SOX法に対して、どのように取り組み開始すべきか

2006年7月3日(月)
能勢 幸嗣

成功する先進企業に共通するポイント

   前回では、SOX法の対応に関して企業がどのように取り組みを行っているのかをアンケートからみてきた。そこでは、文書化の他に運用・継続的改善が懸念事項になっていることをあげた。

   そこで今回は、SOX法の運用面、とくに継続的業務改革や企業価値向上にどのように繋げていくかについて、米国の先進企業に実際にインタビューを行い、そこからSOX法への取り組み方を解説する。

   インタビューを行った結果、成功している企業の共通したポイントは次の2点であった。


  • SOX法対応以前の問題として、日常の経営サイクルに法対応・内部統制がしっかりと組み込まれていた点
  • SOX法対応開始時に経営者自らが全社レベル統制について率先垂範していた点
表1:SOX法対応に成功している企業の共通したポイント

   次項より、この表1の代表的な事例として、米国製造業(A社)と米国金融機関(B社)を例に説明する。

米国製造業A社

   世界的にも有名な製造業A社は、企業理念や内部統制に則った高い業績が注目されていた。そこには、SOX法制定以前より様々な形で社内に徹底されていた企業理念・内部統制があった。

   筆者が話を聞いたときに特に印象に残ったのは、内部統制などの考え方を現場に徹底させるために、難しい規定を平易な記述・事例・写真などを交えたハンドブックにし、それを社員だけでなく、サプライヤまでに交付していたことであった。

   このことにより、サプライチェーン全体に内部統制の考えが徹底されており、あたかも内部統制がその企業の商品/サービスの一部であるかのように感じた。

   さらに、毎年、コンプライアンスについても全社的なPDCAのサイクルをまわしている。

   さらに、毎年全社をあげて事業戦略を立案してPDCAをまわすようにしている。コンプライアンスについても全社的なPDCAのサイクルをまわしている。

   四半期に1回、経営幹部から管理職さらには現場従業員(短期派遣社員以外の全社員)へと、上から下へのトップダウン教育が行われる。このセッション において現場より提起された質問に対しては、上位のマネージャはその義務として自ら迅速に対応・回答しなければならない。人材開発部門にコンプライアンス 研修を任せきりにせず、トップダウンで説明し、自ら質問に答える姿勢には驚かされた。

   SOX法が制定された時もこういった素地があったため、A社は非常にスムーズに対応できたようである。

   SOX法が制定された後、まずはガバナンスの見直しに着手している。監督官庁や証券取引委員会が求める基準よりも、数段高い自社の企業統治規定を設 定し、それに従って監査委員会などの各種委員会や取締役会を変革している。さらには、資本市場に対する透明性を高めるために、年間250回以上のアナリス トミーティングを開催している。実に毎営業日、どこかで資本市場と対話していることとなる。いきなり文書化に取り掛かろうと考える企業とは大きく異なる対 応であると感じた。

   上記のようなトップの模範的行動に加え、現場レベルで従前から取り組まれていた「業務品質改善の取り組み」と「エリート内部監査部門」の組み合せにより、単なる法対応・文書化を超えた業務改善活動として直ちに定着化がはかられた。

   またSOX法制定以前より、業務を管理・改善する専門部署があり、すべての部署に業務改善担当者が決められていた。同様に、作業マニュアル、業務フ ローチャート、業務基準などが整備されていたため、文書化作業はそれらをベースとして比較的スムーズに対応を終えている。

   更には、統制状況の内部監査業務については社内のエリート社員をあてることで、社内の隅々までSOX法対応を継続改善活動として浸透させていった。

   少々余談ではあるが、一般的に内部監査業務というと、企業の内部をよく熟知したベテラン社員が担当する。しかしA社では若手の第一線の社員をあて、 内部監査業務を担当させるだけでなく、内部統制および事業上の課題についての社内コンサルティングとしても機能させている。その内部監査部門に所属する社 員は、他のどの社員よりも教育機会を与えられ、極めて厳しい評価と高速での昇進を行っていた。見方を変えれば、さながらエリート養成機関のようである。

株式会社野村総合研究所

ERMプロジェクト室 上級コンサルタント。SOX法対応を、Enterprise Risk Management、継続的業務改革など企業価値向上につなげる重要性を提唱。チェンジマネジメント、企業再生、リスクマネジメントを専門としている。

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