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徹底比較!!SaaS vs.パッケージ
徹底比較!!SaaS vs.パッケージ

第4回:SaaSがユーザにもたらす投資対効果

著者:みずほ情報総研  古川 曜子   2007/10/22
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構築費

   次に構築費についてみていこう(表2のb行)。これまでにも述べてきたように、パッケージの場合は、システムの初期構築の際に、ハード費、ソフト費、それらの開発人件費をユーザが負担する。SaaSの場合は、その分の費用が月々のライセンス料に含められている。

   構築されたシステムが資産として計上され、5年間で減価償却していくパッケージモデルに対して、SaaSの方は月々のシステム利用料を、経費とみなすことができる。そのため、特に多額の初期負担に耐えられない中小企業などにとっては、SaaSの方が無理なく始めやすい料金構造になっているといえる。

   アプリケーション開発人件費(カスタマイズ開発)について、パッケージカスタマイズは基本的に専門SEによるコーディングを要する。SaaSの場合は、GUIによるパラメータ設定でデータベース設計や画面レイアウトなどを行えるため、営業フェーズのデモ(プロトタイピング)などの中で、かなりの部分のカスタマイズが済んでしまうといっても過言でない。

   そのためSaaSの開発費はパッケージの場合と比べて非常に少額で抑えられる可能性が高く、パッケージともっとも差がつく部分であるといえる。

保守料・サーバ運用費

   保守料・サーバ運用費について考察する(表2のdとe行)。2年目以降について、パッケージの場合はハードウェア、ソフトウェア(パッケージライセンス保守以外)の保守料をベンダーに支払う必要が発生する。

   さらにパッケージの場合、サーバ運用費はユーザ企業内部の負担となり外部流出費ではないので見落とされがちであるが、社内のサーバルームの維持費とパッチ当てやバージョンアップ、トラブル対応などの作業のための社内要員人件費が発生することになる。

   以上の費用は、SaaSの場合はライセンス料に含まれているため、追加費用としては発生しない。


バージョンアップ費用

   最後にバージョンアップについて説明する(表2のf行)。バージョンアップについては、SaaSの場合は月々の利用料以上の追加費用なしで年に数回バージョンアップを行う。これに対して、、パッケージの方は数年に1回大規模なバージョンアップが行われ、その際ユーザは個別にカスタマイズした機能を新バージョンのパッケージアプリケーションに合わせるために、相応の費用をかけて開発を行うことになる。

   対応費用を考えてそもそもバージョンアップしない/できないユーザ企業も多く、その場合は、初期構築した時点のままのシステムを機能や技術が陳腐化してもそのまま利用し続けることを余儀なくされる。

   パッケージシステムをバージョンアップしない場合は、追加費用の発生はないとしても、その間にSaaSアプリケーションが何回もバージョンアップされていることを考えると、コストに換算すれば大きな損失がここに隠されていることになる。


TCO(Total Cost of Ownership)の比較

   初期構築費、その後の維持管理・運用費を総合的に考えた場合の、SaaSとパッケージのトータルなコスト比較はどのようになるだろうか。


小規模・大規模ユーザの場合は、SaaSの方が有利。

   10人前後の小規模ユーザの場合は、数人の業務効率化のために、一千万円規模の初期投資と数百万円規模のランニングコストをかけて、パッケージシステムを導入するということ自体が非現実的で、特に基幹系でないCRMのような分野にはIT投資がされていないのが実態だと考えられる。

   SaaSというサービス形態の登場は、そもそも企業規模にマッチした適当なソリューションがなかった部分に対して、妥当な利用料で使える高機能のアプリケーションが出てきたことを意味するため、非常に有利な選択であるといえる。

   一方、数千から数万ユーザ規模の大企業が自前でパッケージシステムを構築する場合、バックアップ環境や開発環境、セキュリティ対策などを考えると、特にインフラ面の費用が膨らむ傾向にあり、結果としてトータルコストが高額になる場合が多い。

   前出の比較表にある大企業のケースでは、システム導入後5年目以降でSaaSのコストがパッケージのコストを上回っていく計算だが、5年で償却が終わればまた新しいシステムに入れ替えることも考えられる。このため、システム運用業務の効率化など、コスト以外のSaaSのメリットもあわせて評価すれば、SaaSを選択することが有利といえるのではないか。

SaaSとパッケージのTCO推移イメージ
図1:SaaSとパッケージのTCO推移イメージ
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)


中規模ユーザについてはパッケージの方が有利な場合もあり

   SaaSのライセンス料は単純な人数分の積み上げであり、それが毎年同額で発生することを考えると、中規模程度のユーザ数の場合でもそれなりの金額になってくる。

   大規模顧客に対してはディスカウントが利く場合もあるが、中規模についてはそれも難しいため、定価のライセンス料を負担しなければならず、パッケージを使って自前開発するよりも割高になってくることもある。

   前出の比較表の中規模企業のケースでは、システム導入後3年目でSaaSのコストがパッケージのコストを上回るようになっており、機能拡張などの追加費用なしで長く利用することを想定するならば、パッケージを選択するということもあり得るだろう。


頻繁なバージョンアップ(機能拡張)を要する場合はSaaSの方が有利

   機能要件が頻繁に変わり、それに対して柔軟に対応していなければならないような場合、例えば顧客との接点となるフロントオフィス系のシステムでは、一定のライセンス料の中で次々にバージョンアップが行われるSaaSモデルの方が適しているといえるだろう。

   逆に、あまり機能要件の変化のないバックオフィス系のシステムなどの場合は、自社の業務の流れに合わせてパッケージで作り込んでしまった方が良い場合もある。

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みずほ情報総研株式会社 古川 曜子
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社  古川 曜子
金融ソリューション第2部
1999年、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。民間企業、中央官庁のナレッジマネジメントやEA関連のコンサルティング業務に従事。現在は、企業情報ポータル、検索エンジンなど、「エンタープライズ2.0」のソリューションを活用した企業内情報活用のためのシステム構築業務に携わっている。著書に、「ITとビジネスをつなぐエンタープライズ・アーキテクチャ」(中央経済社)、「サーチアーキテクチャ」(ソフトバンククリエイティブ)(いずれも共著)。


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