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【基調講演】オープンソースがもたらす経済・社会変革
【HP/Red Hat】 Open Source Summit

【基調講演】オープンソースがもたらす経済・社会変革

2006/11/15
「【HP/Red Hat】 Open Source Summit〜 本日は、エンタープライズ・オープンソース無限大記念日 〜」が開催

   2006年11月15日、日本HPとレッドハットは東京コンファレンスセンターにて「【HP/Red Hat】 Open Source Summit」を開催した。これはHPおよびRed Hatエグゼクティブによる最新Linux/オープンソース動向や注目のオープンソースミドルウェア、仮想化技術などのトピックスなどの最新の事例などを紹介、業界を代表するシステム・インテグレータ各社のキーパーソンが語られる場である。ここでは「【HP/Red Hat】 Open Source Summit」で講演された各セッションの詳細を追っていく。


オープンソースがもたらす経済・社会変革

   「【HP/Red Hat】 Open Source Summit」の基調講演として、京都大学経営管理大学院 大学院経済学研究科教授の末松千尋氏より「オープンソースがもたらす経済・社会変革」と題した講演が行われた。ここではオープンソースがもたらす変革の端的な特徴は、「巨大なトランザクションコストの削減」にあると末松氏は語りビジネスモデルとしてのオープンソースについて話された。

京都大学経営管理大学院 大学院経済学研究科教授の末松千尋氏
京都大学経営管理大学院 大学院経済学研究科教授の末松千尋氏


トランザクションコストとは

   まず最初にオープンソースの最大の貢献の1つは、経済・社会活動のトランザクション・コストを抜本的に削減し、知識創造活動を活性化させた最初の成功事例となったことであると述べた。このトランザクション・コストとは、あるモノが開発され流通網にのって消費者の手に渡るまでにかかる、調査、調整、取引、契約、輸送、検査などすべてのフェーズでかかるコストを指す。

   末松教授は「これまで、知財の流通の活発化や創造活動の活性化の障害となっていたものが、このトランザクション・コストである」と述べ、「オープンソースの知的生産活動が進んだのは、価格をゼロとするライセンス形態(GPL)の採用により、トランザクションコストを削減したことにある」とオープンソースの成功の理由を語った。


オープンソースは新しいビジネスモデル

   人々がアイデアや知識、ノウハウを交換し、次の新しい開発へとつなげていくためには、これまでその間のやり取りのために多くのコストがかかっていた。オープンソースは、これらのコストを削減することで、取引をしやすくし開発を促進した。しかもコミュニティ内の情報共有システムが、相互理解を深めていった。

   なお、インターネットではオープンソース的な考え方に基づく、ビジネスや技術がすでに当然のこととなっているとして、末松氏はe-マーケットプレイスの成功やXML、ebXMLの事例をあげた。これらを踏まえ、「オープンソースの考え方は新しいビジネスモデル」と末松氏は言い切った。

   オープンソースが現在のように活性化する以前から、市場で勝つためには標準化戦略が必要なことは十分認識されていた。そのなかでオープンソースは価格ゼロで公開することにより、市場に進出して標準獲得に成功したという。さらにその標準を活用した事業展開も進んでおり、その意味でオープンソースは「標準化戦略の決定版」であると末松氏は述べる。


ビジネスモデルとしてのオープンソース

   ここで頭に浮かぶのは「価格ゼロのオープンソースでどう儲けるのか」という根本的な疑問だ。末松氏は、その答えは「インターフェース規約」「市場シェア」「相対的生産量」という3つのキーワードにあると語る。


インターフェース規約

   まず1つ目がインターフェースを標準化することによる価値だ。これは標準化したインターフェースを他製品が利用することによる収益があがる。しかし、これが限りなく縮小傾向にあるという。むしろ、顧客やパートナーに訴えるブランドとしての力が大きな資産になる。

   また標準化により、そのインターフェースを使った製品を使う場合に必要な教育や、コンサルティングなど付帯事業からの大きな収益が見込まれる。しかもこの付帯事業の推進ノウハウは、ファースト・ムーバーアドバンテージとして大きな価値を持つという。


市場シェア

   オープンソースは販売コストを費やすことなく、販促が実現されるため、市場シェアの拡大に成功した。市場シェアを持つということは、消費者に訴えるブランドを確立することにつながる。ブランドとしての価値が高まるということは、サイトへの集客力の向上につながり、それは広告事業への転用が可能である。


相対的生産量

   相対的生産量が、関係する事業の間接費の削減効果がある。さらに、市場情報をデータベース化することで、市場の動きを把握し新しい販売チャネルを確立することにもつながる。


オープンソースは従来の経済活動の延長

   オープンソースは、GPLによるトランザクションコストの劇的な削減により、価値創造の無限連鎖を容易にした。またオープンソース的な開発体制は知財の流通プラットフォームを形成し、さらに圧倒的な市場シェアを獲得し標準化戦略としても成功している。このことから、末松氏は「オープンソースは従来からの経済活動の延長線上にある、極めて経済合理的な活動である」と結論付け、講演を締めくくった。

(ThinkIT編集局 千本松 歩)