アンケートから見るSOX法の対応状況

2006年6月19日(月)
能勢 幸嗣

法制化の動向

   日本版SOX法とも呼べる法律は、金融商品取引法として、2006年6月7日参議院本会議で賛成多数で可決・成立した。その法案内容は金融庁のWebサイトにも掲載されているが、企業経営の関心が高い内部統制に相当する部分はほとんど記載がなく、内閣府令により詳細が規定されるようである。

   内閣府令としてだされるだろう実務基準は、金融庁企業会計審議会が2005年12月8日に発表した「財務諸表に係る内部統制評価及び監査の基準のあ り方について」がベースとなり、そこにSECラウンドテーブルなどで議論されたSOX法第404条対応の反省点などを加味した上で、詳細化・具体化したも のとなるだろうといわれている。具体的には、リスクアプローチを採用、内部監査と財務諸表監査の一体化、ダイレクトレポーティングの不採用などである。

   上記の企業会計審議会の報告書を見る限り、確かにリスクアプローチについては、総花的にリスクに対応するのではなく、企業ごとのリスクの重要性に基 づいて絞り込まれたリスクについて評価・対応策を検討するようになっており、これは企業の作業負担を減らすものと期待できる。

   しかし、それ以外の項目については、外部監査法人の負荷を軽減すれども、内部の負荷までを大幅に軽減するような策であると読むのは難しい。


日本企業の対応状況

   前項であげたような法制化の動向に対して、「一体どのように日本企業が対応しはじめているのか?」といった問い合せをよくいただく。その全体像を把 握するために、昨年12月、独自に上場企業約2400社を対象に、SOX法・日本版SOX法および内部統制についての調査を実施した。

   調査対象は、東証一部・二部、東証マザーズ、ジャスダックに上場している約2,400を対象として、郵送方法で実施した。調査の実施時期は2005 年12月で、宛先は各企業の経営企画また送付、経理・財務担当の取締役とした。また比較参考のため、米国SOX法対応を現在推進中の「米国上場日本企業」 にも同様のアンケートを送付している。

各企業の認知度

   まずはSOX法についての認知度であるが、回答企業の86%にあたる企業は日本版SOX法が導入されることについて認識していた。しかしながら、そ の基準案ともいえる金融庁公開草案まで認識していた企業は61%、何らかの対応を開始した企業は63%となっている(図1)。



SOX法の認識・対応状況
図1:SOX法の認識・対応状況
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   昨年末段階ではあるが、依然として6社に1社はSOX法の存在を知らず、3社に1社は金融庁公開草案についても認識していないことになる(ただし、 アンケート実施時点より半年以上経過しており、現在の企業からの問合せ状況を見る限りでは、更に取り組み度合いは高まっているものと考えられる)。

 

各企業の対応状況

   米国SOX対応企業に対して、SOX法への対応開始から本番運用までに要する準備期間を聞いたところ、その平均は26ヶ月(8社平均)であった。日 本版SOX法が、2009年3月期から適用されることを考えると、3分の2の企業が対応を開始しているのは、適切な判断であると考えられる。

   ただし、規模・業種別に見ると少々見方は変わってくる。業種別の対応を見ると、金融や電力・ガスといった業種の認知度が高く、対応開始している企業の比率も高い。一方で商業ならびに新興市場に上場する企業の認知度が低く、対応開始している企業の比率も低い。



米国非上場日本企業におけるSOX法または日本版SOX法への対応
図2:米国非上場日本企業におけるSOX法または日本版SOX法への対応
出所:野村総合研究所「企業改革(SOX法)への対応に関するアンケート」2005年12月
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   このことから、規制業種ならびに大企業ほど認知が進んでいると想像することができる。米国SOX法対応で中小企業ほど内部統制の不備が報告されている現状を鑑みると(第1回参照)、日本も同じように中小企業の対応の遅れが、米国と同じ状況を招く危険性を感じる。

株式会社野村総合研究所

ERMプロジェクト室 上級コンサルタント。SOX法対応を、Enterprise Risk Management、継続的業務改革など企業価値向上につなげる重要性を提唱。チェンジマネジメント、企業再生、リスクマネジメントを専門としている。

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