモンは、イタリアのルネサンス様式が、約20年後に、フランスへ流れてきたことをきっかけにクロード・ギャラモンの手によって作られました。フランス・ルネサンス様式を背景として、フランスらしい優雅と洗練さを併せ持つ書体と言えるでしょう。現在でも大変人気のあるこの書体は、長い歴史の中で数奇な運命をたどってきました。
クロード・ギャラモンは16世紀当時、活字彫刻師として自身の工房を持ち活躍していましたが、彼の死後は工房は無くなりギャラモン活字は売却され、各地に流れていきました。このことをきっかけにギャラモン活字は、それぞれの土地で改刻を繰り返し、系統として別れていったのです。
ギャラモンの流れを大きく分けると、まずギャラモン工房から活字が売却され、各地に分散していったのが1つです。
そしてもう1つの流れとして、18世紀ギャラモンという書体名で、フランスに広く浸透していたのは、クロード・ギャラモンのオリジナル活字ではなく、全く関係のないスイス人のジャン・ジャノン(1580-1658)の書体だったことが後に判明しています。
ジャノンの書体は、歴史の中で誤解が生じ、いつの間にか人々にギャラモンと呼ばれるようになったようです。このような歴史的背景から現在では、「Garamond(ギャラモン)」の流れをくむ、異なる形状の活字が多数存在しています(図2)。
まず、正統派のギャラモンとして、ドイツのステンペル社から発表された「Stempel Garamond(ステンペル・ギャラモン)」があります。この書体はドイツ風ギャラモンとも呼ばれ、角張った硬質なラインが特徴です。
次に、アメリカのインターナショナル・タイプフェイス社からジャノン系ギャラモンとして作られた「ITC Gramamond(ITC ギャラモン)」です。ジャノン系の特徴は、オリジナルよりも丸みを帯びていて、よりフランスらしい女性的な洗練さを備えています。
また正統派ギャラモンとして、ベルギーのプランタン・モレトゥス美術館に保管されているギャラモンの見本帳を参考に分析し作られた、Adobe社ロバート・スリムバックの復刻による「Adobe Garamond Pro(アドビ・ギャラモン・プロ)」があります。
現代によみがえるオールド・ローマン体「サボン」
1960年代に活版印刷技法の変化にともなって、クロード・ギャラモンの流れをくむオールド・ローマン体は、仕様や形状が分散されたため、活字を統一する復刻を求められていました。そしてその依頼に答えたのは、当時イギリスのペーパーバックス「ペンギン・ブックス」のアートディレクターだったヤン・チヒョルトでした。
チヒョルトは1592年に発行された「エゲノルフとバーナーの活字書体見本帳」を元にして、1960年代にライノタイプ、モノタイプ、ステンペルというヨーロッパを代表する印刷機のすべてに適合した技術仕様で、1967年に「Sabon(サボン)」を作りあげました。サボンは現在でも汎用性の高い名作として広く浸透しています。
そして、21世紀になりライノタイプ社からデジタルフォントの高品質を目的とした、チヒョルト版ギャラモン活字の復刻「Linotype Sabon Next(ライノタイプ・サボン・ネクスト)」が、2003年にリリースされています。
このようにして16世紀に生まれた、ギャラモン書体は国境を越え、それぞれの時代に求められる形でデザイナーたちに愛され、進化を続けています。
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