マネジメントの常識が変わる

2008年12月15日(月)
矢野 和男

第3話:マネジメントの品質

 第2回(http://thinkit.jp/article/722/1/)では、センサーが組織力を飛躍的に向上することを紹介したが、物語はさらに核心に入っていく。

 新製品AB-1は、デビューの日が近づいていた。製品開発と並行して、展示会の準備が始まっていた。

 メンバーの中でも年長の斉藤さんは、今週のディスカバー会議はAチームで検討することになった。ディスカバー会議とは、ビジネス顕微鏡が決めた3、4人のチームに分かれて、その週のテーマを議論する仕組みだ(第2回参照)。Bチーム、Cチームも同じテーマで検討している。今日のAチームの議論はどんな展開になるだろう。1年前は...。ここで、1年前にさかのぼる。

 斉藤さんは、新たに日高さんが導入した「ディスカバー会議」に違和感があった。まず、自分の担当が決まっていない。しかも、所属チームも毎週変わる。ここで出したアイデアは自分の成果になるのか、ここで力を出すことは、自分にどんなメリットがあるのか、疑問が浮かぶ。さらに、専門家でない者による提案の実現性も不安だ。実現するにも皆忙しい。

 最初のチーム会議に、気乗りしないままに斉藤さんは出席した。自分より年下の人と新人との3人のチームだ。淡々と会話が始まった。ところが、しばらくすると、ほかの2人が意外に話すことに気づいた。2人とも、全体ミーティングでは、必要な時以外は、発言をしない。

 「アシモフのファウンデーションという小説には...」えっ。彼はアシモフが好きなのか。「ファウンデーション」とくれば、斉藤さんも受けて立たないわけにはいかない。「むしろ、技術を一種の宗教として布教システムをつくるアイデアが、アシモフのすごいところだ...」。共通の関心事から、いつになく密度の高い議論が進み、終わってみれば、1時間後にユニークな提案ができていた。荒削りのところはあるが、斉藤さんが、1時間1人で考えても、この発想はなかったことは明らかだ。

 現在に戻る。今は、斉藤さんから当初の疑問は消えていた。毎週実践する中で、今までにないアイデアが次々に生まれ、実現されていったからだ。

 今週のAチームのとりまとめは、2年目の若手だ。彼女とは、最近話してなかったな。「ビジネス顕微鏡」がこれを配慮して、同じチームに配属したのだろう。その時、1年前の議論が浮かんだ。「AB-1の生態系をつくるには、アシモフが描いた、技術布教の仕組みが使える」。彼女は、「それは、家元の考え方ですね。私は華道をやっていて...」と答えると、議論は思いも寄らないところに発展していった。

 以前は、仕事が1人に集中し、若手からの提案が無かった。また、日高さんも斉藤さんも、ビジネス顕微鏡の組織ネットワーク図では、ネットワークのハブになっていた。このような状況から、1年で組織のマネジメントは大きく変わった。

マネジメントの品質を測る

 第3話では、この職場のマネジメントの変革を描いた。センサーで社員を測るというと、「監視」をイメージする人がいるであろう。管理者が社員を監視して、怠けないようにさせるという考えだ。しかし、そんな管理では生産性が向上しないことは、理論的にも、経営者、マネジャーの経験に照らしても明らかで、社員にとっても居心地がよくない。

 本当のセンサーは、マネジメントの品質を計測し、向上するために使うとき威力を発揮する。チームの「仕事を楽しむ」度合いが仮に低いとすれば、マネジメントの品質が低いということである。

 マネジメントとは、市場や競合などの外の変化と、適度な収益性の確保を境界条件として、方針、資源、能力、心などの幅広い経営資源を高度に組み合わせ、適合させて、価値を生みだすことだ(図1)。

 「マネジメントの品質」に重要なのは、たった2つだと考える。そして、ビジネス顕微鏡はそれをセンサーにより計測する。マネジメント品質を決定する2つの指標を紹介しよう。

株式会社日立製作所
1984年日立製作所入社以来、中央研究所にて半導体の研究、特に世界初の単一電子メモリの室温動作、携帯電話用プロセッサなどのシステムLSIの研究を行う。現在、センサー情報を使った新しい生き方や働き方の研究と事業化を進めつつ、自ら実践している。中央研究所主管研究長と基礎研究所人間情報システムラボ長を兼任。工学博士。IEEE Fellow。http://www.hitachi.co.jp/

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