Zabbixは九州でも運用監視のデファクトスタンダードとなるか?

2015年2月13日(金)
溝口 則行

低コストで安定した運用が求められる昨今、運用監視をこれまでの従来製品ではなくOSSツールで検討されるケースがますます増えてきた。今回、『Zabbixセミナー in 九州 2015』と銘打って、おそらく九州初開催となる、Zabbixにフォーカスしたセミナーが、1月16日に福岡で開催された。このセミナーでは、Zabbixの紹介と九州地区でZabbixを実際に運用されている企業からの導入事例の紹介、Zabbixをより効果的に活用するノウハウの紹介が行われた。


会場は福岡市の電気ビル「共創館」という、共に創るOSSの価値観にふさわしい場所で開催された。

プログラム

タイトル講演者
1Zabbixのご紹介Zabbix Japan LLC
寺島広大氏
2Zabbixを活用した鳥瞰的監視ポータル九電ビジネスソリューションズ株式会社
出田幹晴氏
3宮崎県サーバ統合基盤におけるZabbix監視九州通信ネットワーク株式会社
馬場浩志氏
4データセンター運用監視をZabbixで実現宮銀コンピューターサービス株式会社
篠原康久氏
5Zabbix監視を実現、その次に!!インフォコム株式会社
村上俊孝氏/吉田和也氏
6クラウド時代のOSS活用と運用管理 ~Zabbix徹底活用~TIS株式会社
池田大輔

Zabbixのご紹介

最初のセッションは、Zabbix Japan LLCの寺島広大氏から、ZabbixとZabbixに関するサポートサービスの全体的な紹介が行われた。

1.Zabbixは企業が開発の中心となり、サポートサービスを提供している

カスタマサポートからの要望や問題報告が確実に製品に反映される。たとえばバージョン2.2.0〜2.2.7での改善・拡張点では、日本のカスタマサポートがきっかけである項目が10%含まれている。

2.各種サポートサービスが用意されている

問い合わせサポートの他に、トレーニングや、追加機能開発サービスなどが提供されている。

3.製品としてのZabbixの優位性

監視機能の豊富さと各種の自動化手段、APIによるデータ活用など、多くの優位性がある。
今ではOSSを企業ITで活用していくことはかなり一般的になってきた。しかし、OSSそのものや、OSSを企業ITで利用していく際のサポートサービスについて、不安を持たれている企業ユーザも少なくないのが現状であろう。寺島氏の講演は、それらの課題に対して丁寧に答えていくものだった。

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Zabbixを活用した鳥瞰的監視ポータル

九電ビジネスソリューションズ(以下、QBS)出田幹晴氏からは、Zabbixを活用した鳥瞰的監視ポータルが紹介された。

QBSでは2013年に電力会社の監視ソフトウェアをZabbixに移行し、その一環で、監視ポータルは生まれた。この監視ポータルは、

  1. システムの稼動状況が鳥瞰的に表示される
  2. Zabbixと直接連動している
  3. 運用現場のニーズに対応した機能を提供している

といった特長を有している。

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また、多くのOSS採用事例と同様に大幅なコストダウンを図ることができた。同時に、Zabbixの豊富な機能を活用して、従来よりも多くの付加価値ある監視が実施できるようになった。その付加価値のひとつが「見える化」を実現した監視ポータルであった。この監視ポータルは、Zabbixに新たに開発した機能を組み合わせることで、クオリティの高い運用監視を実現している良い実例である。

QBSでは、「監視ポータル」以外にも、「オンプレミス導入支援」「リモート監視サービス(クラウド型)」「Zabbixサポート」を『BEYMZ(Bird's Eye Monitoring for Zabbix)』として提供している。今後は電力会社以外の多くのお客さまにもZabbixを活用した監視システム導入の効果を実感していただきたいと話す。

[ユーザ事例] 宮崎県サーバ統合基盤におけるZabbix監視

九州通信ネットワーク株式会社(以下QTNet)馬場浩志氏からは、宮崎県サーバ統合基盤の監視をZabbixで行っている事例が紹介された。

QTNetは、宮崎県サーバ統合基盤を宮崎県専用のクラウドサービス(IaaS)として構築・提供し、県が保有する約70の業務システム(300台以上のサーバ)を統合基盤に順次移行している。この宮崎県サーバ統合基盤は、津波などの災害時のDR対策も兼ねて進められている。そして、その基盤設備(物理サーバ、ネットワーク機器等)と仮想サーバ群、業務システムの監視をZabbixで実現している。

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宮崎県サーバ統合基盤でZabbixを採用した理由のひとつはやはりコストダウンであった。当初は「OSSで大丈夫か?」との心配の声があったことも事実だという。しかし、「調べて見ると導入事例はたくさんあったし、グループ企業での実績はたいへんに参考になった」とのこと。現在、運用開始後9ヶ月を経過しているが、順調に稼働しているという。

[ユーザ事例] データセンター運用監視をZabbixで実現

宮銀コンピューターサービス株式会社(以下MCS)篠原康久氏からも、Zabbixによるデータセンター向け監視の実現事例が紹介された。

きっかけは、2010年導入の旧監視環境が2015年3月に更改時期となるため、その後継となるものを探していた際に、前述のQBS事例の紹介を受けたこと。採用理由としては、単純に低価格というだけではなく、サーバノード数の変更の際にエージェントライセンスの買い直しや追加調達が不要であり、監視系も含めて迅速にサーバ追加に対応できることもメリットである。機能面では、Webブラウザで監視可能で専用クライアントが不要な点は、IDC利用者である顧客向けの画面を提供しやすい点が挙げられる。

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この新監視環境は、2015年4月の本格稼働に向けての並行運用が始まろうとしている。今後は、IDC利用者向けのオプションサービスも拡大していき、新しい顧客の獲得にもつなげていきたいとのこと。

Zabbix監視を実現、その次に!!

ユーザ事例につづき、インフォコム株式会社の村上俊孝氏と吉田和也氏からの、監視の次に取り組みたい運用機能についてのユーザの意向調査の結果報告と、ソリューションの提案があった。

ITシステム運用に求められる機能は、もちろん監視だけに留まらない。バッチジョブ運用もあるし、インシデント管理や構成管理なども必要になる。この発表では、Interop Tokyo 2014でのアンケートから「ユーザが次に何を必要としているか」の実態が明らかになった点が興味深い。関心を示している個々のソリューションやツールを整理すると、①バッチジョブ管理、②統合運用管理、③監視機能の高度化の3つに大別されるという。そして、これらを実現するZabbix連携ソリューションがユーザニーズに合致することが示された。

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インフォコムとしては、①バッチジョブ管理に対して「LoadStar Scheduler」を提供。これは、ソフトバンクテレコム株式会社により開発されたもので、ソフトバンクグループの他、帝人グループでの本格採用実績がある。また、②統合運用管理については「LoadStar Conductor」の提供を開始予定。

クラウド時代のOSS活用と運用管理 ~Zabbix徹底活用~

最後のセッションはTIS株式会社の池田大輔より、Zabbixと組み合わせて利用する推奨のOSSを紹介した。

現在、企業ITはプライベート環境とパブリックなクラウドが共存したハイブリッドクラウドに移りつつあり、そこでの運用管理・監視ツールはOSSが適している。クラウドを含む仮想化された基盤では、ソフトウェアの層が多くなり、運用作業を自動化することが可能になっている。また、各社のクラウド基盤が提供する機能ともAPIで連携させることで、自動化が可能になっている。

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Zabbixと連携・役割分担することができるOSSは様々あるが、その例がいくつか示された。たとえばJobSchedulerはバッチジョブ管理のOSSであり、Zabbixと連携させることが可能。また、構成管理ツールAnsibleや自動テストのServerspecにより環境構築の自動化を進めることができる。

さいごに

昨今、首都圏ではOSS関連のセミナーや勉強会が頻繁に開催されているが、首都圏以外では最新の情報に触れる場が少ないのが実状であろう。今回、運用監視にテーマを絞って、「Zabbixとは」から始まり、九州でのユーザ事例や、発展的な活用ノウハウまで包括的な情報提供の場となった。事前申込者からの欠席はほぼ皆無で、予定席数が埋まったまま途中離席される方もおらず、聴講者の関心の高さ・真剣さを強く感じるセミナーとなった。

TIS株式会社
勤務先でのOSS推進グループのリーダをしつつ、会社を抜け出してOSS関連のコンソーシアムなどによく出没する。得意分野は懇親会。技術系ブログサイト「Tech-Sketch」では、同僚のタレントたちがOSSの最新情報を書いている中で、なぜかネットワークとか性能工学とか異色のネタを披露している。

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