コンペティタの一歩上を行く提案活動

2006年11月17日(金)
鍋野 敬一郎

ERP商談の難しさ

ERP商談は他の商談と比べて難しいといわれます。ERP商談は、商談金額が大きく、コンペティション(以下、コンペ)が多く、そして利害関係者が多岐に渡るため、従来の業務アプリケーションの商談に比べると実に手間が掛かって勝敗が読みにくいという特徴があるためでしょう。

以前、筆者がERPベンダーに在職していた際に、提案が通ったお客様に対して、ERP導入時にサーバ納入ベンダーがどの程度替わったのかを調べたこ とがあります。その結果は5割以上で、予想以上にベンダー変更の比率が高く、様々なところで利害が関係していることがわかりました。

また最近では、お客様がかなりしっかりとしたRFP(Request For Proposal)を作成するケースが多く、既存システムを構築した実績があってもそれがアドバンテージにならずに敗退することも多くなりました。

では、どのように商談を持っていけばよいのでしょうか。まずは、ERPにおける商談アプローチの方法を図1に示します。ターゲットとする顧客領域を明確にして、効果的にコンタクトを取り、想定する商談シナリオにそって商品を選別し、確実に案件が獲得できる営業アプローチを確立することが基本となりま す。

商談アプローチの確立
図1:商談アプローチの確立
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)


実際のERP商談で成功の鍵となるのは、営業アプローチの中でコンペに対する優位性をどれだけ顧客にアピールできるかです。そのためには、お客様に自社提案の強みを理解してもらうための差別化が欠かせません。では、ERP提案活動における差別化戦略とは具体的に何をいうのでしょうか。以降では、この差別化戦略について解説します。

お客様情報をきちんとコントロールする

差別化とは、お客様の判断基準の中でコンペの相手よりも優位に立つということです。ここでポイントとなるのは、お客様とは具体的に誰なのかということです。

敗因はお客様を理解していないことにある

ERP商談に登場するお客様は、通常「情報システム部門」「経営者や取締役会」「エンドユーザ」の3者です。図2はベンダーの視点から見たERP提案活動のプロセスの一例ですが、ここからも、複数のターゲットに異なるアプローチで訴える必要があることがわかるでしょう。

ERP提案活動のプロセス(例)
図2:ERP提案活動のプロセス(例)


最近よく聞く敗因分析は「ERPは経営者のためのシステムであるという論陣を張って、経営者と情報システム部門を味方にすることができ、勝ちを疑っていなかった。しかし、実は投資予算の負担はユーザ部門であり、ユーザ部門からの賛同を得られず敗退した」というものです。

確かに、ERPの本質は経営者の意思決定を迅速化するための手段ですが、その説明がエンドユーザにとってはメリットがないという誤解を生じさせ、敗北に繋がったと考えられます。決裁者へのアプローチも重要ですが、エンドユーザとのコミュニケーションをおろそかにすると、こうした結果を招くこともあります。

ERPが登場して既に10年以上経っていることから、ERP導入のメリット/デメリットについてはお客様企業も十分に理解しています。そのため従来どおりの教科書的な説明では説得できなかったのだと思われます。

ここでポイントとなるのは、本当の意思決定者が誰か、お客様の判断基準や価値観をきちんと把握できていたのかということです。敗退の原因は、お客様情報管理が甘かったことにあります。

仕事柄、いろいろなベンダーや仲間とERP商談について話す機会が多いのですが、毎回疑問に思うことは「大半の会社がお客様情報を管理するためのアカウントプランを提案活動に活かせていないのではないか」ということです。

1966年生まれ。同志社大学工学部化学工学科卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農 業用製品事業部に所属しマーケティング責任者などに従事。1998年よりERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職しマーケティング担 当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経てアライアンス本部にてmySAP All-in-Oneソリューション立ち上げを行った。現在はERPベンダーのマーケティング・アライアンス戦略の支援や、ERP導入業者のビジネス活動 の支援に従事。

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