TOPLinuxオープンソース白書2006> OSS開発型ビジネスの台頭
オープンソース白書2006
SI事業者におけるオープンソースの位置付けと今後の可能性

OSSを深く理解した問題解決力とシステム構築力が問われる、開発コミュニティとのかかわりが自社の技術者を育てる早道
著者:荒谷 浩二   2005/10/3
前のページ  1  2  3
OSS開発型ビジネスの台頭

ThinkIT会員特典20%OFF    次に、最近登場しているものとして、自社のソフトウェアをOSSとして公開し、ソフトウェアが市場に浸透することで、コンサルティングやサポート、またそのノウハウをSIへの入り口とするといった、OSS開発型のビジネスが挙げられる。これまでOSS開発型のビジネスは、日本企業ではあまり例がなかったが、ようやく最近になって登場してきた。OSSとして公開する以上、他のSIerも無償で利用できる。これまでのソフトウェアは開発した会社の資産であるという考え方が強く、自社のノウハウの流出を防ぐといった目的でソースコードはクローズドなものであった。

   しかし、OSSとした場合でもそのソフトウェアに一番詳しいのは開発した企業であり、案件で競合した場合でも有利に働くことは間違いない。しかも、他社がSIで利用した場合でも、市場に浸透すればするほど営業効果がよりいっそう高まる。また、コミュニティが形成されれば、より良い改善や拡張も望める。

   OSS開発型のビジネスは、まだ始まったばかりである。どのように普及させていくのか、普及モデルもまだ確立していない。今後OSS開発型のビジネスがどのような発展をしていくか見守りたい。


SIerのOSSへの取り組み

   OSSのビジネスにおいてSIerが市場に受け入れられるかどうかは、これまでの製品戦略とは異なり、いかに技術力の高さを示していくかが分かれ目となる。また、エンタープライズ環境をビジネスのターゲットに据える大手SIerにとっては、OSS自体が必ずしも適用領域として十分な機能やパフォーマンスを有していない場合がある。

   海外ではインテルやIBMが、積極的にオープンソースコミュニティとかかわり、自らが欲しい機能や改善点を手に入れているが、これまで日本企業では、コミュニティと接触することにあまり積極的ではなかった。しかし、最近の傾向として、企業がコミュニティを支援する活動を行ったり、OSDLなどを通してOSSの開発に参加したりするなど、自らもOSSの発展に寄与し、OSS開発に参加したりすることで技術力を高めようとするようになってきた。OSDLでは、キャリアグレードLinuxやデータセンターLinuxなどの開発に多くの日本企業が参加している。

   また、日本OSS推進フォーラムでも、企業としてのOSSの取り組みが展開されている。日本OSS推進フォーラムの場合、多くのSIerが参加できる環境にはないが、SIerが集まり、共同でOSS開発に取り組み、成果を出している(表1)。各参加企業が共通で必要と思われるツールを開発したり、OSSの評価方法の統一化などに取り組んでいる。今後は、日本OSS推進フォーラムで開発されたソフトウェアは、OSSとして公開され、誰もが開発に参加できるようになる予定とのことだ。

ソフト
ウェア名
ソフトウェア
種別
内容
Alicia ダンプデータ解析ツール メモリダンプ出力ツール(LKCDなど)、解析ツール(crushなど)の上位で、ダンプ解析をスクリプト化し、ノウハウとして流用可能とするツール
LKST カーネル性能評価ツール カーネル内部の動作をトレースするツール(LKST)を拡張し、トレース情報をグラフ化などを可能とした
DAV ディスク割り当て評価ツール ファイルシステムのフラグメンテーション(断片化)情報を可視化するツール

表1:日本OSS推進フォーラムの開発成果

   以上は日本企業も自らOSSの開発に参画し始めた例だが、現状では、海外企業並みには開発に参加できていない。OSSの場合、開発元は一般的にはOSS開発コミュニティになる。その中でOSSはボランティアベースで開発されているが、このボランティアの意味に変化が起きているように思う。

   以前は自発的意思で行動するという意味や、OSS開発で直接的な報酬を得ていないという意味で使われていた。

   たとえばLinuxの古いカーネルソースコードを見ると個人で貢献したコードが多数あるが、カーネル2.6では企業に雇用されたプログラマーが書いたコードが多数あることが分かる。このことは、すなわちLinuxの開発においては旧来の開発形態とは違って、企業に雇用されたプログラマーが仕事としてサラリーをもらい、開発している例が多くなっているのである。また、Linux開発コミュニティで最も権威があるLinux Symposiumでの発表も、企業技術者の発表が多くなっている。

   もはやOSSの開発は、個人が趣味や技術的興味で開発する状況から、企業も大きくかかわり、OSSの発展に貢献する状況になったと言える。この現象から、ソフトウェアの開発には多大な費用がかるが、オープンソースを利用して開発費を最小化するという企業の戦略が見えてくる。

   OSSの開発に参画することで、自社のソリューションに必要な機能を追加することもできる。また、付加価値としてOSSの機能そのものではなく、サポートやコンサルティングにも反映できる。

   日本企業は技術者不足という点で思うように取り組めないという現状はあると思うが、卵が先か鶏が先かの問題と同様で、技術者は経験を積むことでスキルを磨き、成長する。開発に多くの技術者を参加させることで、社員は優秀なOSS技術者に成長することだろう。また、技術者を確保するには、雇用機会があるかどうかも重要なポイントである。学生も、雇用機会が少ないものは学ぼうとしない。雇用機会の拡大も含め、日本企業がOSSの開発に積極的に参加していくことを期待したい。

前のページ  1  2  3

書籍紹介
「Linuxオープンソース白書2006
新たな産業競争力を生む、オープンソース時代の幕開け」

※本連載はインプレスより発行の書籍「Linuxオープンソース白書2006」(ThinkIT監修)から一部抜粋し、転載したものです。
Linuxオープンソース白書 2006
■本書の構成
第1部のユーザー企業利用動向では、605社の情報システム管理者に聞いた独自調査データ177点を掲載。プレゼン用に、すべてのデータをCD-ROMに収録。
第2部の事業者動向では現在から将来のLinuxオープンソースビジネスを解説。
第3部の社会動向ではオープンソースの普及に向けて、教育や法律、そして世界各国の政府から地方自治体の取り組みまでを紹介。
「Linuxとオープンソースのビジネスの今」をすべて収録した「Linuxオープンソース白書2006」のご購入はコチラから
INDEX
OSSを深く理解した問題解決力とシステム構築力が問われる、開発コミュニティとのかかわりが自社の技術者を育てる早道
  はじめに
  OSSビジネスの差別化のポイント
OSS開発型ビジネスの台頭