これが進化する組織力だ!

2008年12月8日(月)
矢野 和男

組織が変わった

 今回は、センサーが起こす変化についての具体論を紹介する。まず、「本当の組織力が生まれる」をテーマに物語の第2話をお届けする。これも、新製品開発の現場で起きた本当の話である(人物名、団体名などはすべて仮名)。

第2話:本当の組織力が生まれる

 マネジャーの日高さんは、ベータカスタマーのA銀行と密着して、システムAB-1の新バージョンの開発を進めていた。仕様も固まり、開発も順調に進んでいた。

 そんなある日、A銀行の担当者よりメールが届いた。ただならぬ雰囲気に急ぎ電話をすると、開発中システムの報告会にて「コミュニケーション支援機能を追加しないとAB-1は意味がない」という議論になったという。この新機能は、実は日高さんも重要かもしれないと感じていた機能であったが、いろいろの制約から開発の初期に検討から落としたものだった。

 以前なら、こういう場合、日高さんは、自分の判断で新機能追加はできないと答えるか、あるいは、開発実務担当者斉藤さんに相談し検討していた。しかし、今は違う。半年前に「ビジネス顕微鏡」を導入してから大きく変わったことの1つが、チームが「変化に強くなった」ことだ。

 その日は、定例の「ディスカバー会議」が予定されていた。そこで日高さんは、チーム全員にこの新機能要求のことを説明し、「この要求をわれわれの機会に変えられないか、いつものように全員で検討してほしい」と加えた。ディスカバー会議とは、チームに絶えず起きる変化をポジティブな機会に変える会議だった。変化を機会発見(=ディスカバー)に変える場である。

 ここで、「ビジネス顕微鏡」が威力を発揮した。チームの全員がビジネス顕微鏡の名札型センサーノードを胸につけている。この名札は、赤外線のセンサーを使って、誰と誰がフェーストゥフェースで対話をしているかを記録する。これから「ビジネス顕微鏡」は、最近の組織ネットワークの構造を診断し(図1)、誰と誰が議論すると、より組織力が発揮できるかを解析する。

 つまり、組織がクリエーティブになり、健全に成長するための、あるべきコミュニケーションを人と人のネットワークから求める。さらに、これを使って3~4人のサブチームの編成を自動で行い、今週の3つのチームの編成とそのとりまとめ役が既に表示されていた。

 この毎週の最適チーム編成は、表現しがたいほどの威力を発揮した。今回の新機能要求についても、3日後のディスカバー会議で3つのチームから検討結果が発表された。結果を聞きながら、日高さんは気持ちが高揚するのを感じた。しかも、この感覚は初めてではなかった。

 3チームからはそれぞれ、日高さんや斉藤さんが「1人ではどんなに頑張っても考え得ない」提案が出てくる。しかも、それが若手から報告されるのを見ると、組織がこの半年で変わったと思う。1年前に「若手からの積極的な提案がない」と日高さんが嘆いていた組織はもうそこにはなかった。

 会議では、3チームの提案をさらにまとめて前向きなアクションを決めた。以前見えていた制約は、現在の開発現場で蓄積された経験をベースに考え直すと、これを超える見方ができた。その際、別の案件の担当者から出たアイデアが有効に働いた。それは、日高さんにも、斉藤さんにも、1人では発想し得ないアイデアだった。この機能の追加により新製品の価値は、飛躍的な高まった。まさに、変化を機会に変えることができた。

 日高さんは、人が組織で働く本当の意味が、入社13年目にして初めてわかった気がした。それを裏付けるように、ディスプレーには、ビジネス顕微鏡が算出した組織価値指標が、過去最高の値を誇らしく示していた...。(第3話に続く)

株式会社日立製作所
1984年日立製作所入社以来、中央研究所にて半導体の研究、特に世界初の単一電子メモリの室温動作、携帯電話用プロセッサなどのシステムLSIの研究を行う。現在、センサー情報を使った新しい生き方や働き方の研究と事業化を進めつつ、自ら実践している。中央研究所主管研究長と基礎研究所人間情報システムラボ長を兼任。工学博士。IEEE Fellow。http://www.hitachi.co.jp/

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