OSI参照モデルを紐解いていこう ー第3層(ネットワーク層) ②ルーティング

2023年7月20日(木)
左門 至峰 (さもん しほう)
今回も、前回に引き続きOSI参照モデルの第3層(ネットワーク層)について解説します。今回取り上げるテーマはルーティングです。

はじめに

皆さん、こんにちは。ネットワークスペシャリストの左門です。本連載では、難しいネットワークを、身近な事例に置き換えながらわかりやすくお伝えしていきます。

第6回では、第3層(ネットワーク層)のIPアドレスについて説明しました。第7回の今回は、前回に引き続き第3層(ネットワーク層)のルーティングについて解説します。前回で解説したとおり、ネットワーク層の役割の1つは、宛先までの最適な経路(route)を選択することです。そのための仕組みがルーティングです。

今回も、身近な事例として、引き続き郵便を題材にします。

海外にハガキを運ぶのは船? それとも飛行機?

アメリカの友達にハガキを出すことにしました。さて、ハガキは飛行機で届けられるのでしょうか。それとも船でしょうか。正解は両方で、飛行機による航空便と、船による船便があります。金額は、世界中どこへでも航空便は70円、船便は60円です。意外に安いですね。

また、仮に飛行機で運ぶにしても、ハガキを空港まで運ぶための手段も複数あります。電車や車以外に、近場であれば自転車、遠くであれば飛行機の可能性もあります。

皆さんならどの手段を使って移動するでしょうか。また、その手段を選んだ理由を教えてください。

例を変えます。皆さんが東京ディズニーランドに遊びに行くとします。移動手段として電車や飛行機、高速バス、自家用車などのさまざまな方法があります。どの方法で行くかを、何を基準に決めますか。

多くの場合「費用」や「時間」が重要な要素です。大阪からの場合、新幹線を使うと費用は往復3万円ほどかかりますが、4時間もかからずに到着できます。一方、高速バスなら、(バス会社にもよりもますが)新幹線の半額程度の料金で行けますが、代わりに時間は約2倍かかります。

ITのネットワークの経路制御はどうでしょうか。ネットワークの世界では「時間」が大事です。実際、ルータなどのネットワーク機器では、最も早く到着できる最短経路を探します。

ルータとは

第6回で説明したとおり、第3層(ネットワーク層)ではIPアドレスを用いて通信を行います。そのために使用される機器がルータです。参考ですが、第2層(データリンク層)では、スイッチングハブでMACアドレスを使用して通信を行いましたよね。

ルータの機能は、IPアドレスの情報を基に宛先ネットワークへの適切な経路を選択することです。この機能をルーティングと言い、ルータの最も重要な役割です。それ以外にも、最近のルータは複数の機能を持つことがほとんどです。例えば、NAT(Network Address Translation)やNAPT(Network Address Port Translation)といったグローバルIPアドレスとプライベートIPアドレスの変換機能を提供します。他には、パケットのフィルタリングとして、受信したパケットをIPアドレスなどの情報を基に通過させたり破棄したりします。スイッチングハブの機能を持つものもあります。

ルーティングとルーティングテーブル

それでは、ルータはどうやって経路を制御するのでしょうか。例えば、あなたが名古屋駅で新幹線を降りて岐阜に向かうには、どの電車に乗れば良いのでしょうか。簡単ですよね。駅に行けば、行き先ごとに何番線の電車に乗れば良いか分かりやすく案内があります。

ITのネットワークでも同様です。ルータは宛先への経路情報を管理するルーティングテーブルを持っています。ルータはパケットを受け取るとルーティングテーブルを参照し、どの経路からパケットを送るかを決めます。

この仕組みを、具体的なネットワークを例に説明しましょう。次のネットワーク構成図を見てください。

【出典】「ストーリーで学ぶネットワークの基本」(インプレス) p.179

この図では、192.168.1.0/24、192.168.2.0/24、192.168.3.0/24のネットワークがルータ1に接続されています。ルータ1のルーティングテーブルは、下図のとおりです。

【出典】「ストーリーで学ぶネットワークの基本」(インプレス) p.179

ここで、PC1(IPアドレス:192.168.1.1)が、異なるネットワークのPC2(IPアドレス:192.168.2.1)にデータを送信したとします(先の図❶)。パケットを受け取ったルータ1では、ルーティングテーブルからパケットの宛先IPアドレス(192.168.2.1)と一致する経路があるかを確認します。

このルーティングテーブルの2行目にある「192.168.2.0/24」のネットワークは、ポート『2』に『直接接続』されている」ことを意味しています。よって、192.168.2.1へのパケットはポート2から送出します(先の図❷)。

スタティックルーティングとダイナミックルーティング

それでは、ルーティングテーブルは、どうやって作成するのでしょうか。方法は大きく2つあります。

スタティックルーティング

スタティックルーティング(静的ルーティング)では、管理者が経路情報をルーティングテーブルに手動で設定します。このように設定された経路をスタティックルートと言います。スタティック(static)とは「静的な」という意味です。ただ、ネットワークの規模が大きくなると経路も増え、経路情報が膨大になります。ルーティングテーブルの管理者の負担も大きくなります。スタティックルーティングは、デフォルトルートという標準経路の設定や単純なネットワークで用いられるのが一般的です。

ダイナミックルーティング

ダイナミックルーティング(動的ルーティング)は、ルータ同士で経路情報を交換し、自動的にルーティングテーブルに経路情報を登録します。こうして設定された経路をダイナミックルートと言います。ダイナミック(dynamic)とは「動的な」という意味です。

ダイナミックルーティングでは、経路上で障害が発生した場合でも自動的に経路が切り替わります。また、経路情報を1つ1つ設定する必要がないので、設定は簡単です。大規模なネットワークでは、一般的にダイナミックルーティングが利用されます。

ルーティングプロトコル

ダイナミックルーティングに使用されるプロトコルを、ルーティングプロトコルと言います。主なルーティングプロトコルにはRIP(Routing Information Protocol)やOSPF(Open Shortest Path First)、BGP(Border Gateway Protocol)などがあります。どのルーティングプロトコルを用いるかによって、どの経路が最適かを判断する基準が異なります。

ここでは、分かりやすいルーティングプロトコルとして、RIPとOSPFについて簡単に紹介します。

RIP

RIP(Routing Information Protocol)は、最も基本的なダイナミックルーティングのプロトコルです。「距離(ディスタンス)」を基準に、どの「方向(ベクトル、ベクター)」の経路が最適かを判断するため、距離ベクトル(またはディスタンスベクター)型のルーティングプロトコルと言われます。

距離は、宛先ネットワークに到達するまでに経由するルータの数で表します。これをホップ数と言います。方向は「どちらに向かってパケットを送出するか」という意味で、ネクストホップで表します。

例えば、山手線には外回り(時計回り)と内回り(反時計回り)の2つの経路があります。東京から池袋に向かうときは経由する駅の数が少なく、早く到着する内回りを選択しますね。内回りでは東京の次は神田なので、ネクストホップは神田になり、神田方向に向かう電車に乗ります。つまり、駅の数(距離)を基準に方向(ネクストホップ)を決める、距離ベクトル型の考え方に沿って経路を求めているわけです。

【出典】「ストーリーで学ぶネットワークの基本」(インプレス) p.189

しかし、RIPにはいくつか問題点があるため、現在ではあまり利用されません。例えば、RIPはホップ数だけで判断するので、経路上の回線が1Mbpsの低速回線なのか、10Gbpsの高速回線なのかを区別できません。電車で言うと、普通列車なのか特急列車なのかが判断できません。ネットワークの回線速度を考慮できないので、RIPが最適と判断した経路が実際に最適とは限りません。

OSPF

RIPの欠点を解消し、現在小中規模のネットワークで広く使われているのがOSPF(Open Shortest Path First)です。OSPFでは、RIPが抱えていた問題点をいくつか解決しています。例えば、OSPFでは最適経路の判断にコストを用いることで、回線速度を考慮した経路を選択します。

コストは、回線速度に反比例した式で計算される値です。回線速度が速いほうが小さい値になるため、コストの値が小さい経路が最適経路に選ばれます。例えば、Ciscoのルータは10Mbpsの回線のコストが10、100Mbpsや1Gbpsの回線のコストが1に設定されています。そのため、OSPFでは10Mbpsの回線(コスト10)と100Mbpsの回線(コスト1)がある場合、コストが小さい100Mbpsの回線が経路に選択されます。

下図の例を見てください。PC1からPC2への経路は2つです。ルータ1とルータ2が直接接続されている上側の経路は間にルータがないものの、低速な10Mbps回線で接続されています。一方、下側の経路はルータ1とルータ2の間にルータ3が介在しており、経由するルーターが1つ増えますが、高速な100Mbpsの回線で接続されています。この構成の場合、RIPは経由するルータ数が少ない上図の経路を選びます。しかし、OSPFではコストが小さい下の経路を選びます。

【出典】「ストーリーで学ぶネットワークの基本」(インプレス) p.196

コストの値は、管理者が手動で設定することもできるため、動的に経路が決まるとはいえ、管理者が意図した経路を通るように設定することもできます。このように、OSPFは便利かつ柔軟な経路設計ができるので、多くの企業で広く利用されています。

おわりに

さて、今回はルーティングの初歩的な部分を解説しました。第6回の内容記事と合わせて、第3層(ネットワーク層)の理解を深めていただけたでしょうか。

次回からは、第4層(トランスポート層)の解説に入ります。

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著者
左門 至峰 (さもん しほう)
ネットワークスペシャリスト。株式会社エスエスコンサルティング代表取締役。著書にネットワークスペシャリスト試験対策「ネスペ」シリーズ(技術評論社)、「FortiGateで始める 企業ネットワークセキュリティ」(日経BP社)、「ストーリーで学ぶ ネットワークの基本」(インプレス)などがある。
研修では、オリジナルコンテンツを用いたネットワークやセキュリティーの資格対策、ハンズオン研修を数多く実施。

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