Red Hat Enterprise Linuxの概要

2006年3月14日(火)
古賀 政純

エンタープライズLinux

Red Hat Enterprise Linux(以下、RHEL)はエンタープライズ用途を考慮した商用のOSです。クライアントPC用のLinuxとは異なり、大規模システムで利用されるブレードサーバやハイエンドサーバでの稼動を前提としています。

一般的に、エンタープライズ向けのLinuxを使ったシステム構築には、クライアントPC用のLinuxとは違った様々な知識が必要です。パッチや アップデート情報の入手、アップデート済みOSの入手の必要性、インストールの可否など、エンタープライズLinux特有のノウハウが必要となります。

RHELとFedora Core

大規模なエンタープライズシステムでは、サーバ用途に特化したOSが利用されます。

サーバ向けOSとしてはハードウェアベンダーが提供しているUNIXや専用OSなどがあり、ミッションクリティカルな大規模システムでよく利用され ていますが、Linuxも企業システムで幅広く採用されています。企業の基幹システムは、耐障害性の高いハイエンドサーバや負荷分散装置、UNIXや基幹 用途向けの専用OS、Linux、高可用性ソフトウェア、アプリケーションサーバなどを組み合わせて構築します。

Linuxだけで構築するシステムもありますし、UNIXや専用OSとLinuxを混在させて構築する場合もあります。このようなシステムで利用さ れるLinuxは一般に無料で提供されるOSではなく、通常はエンタープライズ向けのLinuxディストリビューションが採用されます。

エンタープライズ向けのミッションクリティカルなシステムで利用されるLinuxの1つであるRHELは、レッドハット社から提供される有償製品で す。ユーザはレッドハット社またはRHELをOEM販売しているベンダーからOSのテクニカルサポートを受けることが可能です。

一方、無料で入手できるOSとしてFedora Coreが存在します。Fedoraとは、コミュニティをベースとしたオープンソースソフトウェア(OSS)のプロジェクト名です。Fedoraプロジェ クトでは様々なOSSの開発者が参加しており、そこでは日々先進的なソフトウェアの検証や開発が行われています。それらのソフトウェアをまとめてOSとし たものがFedora Coreと呼ばれるディストリビューションです。

Fedora Coreで検証された多くのソフトウェアは、次世代のRHELに取り込まれます。いわばRHELのリリースに向けての実験工房といえるでしょう。

RHELとFedora Coreの違い

RHELはエンタープライズ向けのOSですが、Fedora Coreはそうではありません。むしろエンタープライズ用途には不向きといえます。

エンタープライズシステムにおいてはシステムの安定稼動、高性能ハードウェアへの対応、迅速なパッチリリース、保守サポートが要求されます。そのためRHELもそのような要求を意識した製品となっています。

例えば、RHELでは高性能のハイエンドサーバをサポートできるようにカーネルパッチがすでに適用されていますし、製品のサブスクリプションの登録 を行えば、リリース以後のバグ情報の入手、パッチのダウンロードや保守サポートなど、レッドハット社のRed Hat Network(以下、RHN)を使ったサービスを受けることが可能となっています。OEMベンダーからリリースされているRHELも同様のサポートを受 けることが可能です。

一方、Fedora Coreは先進の機能や魅力的で新しいソフトウェアが多く盛り込まれているディストリビューションですが、高い安定性が求められるエンタープライズシステムに耐えられるOSとはいえません。

Fedora CoreはRHELよりも新しいカーネルを採用していますが、先進の機能を盛り込んでいるカーネルでは十分なテストが行われていないモジュールも少なくあ りません。テストが不十分なものが不安定な動作をすることで、基幹業務に大きな影響を与える可能性もあります。またFedora Coreでは保守サポートもありません。一般に、企業システムに導入するOSはシステムに不具合があった場合にログやメモリダンプ、障害報告をベンダーに 送付し、ベンダーが解析を行います。

解析の結果からベンダー側でパッチを作成し、顧客システムに適用するという一連のサポートフローがあります。またそれらは契約書に基づいた内容に そって行われます。顧客は購入した製品やシステムの契約書に基づいて保守サポートを受けるわけです。RHELではそのような保守サポートを受けることがで きますが、Fedora Coreにはありません。

Fedora Coreでは、開発のベースがあくまでもコミュニティであるためにパッチが必要になっても、ボランティアベースの開発者の誰かがパッチを作らないかぎりシ ステムの不具合は修正されません。保守契約もないので、パッチがリリースされずに業務に障害が発生したり、セキュリティが脅かされた状態が続いたりして も、まったく改善しない場合もあり得るわけです。

したがって、Fedora Coreをエンタープライズシステムに採用するにはあまりにもリスクが高いのです。また多くの高可用性ソフトウェア(HAクラスタソフトウェアなど)やア プリケーションサーバソフトウェアがエンタープライズ向けの商用LinuxをサポートOSとしており、ミッションクリティカルシステムを構築するには必然 的に商用OSを選択することになります。

このように、多くのリスクを犯してまで無料OSを企業システムに取り入れるメリットは大変低いといっても過言ではありません。以下にはレッドハット社が提供しているRHELとFedoraの比較が掲載されています。

Red Hat Enterprise Linux と Fedora、どちらを選択すべきか?
http://www.redhat.co.jp/software/rhelorfedora/
日本ヒューレット・パッカード株式会社 プリセールス統括本部 ソリューションセンター OSS・Linux担当 シニアITスペシャリスト

兵庫県伊丹市出身。1996年頃からオープンソースに携わる。2000年よりUNIXサーバーのSE及びスーパーコンピューターの並列計算プログラミング講師を担当。科学技術計算サーバーのSI経験も持つ。2005年、大手製造業向けLinuxサーバー提案で日本HP社長賞受賞。2006年、米国HPからLinux技術の伝道師に与えられる「OpenSource and Linux Ambassador Hall of Fame」を2年連続受賞。日本HPプリセールスMVPを4度受賞。現在は、Linux、FreeBSD、Hadoop等のOSSを駆使したスケールアウト型サーバー基盤のプリセールスSE、技術検証、技術文書執筆を担当。日本HPのオープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリストとして講演活動も行っている。Red Hat Certified Engineer、Red Hat Certified Virtualization Administrator、Novell Certified Linux Professional、EXIN Cloud Computing Foundation Certificate、HP Accredited Systems Engineer Cloud Architect、Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack、Cloudera Certified Administrator for Apache Hadoop認定技術者。HP公式ブログ執筆者。趣味はレーシングカートとビリヤード

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています