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センサーが人生を変える

2008年12月22日(月)
矢野 和男

人生に満ちる「3つの変動」

 以上、センサーの大量データと知識労働者の成長との関係を物語で紹介した。筆者もこれを活用することで、人生も仕事も大きく変わった。これを読者と共有したい。

 ここでは、センサーをつけていなくても、大量の行動データに基づく「知の羅針盤」のアドバイスが得られる方法を紹介する。まず、図2-1の3つの設問について、過去24時間を振り返って、この1週間の平均に比べて増えているか、減っているかを答える。

 この変動コードが得られたら、図2-2にある今日の方程式に今日やるべきことを書く。大事なことを2つだけ書き、それを掛け合わせて何を生み出すかの期待を書く。

 さらに今日の方程式に関する助言として、図1の該当する部分を読めば、「自分に何が起きつつあるか」を知ることができ、「どう考えればよいのか」のヒントが得られる。この毎日の思考への刺激は、自身の成長を加速する。

 図1の知の羅針盤は、大量の人間行動のデータを基盤にしている。筆者らは30,000人日という大量の行動データを取得し、これを活用して人間行動の微妙な変動の意味を研究してきた。その結果、上記の3つの変動の組み合わせ(3ビットなので8個の状態、000、001、010、011、100、101、110、111に対応)により、日々刻々の経験が特徴づけられることを見いだし、これを体系化した。これを「成長の八分類モデル」と呼ぶ(図1)。これは、センサーがあればユーザーの手間なしに求められるが、センサーがなくとも、上記3つの質問に答えることで、求められる。

 このモデルを活用し、アドバイスを提供するのが「知の羅針盤」である。まず日常の経験を、フロー理論(第3回(http://thinkit.jp/article/742/1/)参照)に沿って「フロー」「安心」「充電」「心配」に分類する。さらに、それぞれを2つに分類して、成長という観点で8状態に分類して特徴を明らかにする。

 これは、行動データを活用して、社会を理論化する中で生まれた。日々刻々の「経験」を積み重ねると「成長」になり、日々の「成長」を積み重ねると「創造」になり、さらに「創造」を積み重ねていくと「経営」になる。筆者らは、この「経験」×「成長」×「創造」×「経営」の4層構造とセンサーによる行動データにより社会を俯瞰する理論体系を構築した。この中の「成長」のモデルが八分類モデルであり、この表現が知の羅針盤である。

 人の成長を体系的に分類するところで、12世紀に書かれた禅の「十牛図」をメタファーを活用している。先人の知恵を、最新技術と融合することにより、深い人間社会の理解が得られると考える。

知の羅針盤

 十牛図は、牛を尋ねて家を離れて、足跡に出会い、牛の姿を見つけ、つかまえ、飼いならして、牛の背に乗って家に帰り、牛がいなくなり、最後に人もいなくなるという流れで、人の成長の過程を描く(十牛図には名前の通り、10個の状態があるが、最後の3つの状態は同じ境地を説明しているので、8状態となる)。

 この物語は、人の成長の本質だけではなく知的創造や成長の本質もとらえている。知的活動を、単に情報を入力して、成果物を出力すると考えるのではなく、始める前には見えなかったものが見えるようになるという成長を必ず伴うことと認識する。「知的生産=知的な成長」ととらえ、十牛図のメタファーが適合するわけである。

 牛とは、目指しているものを表す。知識労働では、この牛が明確でない上に、日々変化し、複数の牛を平行して追うこともあり、自分の置かれている状況の意味を見失いやすい。「知の羅針盤」はこのような知的活動の「羅針盤」たることを目指したものだ。今回は紙面の都合で簡略版であるが、知的活動の羅針盤として強力にあなたをプッシュするだろう。

 3つの質問では、既に起きた生活の変動を問題にする。わずかな変動を解析し、未来に向かって何が起きつつあるのかを教える。しかし、これは占いではない。従って、未来の予測はしない。しかし、既に起こったことの未来への意味を、科学的なデータを元に雄弁に語る。そこにこの技術のブレークスルーがある。

株式会社日立製作所
1984年日立製作所入社以来、中央研究所にて半導体の研究、特に世界初の単一電子メモリの室温動作、携帯電話用プロセッサなどのシステムLSIの研究を行う。現在、センサー情報を使った新しい生き方や働き方の研究と事業化を進めつつ、自ら実践している。中央研究所主管研究長と基礎研究所人間情報システムラボ長を兼任。工学博士。IEEE Fellow。http://www.hitachi.co.jp/

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