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SI事業者におけるオープンソースの位置付けと今後の可能性 |
OSSを深く理解した問題解決力とシステム構築力が問われる、開発コミュニティとのかかわりが自社の技術者を育てる早道
著者:荒谷 浩二 2005/10/3
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OSSビジネスの差別化のポイント
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OSSビジネスでは、プロダクトによる差別化はできないため、プロダクトベースではどのSIerも等しく肩を並べることとなる。では、どこで差別化を行うかというと、考え方は2つあるだろう。
1つ目は、OSSの問題解決能力による差別化である。いかにOSSに優れた面があろうとも、万能ではなく、商用製品に比べて性能面や機能面で至らない点もある。しかし、OSSはソースコードが公開されており、手を入れて改善することができるという大きなメリットがある。OSSを商用製品同様に考えていては、差別化は生まれないだろう。
OSSを利用するにあたって、問題となる箇所があるからこそ、それらの問題点をどう解決するかという能力が差別化を生む。
2つ目は、システムを構築する場合、OSSをどう効果的に採用し、安く早く顧客の欲しいシステムを作り上げるかという目利き的な能力である。Linuxを導入したユーザー企業では、コスト面をOSSのメリットととらえて導入に至った例はたくさんある。しかし、OSがLinuxに変わっただけでこれまでのシステムと何も変わらないシステムとなり、コストメリットが期待どおりではなかったという反応も少なくない。Linuxディストリビューションの価格が高くなっているだけに、これではユーザー企業にとってLinuxの採用自体がメリットのないものになってしまう。ユーザー企業自身もOSSを効果的に使うことができる事業者を探す傾向にあるだけに、OSSに詳しく効果的なOSSの採用の提言が、今後は差別化を生むことになるだろう。
この2つの点は、いずれもOSSを深く理解する必要がある。OSSビジネスで差別化を図るには、高いスキルを持つ技術者を確保する必要がある。これは、従来のSIビジネスのように、商用製品を販売するベンダーから情報を得たり、セミナーや教育コースを受講したりすればスキルアップが図れるというものではないからだ。
OSSの場合は、オープンソースコミュニティに参加し、自ら技術力を高めるためにソースコードを読んだり、さまざまな検証を行うなど、自力でスキルを磨くしかない。しかし、日本の企業技術者は、進んでオープンソースコミュニティに参加しようとはしないし、企業内においてもオープンソースコミュニティ自体を正しく理解しておらず、OSS推進企業としながらもコミュニティを良く思っていない企業も未だにあるようだ。
そうした中で、社員のコミュニティ参加に対して企業やコンソーシアムでポリシーを作ろうとする動きもある。このポリシーの内容についての是非は本稿では取り上げないが、企業自身が積極的にオープンソースコミュニティにかかわろうしているように見えても、本質的なところで至っていない感がある。いずれにしても、企業内の技術者にOSSを正しく認識させ、オープンソースコミュニティに向かわせることができるかどうかは、差別化のポイントであろう。
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OSSサポートビジネスの可能性
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ハードウェアベンダー系SIerの項目でも専業SIerの項目でも技術者不足の問題を挙げたが、この点でSIerと協調するビジネスが新たに生まれている。
OSSはオープンソースコミュニティから生まれてくるのが一般的であるが、OSSの利用にあたってオープンソースコミュニティが保証してくれるものではない。SIerにとって、顧客へサポートを保証するのは必然であり、OSSにどう保証を与えるかは重要な課題である。
SIerが、その課題に自ら体制を整えようとしている例もあるが、特定のプロダクトに技術サポートやカスタマイズなどを提供するOSSサポートベンダーが登場している。これまでもLinuxディストリビューションメーカーなどで自社ディストリビューションのサポートを行うことはあったが、主にインストールに対するサポートであったり、パッチの提供であったりと、SIerが直面している課題を補うものではなかった。サポートビジネスを行うにはOSSプロダクトに精通した技術者を採用するなり、コミュニティとの強いコネクションを持つなり、高い技術力を示す必要がある。
また、一般のユーザーが必要としているかというと、そうではない。ビジネスとしては、SIerなどの特定の顧客が中心になるだろうが、SIerにとっては心強いパートナーとなる。最近の傾向としては、SIerがこれらサポートベンダーとのアライアンスでOSSサポートをソリューションとする新たなサービスを打ち出してきている。SIerのOSSビジネスとして、これまでの「物売りと構築」から、「サービスと構築」といった新しい領域にシフトしてきていると言えよう。
オープンソースという呼び名は、ユーザー企業にも確実に浸透してきている。ユーザー企業の視点で見ても、以前のような、OSSをどこの誰が作ったのかも分からない信頼性に欠けるソフトウェアという見方はなくなりつつある。
OSSは商用製品と比較しても遜色なく、しかもライセンス料も必要ない。費用対効果の面で導入を考えるユーザー企業は増えつつある。しかし、ユーザー企業からは、ほとんどのSIerがOSSを活用した提案をしない、OSSの利用を希望しても効果的な利用方法の提案もないとの声もある。OSSの採用を考えているユーザー企業は自らもOSSについて調べている場合も多い。驚いたことに、OSSを採用したいというユーザーに対して、自社ソフトウェアを売り込もうと「OSSは誰が作ったかも分からないし、サポートもない。OSS上で開発したアプリケーションはすべてオープンソースで公開しないといけない」など、誤った説明をする担当者さえ未だにいるようだ。
日本の市場では、Linuxビジネスの黎明期にどのベンダーもOSSのコストメリットを盛んに叫んでいた。その言葉を信じてユーザー企業は適材適所でOSSのメリットを活かした提案を待っている。SIerのビジネスとしては、サポートなどサービスを強化する方向にあるが、技術者不足のみならず顧客にOSSを正しい認識で対応できるコンサルタントや営業担当者の育成も、ビジネスを伸ばすうえで必要なのではないだろうか。
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書籍紹介 「Linuxオープンソース白書2006 新たな産業競争力を生む、オープンソース時代の幕開け」
※本連載はインプレスより発行の書籍「Linuxオープンソース白書2006」(ThinkIT監修)から一部抜粋し、転載したものです。
■本書の構成
第1部のユーザー企業利用動向では、605社の情報システム管理者に聞いた独自調査データ177点を掲載。プレゼン用に、すべてのデータをCD-ROMに収録。
第2部の事業者動向では現在から将来のLinuxオープンソースビジネスを解説。
第3部の社会動向ではオープンソースの普及に向けて、教育や法律、そして世界各国の政府から地方自治体の取り組みまでを紹介。
「Linuxとオープンソースのビジネスの今」をすべて収録した「Linuxオープンソース白書2006」のご購入はコチラから
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