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デジタルタイポグラフィの現在

2008年12月22日(月)
米倉 明男

エミグレの代表的な書体

 エミグレのもう一人の創設者ルディ・バンダーランスの代表作は「Variex(ヴァリエックス)」です(図2-1)。ヴァリエックスには大文字がありません。小文字の形象の中に、大文字の形象が混在する紀元前の書体をヒントに作られました。

 また、エミグレは外部のグラフィック・デザイナーとのコラボレーションによる書体も発表しています。

 アメリカの伝説的なグラフィック・デザイン誌「RayGun」の1990年代のアート・ディレクターだったバリー・デック(Barry Deck)によって作られた「Template Gothic(テンプレート・ゴシック)」や、日本では、六本木ヒルズのロゴを作ったことでも知られているイギリス人グラフィック・デザイナー、ジョナサン・バーンブルック(Jonathan Barnbrook)による「Mason(メイソン)」などがよく知られています(図2-2)。

 エミグレの活字書体は、斬新なデザインとグラフィック・デザイン誌を活用した手法で注目を集める一方、タイポグラフィにおける学術的な方面からは、俗物的に見られ、彼らの書体はガレージ・フォントと呼ばれることもあったそうです。

原点への回帰

 1996年、エミグレから新しい展開が始まりました。ズザーナ・リッコは、18世紀ジョン・バスカーヴィル(John Baskerville)によって作られたローマン体、「Baskerville(バスカーヴィル)」(http://thinkit.jp/article/715/3/)を復刻したデジタル書体「Mrs Eaves(ミセス・イーヴス)」を発表しました(図2-3)。

 ミセス・イーヴスとは、ジョン・バスカーヴィルを献身的に支えた女性で、住み込みの家政婦から、後に夫人となった人物です。ズザーナ・リッコは同じ活字書体に携わる人物像としてミセス・イーヴスにあやかってこのネーミングをつけたそうです。

 続けて、同じ1996年、モダン・ローマン体の代表的な存在であるジャンバティスタ・ボドニ(Giambattista Bodoni)によって作られた「Bodoni(ボドニ)」(http://thinkit.jp/article/715/3/)の復刻書体「Filosofia(フィロソフィア)」を発表しました(図2-4)。

 ローマン体発展の後期を代表するこの2つの書体は、当時、すでにデジタル書体として復刻されていましたが、ズザーナ・リッコは、東欧時代から好んで使っていたこの古典書体を、いつか自分の手で復刻してみたいと考えていたそうです。

 オリジナルのバスカーヴィル、ボドニと比較して、ミセス・イーヴスとフィロソフィアは、曲線のストロークに膨らみが強調された女性的な表情を感じさせます。この辺りの解釈に、オリジナルの再現にとどまることのないリッコならではのこだわりが秘められているのでしょう。

 エミグレのデザイナーズ書体が、誘目性を重視した目立つ活字書体であったのに対し、この2つのローマン体は可読性、視認性に優れています。デジタルタイプとしての読みやすさを十分に考慮された形で、見出しだけでなく本文組としても使うことを前提に設計された書体です。

 この2つの復刻書体は、それまでのエミグレのイメージを大きく覆すものとなりました。アバンギャルドで時代の花形としてもてはやされた存在から、本格的な活字設計家としての高い評価と地位を得たのです。

Webデザイナー。印刷会社、Web制作会社などのデザイナー/ディレクターを経て、2007年からフリーランスとして活動。デジタルハリウッド講師。http://www.morethanwords.jp

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