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システム統合の要点
システム統合の要点となるビジネス−IT−組織のアラインメント

第5回:BAに整合したISAの構築
著者:東京工業大学   飯島 淳一   2007/5/22
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ISAの意味:ビジネスアーキテクチャを写し取る

   「成功に導くシステム統合の論点(注1)」で手島は、EA(エンタープライズアーキテクチャ)(注2)におけるデータアーキテクチャを通じて、ビジネスアーキテクチャ(BA)と整合した情報システムアーキテクチャを構築することができるとしている。この際に、ビジネスアーキテクチャを写し取るようにデータモデルを設計することが肝要である。
※注1: 「成功に導くシステム統合の論点」日科技連出版社刊、経営情報学会システム統合特設研究部会編(第4章)

※注2: 第3回:アーキテクチャとフレームワークの定義」参照

   ここで概念データモデルというのは、いわゆるデータ指向アプローチにおいて唱えられるデータ仕様の正規化を目的としたものではなく、対象とする現実世界に存在する「もの」とその間の関係の本質的な部分を抜き出すことにある。

   繁野はこれを、「要」の「もの」と「こと」と呼んでいる。すなわち図1にあるように、「要」の「もの」と「こと」に注目した概念データモデルを介してBAと整合する情報システムアーキテクチャ(ISA)を構築するということである。

BAからISAへ
図1:BAからISAへ


要の「もの」と「こと」

   「成功に導くシステム統合の論点」にて繁野は、中村善太郎の「もの・こと分析(注3)」を引用しながら、要の「もの」と「こと」を、水を沸かす仕事を例に次のように述べている(注4)。

※注3: 中村善太郎著、「もの・こと分析で成功するシンプルな仕事の構想法」、日刊工業新聞社、2003.
※注4: 「成功に導くシステム統合の論点」(第9章)

   ここでの「要のもの」は「水」であり、「要のこと」は「加熱」である。「水を入れたやかんをコンロに載せて火を点ける」という具合に業務プロセスで考えると、「水」や「加熱」以外にも「やかん」「コンロ」「火を点ける」などの様々な「もの」や「こと」が出てくる。しかし、これらの「もの」や「こと」は、「コップに水を入れて電子レンジで温める」と業務プロセスを変えた途端に不要となり、別の「もの」や「こと」が出てくる。「要のもの」と「要のこと」は、仕事の目的を達成するために必須の要素であり、業務プロセスの変化には影響を受けない。

   概念データモデルは、ビジネス活動の対象として変化する「要のもの」と、その変化を起こす「要のこと」だけを捉えてモデル化したものであり、ビジネスの基本構造を表現した極めてシンプルで安定性の高いモデルである。

   ではこのような要の「もの」と「こと」を見つけるには、どうすればよいだろう。それには、対象の奥底に潜む構造に注目することが必要となる。


電気系と機械系の相似

   工学系大学では1年生のときに履修する内容であるが、よく知られた例として、機械系と電気系の相似というものがある。図2左に示す機械系で、入力xを質点へ加える外力とし、出力yを質点の変位としたとき、xとyの関係は、「Md2y/dt2+Rdy/dt+ky=x」という2階の線形常微分方程式で記述できる。ここで、Mは質量、kはバネ定数、Rはダンパ(減衰器)の粘性摩擦抵抗である。

電気系と機械系の相似
図2:電気系と機械系の相似

   一方、図2右に示すように、電気系として電圧源へ抵抗、コイル、コンデンサをつけた電気回路を考える。抵抗をR、インダクタをLとする。電圧源の電圧xを入力とし、キャパシタ電圧yを出力とするシステムと考えると、xとyの関係は「LCd2y/dt2+RCdy/dt+y=x」という、これまた2階の線形常微分方程式で記述できる。

   このように、現象的にはまったく異なって見えるものに対して、入力と出力という、その「機能」に注目すると、いずれも同じ型の関係式で表現できる。この意味で、この表現を「構造」といってもよいだろう。

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東京工業大学  飯島 淳一氏
著者プロフィール
東京工業大学  社会理工学研究科  教授   飯島 淳一
1982年東京工業大学・大学院博士課程修了。1996年より現職。2006年4月より経営情報学会会長。主な研究分野は,情報システム学と数理的システム理論。主な著作は『成功に導くシステム統合の論点(共著,2005)』『入門 情報システム学(2005)』ほか。


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第5回:BAに整合したISAの構築
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  ビジネスにおける構造
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