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Linuxディストリビューション比較

第1回:Linuxとディストリビューション

著者:市民電子情報網  安田 幸弘   2006/10/23
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付属パッケージ

   Linuxの魅力の1つが、多数の高性能なアプリケーションが付属している点だ。サーバからワークステーション、デスクトップ、開発環境まで、付属アプリケーションでほとんどの用途に対応できる。

   ディストリビューションに付属するアプリケーションの種類は、ディストリビューションの性格を示すものでもある。たとえば、サーバ指向のディストリビューションなら各種サーバアプリケーションが充実している。

   同様にワークステーション指向のディストリビューションなら、オフィススイートやデスクトップアプリケーションが充実している。

   そして汎用のディストリビューションなら、サーバやデスクトップといった用途を問わず、基本的なアプリケーションが一通り揃っている。

   業務で使用するシステムでは、使用するアプリケーションはある程度限られてくるだろう。従って単に付属アプリケーションの種類が多いディストリビューションではなく、目的の業務に適したアプリケーションが揃っているかがポイントとなる。

   もちろん、アプリケーションの種類や数以外に、機能や安定性など、質的な側面についての検討も必要だろう。有力なベンダーは、単に公開されているソフトウェアをパッケージ化するだけでなく、オリジナル版に存在する問題点を修正したり、独自の機能を追加している。

   一般のユーザにとって、ベンダーによるこれらの修正や拡張は見えにくい部分だが、アプリケーション付属のドキュメントなどにより確認することができる。パッケージについて検討する場合は、この様な点についても注意しておきたい。


管理ツール

   UNIXに近い設計思想を持つLinuxでは、OSの動作に関する設定はコンソール画面からコマンドとテキストエディタを使って行うのが基本となる。しかし、設定コマンドや設定ファイルはアプリケーションや設定する内容ごとに書式が異なるため、ある程度の知識が要求される。

   管理ツールの目的は、OSを利用する場合に必要な動作の設定やアプリケーションのインストール(およびアンインストール)、システムのアップデート、アカウントの管理などの作業を、コマンドに関する特別な知識を持たないユーザでもわかりやすく、統一的なインターフェイスで実行できるようにすることだ。

   各ディストリビューションが提供する管理ツールは、それぞれ独自の工夫が凝らされている。そのため、これらシステム管理のためのツール群はLinuxのディストリビューションを特徴づける要素の1つと言えるだろう。

   管理ツールを評価するポイントは、わかりやすさや使いやすさのほかに、設定できる範囲やコンソールでの使いやすさなどがある。

   管理ツールのわかりやすさ、使いやすさを判断するポイントには、設定したい画面をすぐに見つけられることや設定すべき項目についての操作が直感的に理解できることなどがある。

   次に設定できる範囲という点では、GUIの管理ツールでユーザが必要とする細かい設定が可能かどうかが重要となる。管理ツールそのものは、設定項目が少なくシンプルなほうが使いやすい。しかし画面で操作できる設定項目が少なすぎると、実際の場面で必要になる細かい設定ができないこともある。シンプルで使いやすく、しかも細かい設定も柔軟にできるようなソフトウェアが望ましい。

   特にサーバとして使用するシステムでは、必ずしもX WindowによるGUIが利用できるとは限らない。このような場合は、別のワークステーションから管理ツールによって遠隔ログインして作業できる必要がある。またその場合にもGUIのツールと同様の使いやすさを備えていることなどが求められる。


サポート

   Linuxのディストリビューションにとって最も重要な要素の1つに、迅速なアップデートパッケージの提供や導入前後のサポートがある。ベンダー各社はディストリビューションの開発だけでなく、充実したサポートの提供にも力を入れている。自社内で管理・運用するシステムでは特に、ディストリビューションに対するサポートの質と内容が重要な検討事項になる。

   ディストリビューションのサポート内容としては、まず重大なバグやセキュリティ上の問題に関する修正パッケージ(アップデータ)の迅速な提供が不可欠なポイントである。特にセキュリティ面では、問題が報告されてからアップデータが公開されるまでのタイムラグに注意したい。

   アップデータの提供期間についてもチェックしておく必要がある。最近は、ディストリビューションのリリースからアップデータの提供が打ち切られるまでの期間が最低でも5年以上とするベンダーが増えている。システムをリプレースするスケジュールなどを考慮し、サポート期間が保証されることを確認しておきたい。

   ディストリビューションに関するドキュメントや情報も、基本的なサポートの一部だ。わかりやすいマニュアルをはじめ、FAQやナレッジベースといった問題解決手段が整備されていることが望ましい。

   このほか、インストールや使用時の問題や設定、管理などについての問い合わせ、認定されたアプリケーションの問題解決の支援など、様々なサポート項目が用意されている。さらに通常のサポート以外にも、各ベンダーはさらに高度なサポート、トレーニングやコンサルティングなどのオプションサービスを提供するベンダーも多い。

   ユーザの使用目的によって必要になるサポートの種類は異なる。自分のニーズにあったサポートやオプションのサービスが提供されているかどうかを確認しておきたい。


その他

   上記の項目以外にも以下の様な点にも注目しておきたい。

情報の入手のしやすさ
情報が入手しやすいことのメリットは言うまでもないだろう。ちょっとしたトラブルも、ネットで検索したり市販の書籍などで容易に解決できることがある。
日本語の表示や入力
  • 日本語の表示や入力は、特にワークステーションとして使用する場合に問題になりやすい点だ。サーバやミドルウェアとしての用途でもしばしば問題になることがある。
  • 画面に表示されている文字と印刷した文字が違ったり、日本語の入力への非対応、日本語のファイル名が扱えない、エラーメッセージやドキュメントの未訳が日本語化されていないといったケースがある。
過去のバージョンとの互換性
  • バージョン間の互換性は、システムの管理/運用に関わる点だけに、特に注意したい。ディストリビューションのメジャー/マイナーバージョンアップはもちろんだが、場合によってはシステムをアップデータでアップデートした際に、それまで問題なく利用できていたアプリケーションの動作が不安定になるケースもある。
  • 少なくともマイナーバージョンアップ程度では、稼働中のシステムの設定に大きな変更を加えることなく運用を続けられることが望ましいだろう。
他のOSとの相互運用時の問題
  • 他のOSとの相互運用では、例えばネットワークにつながっているWindowsやMac OSとの間でのデータの共有やデータベースの接続が問題となる。さらにJavaや.Netアプリケーションの互換性も注意すべきポイントだ。
  • マルチベンダーのシステムは運用が難しいものだが、適切なディストリビューションを選ぶことでスムーズな運用が可能になるだろう。
試用版の有無
  • ほとんどのディストリビューションでは、何らかの形で試用の機会を提供している。導入するディストリビューションを決定する前に、できれば試用版やライブCDで実際に目的のシステムに触れてみることをお勧めしたい。
  • 日本語の表示や互換性、相互運用などの問題をはじめ、カタログだけではわかりにくい細かい部分も、実際に使用することで理解できるだろう。

   現在、日本では「Red Hat Enterprise Linux」「SUSE Enterprise Linux」「Miracle Linux」そして「Trubolinux」の4種類のディストリビューションが広く利用されている。本連載では今回の重要ポイントに基づいて、それぞれのディストリビューションの特徴について解説していく。

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株式会社市民電子情報網 安田 幸弘
著者プロフィール
株式会社市民電子情報網  安田 幸弘
取締役。主にオープンソースソフトウェアを使用した非営利組織向けのネットワークサービスの提供やサーバの運用/管理を行うとともに、フリーの技術ライターとしてインターネット、サーバ管理などに関して書籍や雑誌記事を執筆している。


INDEX
第1回:Linuxとディストリビューション
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  ディストリビューション選択のポイント
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