Strategyパターンの事例と本連載のまとめ

2009年5月29日(金)
中川 三千雄

何が変動要素なのか考える

 今回は、役所が住民に給付金を支給する仕組みをシミュレーションするプログラムを作成します。このプログラムは、定額給付金以外の給付金の給付にも柔軟に対応できるように設計します。

 柔軟に対応できる設計を行うには、まずシステム要求の中に潜む「普遍要素」と「変動要素」を知ることが重要です。普遍要素はシステム要求の中で時間の経過や環境の変化に影響を受けないものを指します。

 一方、変動要素はその逆で、システム要求の中で時間の経過や環境の変化に影響を受けるものを指します。簡単に言うと要求の中でコロコロと変わりそうな要素のことです。その変動要素がわからなければ設計する側は何も考慮することができないため、柔軟に対応できる設計を行うことができません。

 今回は、次の3つを変動要素として設計を行います(図2-1)。

●給付金申請書……生成の問題
 給付金申請書は定額給付金申請書の1種類ですが、地方自治体によってさまざまな給付金申請書が存在する場合があります。給付金申請書の種類が後で増えても、ほかに影響しないように後で給付金申請書の種類を決定できる仕組みが必要です。

●給付担当者……ふるまいの問題
 給付担当者は定額給付金給付担当者だけですが、地方自治体によってはさまざまな給付金申請書が存在する場合があります。その給付金申請書ごとに処理する担当者や体制が異なる可能性があります。ほかに影響しないように後で給付担当者の責務や体制を柔軟に変更できる仕組みが必要です。

●給付方式と給付……ふるまいと生成の問題
 給付方式は給付担当者が住民に給付金を給付する方法で「窓口申請」と「窓口現金受領」の2種類があります。給付担当者は給付方式の中から1つ選択して、住民に給付金を給付します。給付金申請書の種類によっては給付方式が増減するかもしれません。ほかに影響しないように後で給付方式の種類を交換できる仕組みが必要です。

変動要素が抱える問題を解決する

 変動要素が抱える問題について次のように解決します(図2-2)。

●給付金申請書(BenefitSheet)…… Factory Method
 給付金申請書(BenefitSheet)を作成する役割を持つクラス(BenefitSheetFactory)を追加し、そのクラスには第3回で紹介したFactory Methodパターンを適用します。
Factory Methodパターンを選択した理由は、給付金申請書の生成の仕組みと給付金申請を決定する仕組みを分離することが実現できるからです。
その結果、給付金申請書の種類を後から決定できるようになります。
今回は、定額給付金申請書ファクトリーから定額給付金申請書を作成します。

●給付担当者(AbstractIssueStaff)……Chain of Responsibility
 給付担当者には第4回(http://thinkit.co.jp/article/938/1/)で紹介したChain of Responsibilityパターンを適用します。Chain of Responsibilityパターンを選択した理由は、給付金申請書の種類に応じた責務を持つ給付担当者を柔軟に追加・変更できる仕組みが実現できるからです。
 今回は、次の責務を持つ定額給付金の給付担当者を作成します。
・定額給付金給付担当者(m歳以下担当)
 給付条件:申請者の年齢が18歳以下なら給付する
 給付金額:20,000円
・定額給付金給付担当者(m歳~n歳担当)
 給付条件:申請者の年齢が19歳~64歳なら給付する
 給付金額:12,000円
・定額給付金給付担当者(m歳以上担当)
 給付条件:申請者の年齢が65歳以上なら給付する
 給付金額:20,000円

●給付方式(Issue Algorithm)と給付(Issue)……StrategyとFactory Method
 給付方式の部分にStrategyパターンを適用します。Strategyパターンを選択した理由は、給付方式の1つ1つが異なったアルゴリズムであり、そのアルゴリズムを交換できる仕組みが実現したいからです。また給付(Issue)を作成する役割を持つクラス(IssueFactory)を追加し、そのクラスにFactory Methodパターンを適用します。Factory Methodパターンを選択した理由は、給付金申請書の給付方式の内容に合った、給付方式のアルゴリズムを持つ給付のインスタンスを生成するためです。
 その結果、給付方式のアルゴリズムの交換が容易になり、給付金申請書の給付方式に合ったアルゴリズムを持つ給付のインスタンスが生成できるようになります。
 今回は、「窓口申請」と「窓口現金受領」の2つの給付方式を用意します。

 最後は解説が駆け足になりましたが、今回の事例はほんの一例です。ほかにもよいモデルや解決方法があるかもしれません。読者の皆さんも同じテーマでモデリングして、モデルに潜む変動要素を探し出してデザインパターンの適用にチャレンジしてみてください。

 なお今回は本事例のサンプルコード(example-1.0.0-src.zip)をご用意しましたので、こちらからダウンロードしてください。

株式会社オージス総研
株式会社オージス総研アドバンストモデリングソリューション部アーキテクトチーム兼エンタープライズオープンソースセンター所属。これまでに2社の独立系SI企業で経験を積み、現在に至る。オージス総研では、フレームワークの設計/開発や開発プロセス支援など、アーキテクトとしてプロジェクトに参画する。また、オージス総研のコミュニティー「オブジェクトの広場」にも参加している。
オブジェクトの広場 http://www.ogis-ri.co.jp/otc/hiroba/

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