TOPプロジェクト管理> ユーザSLAとは
SLA
SLAによるITマネジメントのあり方

第3回:ユーザとIT部門をつなぐSLAとは

著者:アイ・ティ・アール  金谷 敏尊   2007/4/6
1   2  3  次のページ
ユーザSLAとは

   「第2回:SLAの策定プロセス」で解説したように、SLAには様々なシーンで締結の機会がある。今回は企業のIT部門がユーザ部門向けに提示するSLA(本連載では、ユーザSLAと呼ぶ)について取り上げる。まずは、国内企業におけるユーザSLAの現状と課題について解説し、SLA策定のアプローチを紹介する。
SLAの誤解

   SLAはここ数年で各種ガイドラインやサンプルがリリースされたこともあり、ITマネジメントツールとして定着/活用されるようになってきた。しかし、SLAの導入によってユーザとのコミュニケーションの改善やサービスレベルの向上を実感している企業は、それほど多くないのではないだろうか。

   この最大の原因は、ITサービスの利用者であるビジネス部門のエンドユーザが、サービス品質の改善を感じていないことにある。つまり、現状のサービスレベル管理の多くは、IT部門とベンダー間で実行されているだけであり、肝心のエンドユーザにはその価値や効果が届いていないのである。

   国内企業がSLAという場合、ベンダーや通信キャリアとの間に交わされるSLAを指すことが多く、各種ガイドラインやサンプルもそのような構成になっている。

   しかし、本連載の「第1回:今、IT部門に求められているSLAとは」で定義したように、SLAとは「サービスを提供する側とその利用者との間に結ばれる」ものであり、IT部門とユーザの関係を視野に入れなければ、SLMの真意を満たすことにはならないのである。

   実際に、先行する海外企業やITIL/COBITなどのプラクティスにおけるSLMの定義では、必ずユーザとIT部門の関係性について言及している。ここに着目しなければいかにSLMを実施しようとも、その効果は自己満足なものに留まるであろう。


ユーザSLAとベンダーSLA

   IT部門から見た場合、SLMで管理すべき対象はユーザとベンダーに大別することができる。ここでは各々へ対するSLAをユーザSLA、ベンダーSLAと呼ぶこととする(図1)。

ユーザSLAとベンダーSLA 出典:ITR
図1:ユーザSLAとベンダーSLA
出典:ITR

   ユーザSLAの対象は、企業のユーザ部門(各種事業部門、財務部門など)であり、グループ企業や関連会社のユーザ部門に対してITサービスを供給する場合はこれらも含まれる。

   一方、ベンダーSLAは、IT部門が外部のベンダーやサービス事業者に対して結ぶSLAを指し、情報システム子会社との間で交わす場合もこれに該当する。ただし、親会社のIT部門が数名程度で企画業務のみを行っており、ユーザマネジメントを含めて情報システム子会社に委託しているような場合はこの限りではない。あくまでも、ユーザSLAは、ユーザ部門から見た時のITサービス供給者が管轄するのが適当といえる。

   ベンダーSLAでは、保証する成果とそれを実現するプロセスについてのコミットメントを明文化しなければならない。他方、ユーザSLAにおいてはコミットメントの内容をユーザの視点から表現することが重要である。

   これにはIT用語でなくビジネス用語を用いることは勿論のこと、ユーザが日頃から認識しているITサービスを捉えて記述しなければならない。例えば、「メインフレーム」というインフラ単位ではなく「財務会計」「人事給与」といった具合に、アプリケーションや業務の単位でサービスレベルを示す必要がある。

   また、ユーザSLAは、IT財務管理にも密接に関わってくるため、課金との連動についても配慮が必要だ。IT部門が内部課金(あるいは擬似課金)を行う場合や情報システム子会社が委託費を請求する場合、消費したシステムリソースや人件費は納得性の高い方法で配賦されなければならないからだ。

   配賦費用はCPU使用率や利用ユーザ数などの指標を元に理論的に算出できる。しかし部門のロケーションや業務上の性質によって実際の価値は異なってくるので注意が必要だ。例えば、本社に比べてローカルの拠点ではレスポンスタイムや保守サポートのサービスレベルは劣るのが一般的である。

   ユーザ部門は享受するサービスレベルが課金額に見合っているかどうかについて注意を払っており、SLAを策定する際にはこの点を意識することが求められる。

1   2  3  次のページ


株式会社アイ・ティ・アール 金谷 敏尊
著者プロフィール
株式会社アイ・ティ・アール
金谷 敏尊

シニア・アナリスト
青山学院大学を卒業後、マーケティング会社の統括マネージャとして調査プロジェクトを多数企画・運営。同時にオペレーションセンターの顧客管理システム、CTIなどの設計・開発・運用に従事する。1999年にアイ・ティ・アールに入社、アナリストとしてシステム・マネジメント、データセンター、アウトソーシング、セキュリティ分野の分析を担当する。著書「IT内部統制実践構築法」ソフトリサーチセンター刊。


INDEX
第3回:ユーザとIT部門をつなぐSLAとは
ユーザSLAとは
  ユーザSLA導入の障壁
  ユーザSLA策定アプローチの選択