ソフトウエアパターンとは何か
クリストファー・アレグザンダーとパターン・ランゲージ
もともと建築・都市工学の世界でクリストファー・アレグザンダーがパターンの考え方を提唱したときには、それは253個のパターン記述が、「住みやすいよい街を生む」という意図の大目的のパターンから「よい環境を作り出す」ための中項目のパターンへそして個々の空間や建物の具体的な「よい形を作る」ための小項目のパターンへと有機的に結びついてネットワークを形成し、まさに「パターン・ランゲージ」を構成していました。個々のパターンという単語が文法に従って文や言語つまりランゲージを生み出す、ということです。
建築家は、パターン・ランゲージの全体像を常に参照しながら、ユーザーの要求と現場の状況と作業の目的を把握しつつ、複数のパターンを選択し組み合わせながら仮設検証型で設計・施工を実施してはユーザー参加で妥当性をチェックして見直しを掛け、全体の方向性と個別設計・施工の整合性を常に図りながら作業を段階的に行っていくのです。トップダウンとボトムアップのバランスをパターン・ランゲージを用いて行うという感覚です。
ここでは建築以外のパターン・ランゲージの例をお見せしましょう。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で井庭 崇研究室を中心に開発された、学習のための「学びのパターンランゲージ」の試みです。学生が自分自身の学びをデザインしながら学ぶことを支援し、しかもそれを変にマニュアル化せずに伝えるための手法としてパターン・ランゲージ化が行われたのです。
重要なことは40個の学習のパターンが適切に記述されモジュール化されているだけでなく、有機的な概念ネットワークを構成しているということで、一本道の単純な手順を示すマニュアルにならずにすんでいる点です。ユーザーである学生個人個人の目標やニーズ・状況にあわせて、学習方針やスタイルを模索し気付きを得ながら継続的・進化型で適用できることです。
パターン・ランゲージとアジャイル型ワークスタイルの融合
アレグザンダーの例でも学びのパターンの例でも、建築家集団や大学組織といったコミュニティーにおいて有形無形の知識や知恵を共有し、実践に生かせるようにするための仕掛けだということが重要です。したがって、パターン・ランゲージは固定的なものではなく、常にみんなで適用の成果をフィードバックしていく形でメンテナンスし、ランゲージを進化させていくという意識が重要になります。
そのためにも、パターン・ランゲージとプロジェクトベースの活動、参加型ワークショップ形式の学習、アジャイルプロセスにもとづくワークスタイル、こういった活動様式と融合して初めて、パターン・ランゲージはナレッジマネジメントの強力なツールとなることでしょう。