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独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)
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IPA「情報処理産業経営実態調査」の調査結果を公表

2006/11/30
従来の調査にヒアリング調査を追加した初の試み

   独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)は11月29日、情報処理産業(ソフトウェア業および情報処理サービス業)4,000社を対象に、2期連続の確定決算に基づく財務諸表を基礎とした経営・財務に関する実態調査(有効回答数:861社)を実施し、その調査結果を発表した。また同時に2005年の情報セキュリティインシデント/コンピュータウイルス被害状況の調査結果についてもあわせて報告が行われた。

   はじめにIPA 参事 小林 敏章氏より挨拶が行われた。小林氏は「28回目となる今回の調査は、初の外部機関に委託した調査となり、従来のアンケートに加えヒアリング調査を実施したため、より詳細な調査/分析が行われた」と述べた。

IPA参事 小林 敏章氏
IPA参事 小林 敏章氏


数字より浮かび上がる情報処理産業の実態

   調査結果の概要説明は、IPA ソフトウェア開発・金融推進部の金関 雄二氏より行われた。まず情報処理産業の売り上げ高については、「全体として0.8%のプラスとなっているが、大企業では0.5%の減少、中小企業で2.6%の増加と相違が見られた」と述べ、「e-Japan戦略などの公共事業に関する需要が一巡したことなどが大企業が減少したことの要因になっている」と原因を分析した。また「50人以下の零細企業もマイナスとなった。これは企業間の受注競争激化が影響していると考えられる」と述べた。

IPA ソフトウェア開発・金融推進部の金関 雄二氏
IPA ソフトウェア開発・金融推進部の金関 雄二氏

   労働生産性(注)については、「ソフトウェア業においては、総売上の50%以上がソフトウェアプロダクト販売分野である企業では6,335円、同比率が受注ソフトウェア開発分野である企業は4,029円と、業種によって差があった」と発表した。さらに、受注ソフトウェア開発の売上高が上昇するにつれ、労働生産性は低下する傾向があることから、「大企業からの下請け、孫請けで開発を行う企業より、自社でソフトウェアプロダクトを開発・販売する企業のほうが労働生産性は高い」と分析した。

注: 労働生産性
付加価値を労働投入量(労働時間×労働者数)で除した値。
付加価値=人件費+リース・レンタル料+原価償却費+地代家賃+租税公課+支払利息割引料+経常利益

   ITスキル標準については、大企業での認知度、活用の傾向が強いことが発表された。また小林氏は「活用状況別に労働生産性をみると、活用済みの企業のほうが労働生産性が高い」と述べその効果を強調した。

スキル標準の活用
図:スキル標準の活用

   また、今回の調査研究の研究委員長を務めた東京大学大学院 教授 元橋氏より、調査結果についての意見が述べられた。

   元橋氏は「従来、ソフトウェアの下請け業者の開発費用は、人月単価の積み上げにより見積もり額が提示されてきた。この場合、作業の効率化をはかり生産性を上げると金額が安くなってしまう。よって、例えばアウトプットをファンクションポイント(機能の数や複雑さ)で見積もるなど業界構造の変革が必要になる」と語った。

   また、そのためには「ITスキル標準などを浸透させ人材スキルレベルを業界全体で向上させることも大事だが、ファンクションポイントで見積もるための標準やモデルケースなどが必要になってくる」と提言した。


セキュリティインシデント、コンピュータウイルスの被害状況調査について

   次にIPAセキュリティセンター長 三角 育夫氏より、情報セキュリティインシデント発生時の企業の被害額およびコンピュータウイルス被害状況調査についてのアンケートおよびヒアリング調査結果が発表された。

IPA セキュリティセンター長 三角 育夫氏
IPA セキュリティセンター長 三角 育夫氏

   SQLインジェクションによる不正アクセス発生時の被害額について、三角氏は「復旧対策や問い合わせ窓口など対策経費で数百万〜数千万に及ぶ。1億円を超えるケースも複数ある」と述べた。売り上げは「数ヶ月のシステム閉鎖により数億〜数十億の損失」があるといい、その被害規模の大きさを強調した。

   Winnyによる情報漏えい被害では「被害状況の調査や分析で500万〜800万、問い合わせ窓口など対外説明の費用が45万〜1,600万円が推計され、総額で2,000万円を超えるケースもある」と調査結果を発表した。

   ウイルス発生時の被害額については、アンケート結果のデータを被害額算出モデルに適用し、被害額を推計したところ中小企業で430万円、大企業で1億3,000万円となったという。この場合「復旧作業にかかるコストは小さいが、システム停止による売上げ減が大きく影響する」とのことだ。

問い合わせ先

情報処理産業経営実態調査報告書について
独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア開発・金融推進部
TEL:03-5978-7505

セキュリティインシデント、ウィルス被害について
独立行政法人 情報処理推進機構 セキュリティセンター
TEL:03-5978-7527

http://www.ipa.go.jp/

(ThinkIT編集局  千本松 歩)