TOPLinuxオープンソース白書2006> オープンソースが使われている分野
オープンソース白書2006
組み込み分野の動向を変化させるオープンソース

携帯電話、デジタル家電、カーナビ、通信基地局にも Linuxが浸透、普及したオープンソースシステムによる開発環境の統合も進む
著者:塩田 紳二   2005/10/12
前のページ  1  2   3  次のページ
オープンソースが使われている分野

ThinkIT会員特典20%OFF    組み込み分野で目立つオープンソースは、LinuxなどのOSである。日本では、もともとITRONが公開仕様、個別実装としてオープンソースに準じた扱いであり、この分野ではオープンソースに対してある程度の下地ができていた。組み込み分野でのLinuxの利用は、調査によれば、組み込み機器の約12%を占め、ITRON系についで2位だという(図3)。

組み込み製品に搭載しているOS
図3:組み込み製品に搭載しているOS
出所:経済産業省「2004年版組込みソフトウェア実態調査報告書」

   また、Linux上で動作する通信関連のツールも比較的使われているようだ。特に、ネットワークに接続するような機器は家電にまで広がっており、Linuxや関連のオープンソースソフトウェアをまとめて導入する場合がある。

   また、ITRONは、これまで実装が個別で、ミドルウェアやアプリケーションの流通が困難だったことの反省からソースを共通化したT-Kernelが開発されている。これは契約は必要だが、無償で利用できる。

   オープンソースのOSでは、このITRON系とLinux系が、リアルタイム性、インターネット接続性などで棲み分けられているようだが(図4)、Linux系でもリアルタイム性を高めるような動きもあれば、T-Kernelでネットワークスタックを共通化して実績を高めていくような動きもある。また、T-KernelとLinuxを同時に利用できるT-Linuxのようなハイブリッドシステムも開発されている。

組み込みで必要とされる応答速度
図4:組み込みで必要とされる応答速度
出所:NEC発表資料
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   製品としては、通信関連やPC関連技術を応用した家電製品、カーナビなどではLinux系が多く、最近では、携帯電話への採用もある。

   ITRON系は、携帯電話やネットワーク機能を持たない家電機器などで広く使われているが、T-Kernelの普及により、情報家電などでも利用できるようになるだろう。

   もうひとつ、組み込み機器に関連するオープンソースとして、開発環境がある。オープンソース系の言語コンパイラーであるgccは、ターゲットとなるCPUアーキテクチャーへの対応が容易だったことから、組み込み系CPUでは標準的なコンパイラーとして利用されてきた。少なくともこの分野に限っては、組み込み以前からオープンソースに対応していたのである。

   さらに、ここ最近では、Eclipseなどの開発環境が加わり、組み込み系で必要なクロス開発環境が整備されつつある。通常、組み込み系では、ターゲットなるハードウェアが小規模なものとなることが多く、ターゲットシステム上で開発ソフトウェアを動作させることができない場合がほとんどだ。このため、PCやワークステーション上で開発を行い、最終段階でターゲットシステムのCPUや環境に合わせたバイナリーコードを生成する。

   このようなやり方をクロス開発という。これが組み込み系での標準的な開発スタイルである。場合によっては、ターゲットの動作をエミュレートすることも必要になる。その他に必要になるのは、ターゲットへのバイナリープログラムの転送方法、通信やフラッシュROMへの書き込みなどである。各プロセッサーの汎用的な環境は、組み込みCPUメーカーが用意する。この分野にもオープンソースが普及している。

   たとえば、オープンソースのマルチプラットフォームGUIライブラリであるWideStudio/MWTは、開発環境自体も持っているものの、2005年4月には、オープンソースの開発環境であるEclipseへの対応を発表している。

   今後は、オープンソースの開発環境もそれぞれがバラバラに動くのではなく、Eclipseなど、普及したオープンソースシステムを中心に統合が進むと考えられ、開発者は、ターゲットや開発環境にかかわらず、同じ環境でさまざまな開発が行えるようになるのではないかと思われる。

前のページ  1  2   3  次のページ

書籍紹介
「Linuxオープンソース白書2006
新たな産業競争力を生む、オープンソース時代の幕開け」

※本連載はインプレスより発行の書籍「Linuxオープンソース白書2006」(ThinkIT監修)から一部抜粋し、転載したものです。
Linuxオープンソース白書 2006
■本書の構成
第1部のユーザー企業利用動向では、605社の情報システム管理者に聞いた独自調査データ177点を掲載。プレゼン用に、すべてのデータをCD-ROMに収録。
第2部の事業者動向では現在から将来のLinuxオープンソースビジネスを解説。
第3部の社会動向ではオープンソースの普及に向けて、教育や法律、そして世界各国の政府から地方自治体の取り組みまでを紹介。
「Linuxとオープンソースのビジネスの今」をすべて収録した「Linuxオープンソース白書2006」のご購入はコチラから
INDEX
携帯電話、デジタル家電、カーナビ、通信基地局にも Linuxが浸透、普及したオープンソースシステムによる開発環境の統合も進む
  はじめに
オープンソースが使われている分野
  組み込み分野におけるオープンソースのメリット