ベアメタルの今を語り尽くすイベント「第1回OCDETベアメタルWG勉強会」レポート
IaaSなどで物理サーバーのノードを提供する技術に関する勉強会「第1回OCDETベアメタルWG勉強会」が、1月28日に開催された。オープンクラウド実証実験タスクフォース(OCDET)で「ベアメタルWG(ワーキンググループ)」が設立された一環としてのイベントだ。OCDETの参加団体である一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA)とオープンクラウドキャンパスが共催し、IDCフロンティアが会場を提供した。
IaaSなどのクラウドでベアメタルという場合、仮想サーバーのように物理サーバーを増減できる必要がある。こうしたクラウドでの物理サーバーの利用は、IaaSの普及と、クラウドでの高パフォーマンスのニーズにより、最近しばしば耳にするようになってきている。IaaS基盤ソフトであるOpenStackやCloudStackも、物理サーバーの管理に対応してきた。
勉強会では、前半はOpenStackやCloudStackで物理サーバーをプロビジョニングする技術について解説する「ベアメタルクラウド技術編」、後半はベアメタルクラウドサービスの提供やベアメタルプロビジョニングを実施している事業者がサービスを紹介する「ベアメタルクラウド事業者編」と、2部に分かれて進められた。
ベアメタルが求められる背景と課題
イベントの開会を兼ねて、CUPA理事長の荒井康宏氏が、OCDETのベアメタルWGとベアメタルプロビジョニングについて、背景を解説した。
まず、OCDETの2014年度体制について紹介。OCDETの活動目的として、IaaS基盤のノウハウを提示することを説明。時代の流れの速い中で、今求められている技術として、2014年度からベアメタルWGを設立したと語った。
続いて、物理サーバーをクラウドのように用意するベアメタルプロビジョニングについて解説。ビッグデータ解析やゲームシステムなどパフォーマンスが求められる特定分野のシステムでは、ハイパーバイザーが不要ではないか、というのが背景だという。
そのうえで技術課題として、ネットワークの分離や、ストレージの提供方法、IPMIの提供範囲、ノードの管理方法などが挙げられた。
OCPのサーバーをOpenStackでプロビジョニング
技術編ではまず、タクラ氏(CTC)が、OpenStackで独自の方法を使い、仮想マシンとベアメタルを共存させてデプロイを自動化する技術検証について報告した。
構成要素は、OpenStack Icehouseと、OS自動インストールのCobbler、OCP(Open Compute Project)認定サーバー、ネットワーク機器向けLinuxであるCumulusの動作するスイッチ(VLAN設定)、分散ストレージのCeph(ベアメタルサーバー用ストレージ)など。また、管理UIは自社開発したという。
報告では、実際のプロビジョニングの様子を映した動画も披露された。動画ではサーバーをラックに設置するとそれが管理UI上で未使用リソースとして表示され、そこからCobblerがPXEブートでOSインストールを実行。Ansibleの設定をgitでダウンロードしてインスタンスをデプロイするところがデモされた。
OpenStackのベアメタルプロビジョニング技術Ironicの検証
森優輝氏(クリエーションライン、OCDET)は、OpenStackのベアメタルプロビジョニング技術「Ironic」について解説し、検証結果を報告した。IronicはOpenStack Icehouseから登場し、次期バージョンであるKiloで正式採用される予定。
氏はIronicのキーとなる技術としてIPMIとPXEを挙げ、数種類あるIronicのドライバを紹介した中から、「pxe_ipmitool」を使った検証を報告した。
プロビジョニングの基本的な流れとしては、NovaがIronicのドライバにより物理ノードを選択し、IronicがIPMIで電源をオンし、PXEブートしたデプロイ用OSが実際のOSイメージをddで書き込むという。そのほか、ディスクイメージの作成方法や、イメージの登録方法、電源管理などについて解説。苦労した点として、PXEのTFTPブートの設定や、iSCSIターゲットへの接続権限、Metadata-agentの登録などが語られた。
森氏はまとめとして、「けっこう実用的に動作してきている」としながら、情報が充実していないことを指摘。また、問題点は今後のドライバしだいであることや、ネットワーク隔離はまだこれからであることを語った。
CloudStackのベアメタルプロビジョニング技術の現状
島崎聡史氏(日本CloudStackユーザー会、シトリックス)は、CloudStackのベアメタルプロビジョニング機能を解説した。
氏はまず、CloudStackのネットワークアーキテクチャには、テナントをL3で隔離する「基本ゾーン」と、VLANで隔離する「拡張ゾーン」の2種類があると紹介。ベアメタルで使うときには、基本ゾーンは難しくない一方、拡張ゾーンはまだ実験的で、ハイパーバイザーがVMwareに限られるなどの制限が多いと解説した。
また、ベアメタルのインスタンスで「できること」「できないこと」を説明。できないこととしては、VNCコンソールや、ライブマイグレーション、スナップショット、テンプレートからのデプロイ、複数NICなど、仮想環境に依存する機能を挙げた。
問題点としては、拡張ゾーンでの物理スイッチの制御が挙げられた。スイッチにオンデマンドで設定を書き込むため、現在は対応スイッチが限られるという。
リンク、SoftLayer、GMOアプリクラウド、IDCフロンティアがサービスを紹介
事業者編としては、まずリンクの山本誠一郎氏が、同社の「ベアメタル型アプリプラットフォーム」を紹介した。
氏は、サービスの特徴としては、「GUIから物理サーバーをプロビジョニング」「物理サーバーの性能にクラウドの操作性とスピード」「ハードウェア障害が発生しても新しいベアメタルで迅速に復旧」の3つを挙げた。そして、AWSの同価格帯のインスタンスに比べて2〜5倍のパフォーマンスがあるというデータを紹介した。
機能としては、コンロールパネルからのサーバー作成や、LVMのスナップショットを使ったバックアップとユーザー自身によるリストア、障害時の自動リストア、バックアップを使ったサーバーの複製やスペックアップが紹介された。
そのほか利用ケースとして、クラウドから移行してサーバー台数を減らす例や、期間の限られるイベントサイトの例、クラウドはわかるがサーバー選定の経験がない管理者の例を山本氏は挙げた。
続いて、GMOインターネットの「GMOアプリクラウド」について、専用サーバーの背後で動いているベアメタルプロビジョニングが紹介された。現在実運用しているOpenStackベースのシステムを郷古直仁氏が、次期システムのために検証中のIronicを柳匡哉氏が解説した。
郷古氏は、ベアメタルプロビジョニングのツールとして、最初期のkickstart/preseed(それぞれRed Hat系とDebian系のインストーラのスクリプト)のシステムや、Relax-and-Recover(rear)を利用したシステムを紹介。GMOアプリクラウドのシステムとしては、Excelで管理したデータをPythonで読んでCobblerで起動するシステムと、そこから自動化して、OpenStack HavanaのBaremetal Computeを改造してAnsibleからCobblerで起動する現行システムを解説した。
さらに、現行のシステムについて、構成やプロビジョニングのプロセスを解説した。Ansibleの変数定義のYAMLファイルを生成し、AnsibleからCobblerでOSをインストール、そのあとでスイッチのAPIからVLANを設定するという。
ただし、この方法ではインストールに時間がかかることや、OSの種類の制限などがあることから、Ironicを検証しているという。
Ironicの検証については柳氏が報告。イメージ準備や空VM準備、TFTPサーバー設定、iSCSIなどについて説明したあと、遭遇したさまざまなエラーについて解説した。また、バグの修正をしたことや、オブジェクトストレージのSwiftを使わずnginxを使う改造などについても柳氏は触れた。
IBMの北瀬公彦氏は、同社のSotLayerについてというより、ベアメタルクラウド全般の意義について語った。
氏はベアメタルクラウドについて「ホスティングとクラウドのいいところどり」と表現して、仮想サーバーと比べたパフォーマンスや、ハイパーバイザーに脆弱性が発見されたときの対応、コストパフォーマンスについて紹介した。
また、物理サーバーも仮想サーバーも同じようにセルフサービスによりオンデマンドで作成できるとSoftLayerのサービスを紹介。仮想サーバーのイメージを物理サーバーに移行する機能についても説明した。
ベアメタルクラウドの用途については、HPCや、ビッグデータ、データベース、ゲームのバックエンド、ベアメタルクラウド上のプライベートクラウドを紹介。そのいくつかについては、SoftLayerでの構成例を挙げてみせた。
IDCフロンティアの金井崇氏は、同社の「IDCFクラウド ハードウェア専有タイプ」を紹介した。仮想マシン1つが物理サーバーを専有するタイプのサービスだが、仮想マシンイメージをすべて超高速フラッシュストレージであるFusion-ioのioMemoryに置いているのが特徴だという。
氏は開発の動機として、「ioMemoryは高速だけど高い、時間貸しをしたら売れるんじゃないか」と考えたと紹介した。
苦労した点としては、VM削除時の追加ディスクの消去や、VM作成で追加ディスクを作るための制限を紹介。さらに、肝心のディスクベンチマークで性能が出にくいという状態だったため、ファイルシステムのパラメータのチューニング、マウントオプション、I/Oスケジューラ、ディスクイメージの作成方法の変更などによって、物理サーバーと同等の性能まで高速化したと報告した。
※記事内に一部「GMOクラウド」と表記されていましたが正しくは「GMOアプリクラウド」です、お詫びして訂正致します。(2015/3/30)
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