開発に手詰まりを感じたら静的設計を見直そう

2015年1月28日(水)
吉谷 愛

はじめに

前回は、「ボウリングスコア計算プログラム」の開発をテスト駆動開発(以下TDD)で進めていく過程で、「ExtractMethod」というリファクタリング手法を用いて「連続ストライク」等より複雑なテストケースの実装を、初学者の「古谷」がTDDの達人である「高梨先輩」に教えを乞う形で進めてまいりました。今回は、「静的設計のブレイクスルー」をテーマに、「設計の洗練」についてご説明します。なお、この連載ではプログラミング言語RubyでTDDを実現しておりますが、必ずしもRuby経験者が対象ではありません。Ruby未経験者でもプログラミング経験者であれば、ある程度理解できるように考慮して進めてまいります。

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  1. [古谷]古谷です。前回は、ありがとうございました! 前々回の「スペア」に続き「ストライク」の実装を行ったことでもうTDDに関してはほぼ理解できた気がするのですが、錯覚でしょうか?
  2. [高梨]高梨です。そうですね、さすがにこれだけで「TDDはほぼ理解した」と公言したら場所によっては袋叩きにあう可能性があります。ですが、学習の過程で古谷さんが手応えと自信を獲得できたことを、僕はとても嬉しく思います。ちょうど今回から「振る舞い」や「事前条件・事後条件」等の動的設計から、静的設計である「インターフェース」や「名前(ネーミング)」にシフトしようと考えていたので、タイミング的にもベストです。
  3. [古谷]そうだった! 前回ちらっと高梨先輩がおっしゃっていた「動的設計」と「静的設計」の話を聞いて初めて、今まで自分がやっていたことが「動的設計」だということを知りました。「自分がやっていたことが何なのかも把握できていなかったのだ、ほぼ理解できた気がしていたけれど錯覚なのかな」と、最後にちょっと不安になったのを思い出しました…… でも不安がっても仕方ないので、とにかく前に進みます!
  4. [高梨]大丈夫です。今回も、今まで通りインクリメンタルに進めますので、安心してください。それでは、まずは今までの「動的設計」の総仕上げとして、「スペアとストライクの複合テストケース」を実装しましょう。さあ、今まで通り、まずはテストケースから考えていきましょうか。古谷さん、下記のような投球をした場合、ボウリングでは何点になりますか?」
  • 第1投目:10ピン倒す(ストライク)
  • 第2投目:5ピン倒す
  • 第3投目:5ピン倒す(スペア)
  • 第4投目:3ピン倒す
  • 残り15投球:すべてガター
  1. [古谷]はい! まず倒した本数は10+5+5+3=23本、ストライクのボーナスが2、3投目の5+5本、スペアのボーナスが4投目の3本、23+5+5+3=36本です!
  2. [高梨]その通りです! では早速テストケースを実装してみましょう。
ストライクとスペアが続いた場合のテスト

図1:ストライクとスペアが続いた場合のテスト(クリックで拡大)

  1. [古谷]うーん、上手くいってないです……。
  2. [高梨]3点足りていませんね。
  3. [古谷]そうですね、ん? ということは最後のスペアのボーナスがちゃんとカウントされていないのかもしれません、ちょっと見直します…… あっ!
  4. [高梨]わかりましたかどうしました?
  5. [古谷]スペアの判定がおかしいです! このプログラムでは、第2投目にスペアの判定を行っていますが、第1投目か第2投目かの判断は、単純に交互に繰り返しになっているかで判断しています。今回のケースはストライクが第1投目に来たので、本来なら第3投目がフレーム単位では第2投目になるのですが、それが第1投目と判断されています!
  6. [高梨]確かに。まあ、スペアの実装中は、ストライクの概念を全く考えていなかったから仕方ないでしょう。さて、どうしましょうか?
  7. [古谷]そうですね…… 安易に分岐を増やすとテストがまた面倒になるので、第1投目か2投目かの判断をする際に、ストライクのボーナスが2の時は強制的に1にするようにします。
  8. [高梨]なるほど。では、実装してみてください。
  9. [古谷]はい! こんな感じです!
@shot_noの設定条件を追加する

図2:@shot_noの設定条件を追加する(クリックで拡大)

  1. [高梨]素晴らしい! それではどんどん進みましょう。次は、こんなテストケースを実装してみましょう。
  • 第1投目:10ピン倒す(ストライク)
  • 第2投目:10ピン倒す(ストライク)
  • 第3投目:5ピン倒す
  • 第4投目:5ピン倒す(スペア)
  • 第5投目:3ピン倒す
  • 残り13投球:すべてガター
  1. [高梨]この場合、倒した本数は10+10+5+5+3=33本、ストライクのボーナスが2、3、4投目の10+5+5+5本、スペアのボーナスが5投目の3本、33+10+5+5+5+3=61本になるはずです。
スペアと連続ストライクのケースをテスト

図3:スペアと連続ストライクのケースをテスト(クリックで拡大)

  1. [古谷]あれ? 58になりました…… うーん、やっぱりボーナスの計算がおかしいですね。、さっき修正したはずなのに、なぜでしょう?
  2. [高梨]前回のテストケースは通っていますね。では、今回と前回のテストケースの違いはなんでしょうか?
  3. [古谷]それは連続ストライクか単発ストライクかだけの違いしかなくて…… あっ! ちょ、ちょっと待ってください、見直します!
  4. [高梨]大丈夫です。慌てないで、じっくり見直してください。
  5. [古谷] 第1投目か2投目かの判断をする時、ストライクのボーナスカウント数しか判定条件になっていません。、連続ストライクのボーナスカウント数も対象にしないと! 修正します!
  6. [高梨]お願いします。実装できましたか?
  7. [古谷]はい!
さらに@shot_noの設定条件を追加

図4:さらに@shot_noの設定条件を追加(クリックで拡大)

フロイデ株式会社 代表取締役

「最新のアーキテクチャを追及し続ける技術者集団」を目指す、フロイデ株式会社代表取締役社長。現在は、自身のCOBOLからRailsまでの非常に幅広い開発経験や、学生や未経験社員への技術指導経験を糧に、技術講師としてソフトウエアエンジニアの育成に注力している。2013年06月より、初心者向けの「はじめようRuby on Rails開発!」シリーズを考案。“技術者の立場にたった、技術者の心に火をつける”熱い講義をモットーとしている。

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