ESBが目指すこと

2006年2月17日(金)
江川 潔

ESBの事例

クレディスイスの事例はSOA大規模な事例として以前から参照されているものです。SOA大全(注1)でもクレディスイスの事例が登場します。

※注1:SOA大全
Dirk Krafzig,Karl Banke,Dirk Slama著/山下眞澄 監訳、日経BP社

また、同じ本には次にあげるドイツポストの事例も登場します。クレディスイスの事例はCORBAによるものですので、正確にはESBの事例とはいえませんが、CORBAでもSOAをベースにしたシステム基盤を作れるということを示しています。

クレディスイスのIT部門のグループは、このSOAの基盤を設計し、構築した経緯を1999年にIEEEにリポートしています。「Service Architecture Integrates Mainframes in a CORBA Environment」がその題名ですが、IEEEのポータルサイト(注2)で検索していただくとIEEEのメンバーであれば無料で入手することができます。このリポートによって、当時はなにが課題であったかがおわかりになると思います。
 


クレディスイスはM&Aの結果、金融サービスのコングロマリットとしてグループを形成しています。このコングロマリットのためにシステム統合が必要となり、サービス指向のアーキテクチャを採用しました。メインフレーム上の既存の基幹系システムをCORBAによりラッピングして、CSIB(Credit Suisse Information Bus)上で新しい金融業務ために開発されるアプリケーションが、このCORBAによるサービスを利用します。

2000年には176サービスであったのが、2001年には300サービスまで拡大し、さらに2004年には1500サービスとなり、そのうちの70%が複数のアプリケーションから再利用されています。2004年にはメインフレーム上のサービスを呼び出す回数が月間8000万回におよび、2001年に比べると4倍の利用度となっており、このSOA基盤がクレディスイスの業績に多いに貢献したと思われます。1999年にIEEEにリポートしてから2004年までの間に着実に基盤を整備してきたことが、成功しているSOAの事例としては特筆すべき要因といえます。また、この間、アーキテクチャ・グループという新しい組織をつくり、サービス指向のガバナンスを実現してきました。
 

クレディスイス事例
図2:クレディスイス事例
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

もう1つの事例はドイツポスト(DHL)です。ドイツポストは日本にとって、郵政民営化の先例になります。その民営化には準備期間があり、その間にグローバルな物流会社のDHLなどを買収しています。この買収の結果としてシステムの統合が必要になり、システム連携のためのSOAの基盤を開発するプロジェクトが数年間にわたり続けられています。

その中核にあるのがSOP(Service Oriented Platform)です。SOP上ではビジネス・ドメイン・モデルによって部門や役割でサービスが分類されて、機能の冗長化を防ぎます。新しい上位のビジネス・プロセス・アーキテクチャのレイヤーにはJavaのAPIが提供され、BPELをサポートするプロセス・マネージメントを利用します。

一方、下位のITアーキテクチャのレイヤーは基幹系システムを配置し、ラッパーによってSOPとの間はWebサービスのインタフェースでサービスを提供する側となります。ドイツポストもやはり1999年からSOAのコンセプトを研究して、実践しており、SOP V1はオープンソースによるプロトタイピングで実証し、SOP V2で商用の製品を使って2005年にリリースしています。当然SOPだけでなく、基幹系アプリアプリケーションをサービス化するプロジェクトと新しい上位のアプリケーションを構築するプロジェクトが並行して進められています。
 

ドイツポスト(DHL)の事例
図3:ドイツポスト(DHL)の事例
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

このようにSOAの基盤をまず整備して、サービスやそれを利用するアプリケーションを拡大していくことがSOAの王道ともいうアプローチですが、すべての企業が同様のアプローチを取れるとは限りません。これをサポートするために、ESBを利用する上では目標を大きく構えて、実際は小さくはじめられる必要があります。

日本アイオナテクノロジーズ株式会社 テクニカルセールスマネージャ

株式会社富士通SSLでNTT仕様のオペレーティング・システムの開発に従事したのち、日本ディジタルイク イップメント株式会社でNTT向けシステムの開発、その後、ソフトウェアとハードウェアのプリセールス活動を展開した。DECの合併を経て、現職のミドル ウェア製品のマーケティング、アライアンス、プリセールスなどに従事。

blog「Essence is Real」
http://blogs.iona.com/essence/

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