提供:BIPROGY株式会社
生成AIの"次"の技術として熱い視線を向けられているのが「AIエージェント」だ。その最大の特徴が、自律的な認識・判断・行動とAIエージェント間の連携により、複雑なタスクを、人手を介すことなく自動化できる点だ。「生成AI Day 2025(主催:インプレス、2025年9月18日)」に登壇したBIPROGY 市場開発本部 データ&AI技術部 部長の脇森浩志氏とEAGLYS 代表取締役社長/CEOの今林広樹氏が、AIエージェントの概要や現状の活用動向、推論能力のさらなる向上に向けたアプローチについて解説した。
自律的に認識・判断・行動する
AIエージェントがもたらす巨大なインパクト
生成AIの"発展形"として今、大きな期待を集める技術が、大規模言語モデル(LLM)をベースに、生成AIよりも動的なアクションを可能とした「AIエージェント」である。登場からまだ間もなく、ベンダー各社によりさまざまに定義されているが、それらはいずれも「AIを利用して特定のタスクやサービスを自動化するソフトウェア」という点で共通している。
「AIエージェントは自律的に認識し、判断し、行動する点で、入力に対して応答を返すだけの生成AIとは一線を画します。AIエージェントは他のエージェントやアプリ、デバイスとも連携でき、日々の生活やビジネス、さらに社会にもたらすインパクトは極めて大きなものです」と語るのは、BIPROGY 市場開発本部 データ&AI技術部 部長の脇森浩志氏だ。
その一端を垣間見られるのが、当日のスケジュール策定からルート検索、旅券の手配、ホテル予約などいくつもの煩雑な作業が発生する出張の準備作業だ。生成AIを使えば、どう決めるべきかのアイデアを回答として得られる一方で、各作業別に判断材料を含んだ質問が必要で、旅券購入やホテル予約の実作業は人手で行う必要があった。しかし、この状況がAIエージェントにより一変する。
「予定を簡単に示すだけで、AIエージェントはユーザーのスケジュールなど、判断に必要な情報を自律的に収集・推論し、最適な予定やルートを提案します。その裏では、チケット手配やホテル予約といった各作業を得意とするエージェントが連携しており、提案の了承後には予約サイト経由で旅券購入やホテル予約まで完了させます。つまりは、一切人手を介すことなく、複雑なユーザーの望みを自動で叶えてくれる世界が到来するのです」(脇森氏)
AIエージェントによるタスク処理を
大きく向上させたLLMの推論能力
法律や医療、金融など、高度な専門知識を伴う作業も、理屈の上ではそれらを学習したAIエージェントとの連携によりユーザー側の知識を問わず実施でき、高度な知見への容易なアクセスも実現する。専門エージェントの追加を通じた多様な業務への応用が確実視されており、すでに鉄道業界でのトラブル対応支援や、金融業界における企業の調査代行などで実運用が始まっている。
これほどの能力の背景にあるのが、ここ数年のLLMにおける「言語」「推論」「マルチモーダル情報処理」の急速な高まりだ。中でも特筆されるのが推論能力だと脇森氏は説明する(図1)。
「タスク達成に向けた行動計画の立案などは本来、コンピュータが非常に苦手とするものでした。しかし、与えられたタスクの遂行に向けた、機能やデータをどう使うべきかの推論能力が近年、目覚しく向上し、問題がまたたく間に解決されつつあることに多くの研究者が驚く状況にあります」(脇森氏)
AIエージェントによるタスク処理を概観すると、次の4つのプロセスを辿る(図2)。
- タスク全体の処理を取りまとめる「オーケストレーターAI」によるタスクの受け取り
- タスクの単純タスクへの分割と、実処理を担う「スペシャリストAI」への転送
- スペシャリストAIによるAIナレッジベースや社内システムと連携しての単純タスクの実施
- オーケストレーターAIへの報告
「そこでの推論精度の向上で鍵を握るのが、『AIナレッジベース』と『データ整備』です」と指摘するのは、EAGLYS 代表取締役社長/CEOの今林広樹氏だ。
推論精度の向上で鍵を握る2つのコンポーネント、
「AIナレッジベース」と「データ整備AI」
まずはAIナレッジベースである。AIの推論精度を向上させるには、企業や業界特有のナレッジの提供が不可欠だ。AIナレッジベースはそのための、社内データからナレッジを精緻に抽出し、AIが探索しやすく、誤解や混同が生じにくい形式で格納するデータの管理先だ。
ただし、その整備は現状、一筋縄ではいかないという。根底にある問題が、ナレッジが多様な部門で断片的に管理されている実態だ。
「現場では多くの場合、自身の業務に必要なデータのみを必要な形で管理しています。この状況において、AIエージェントがデータを"喰える"形にするには、何らかのルールに基づくデータの関係性や意味の明確化などが必須となります。ただし、そのために少なからぬコストと工数の発生は避けられませんが、その作業を抜きにしては回答精度の向上は到底望めません」(今林氏)
この課題克服で力を発揮するのがデータ整備AIだ(図3)。AIエージェントのタスク達成を狙いとする、データ検索、理解、回答生成などに適した形式に整えるための機能群であり、「データ収集」「クレンジング」「構造化」「ベクトル化」などの機能から成る。
「その利用を通じて、AIエージェントが真に必要な情報の抽出とAIナレッジベースへの格納、ひいては知識の統合が実現するのです」と今林氏は力を込める。
EAGLYSでは、企業のAIエージェントの活用支援を狙いに、AIナレッジベースの開発基盤「EAGLYS MINING AI」やデータ管理機能をワンストップで実現する「EAGLYS ALCHEMISTA Labs」など、AIナレッジベースとデータ整備AIの実現に活用を見込めるツールを広範に提供する。
「AIエージェント開発では、目的に応じて『暗号化・秘密計算』から『部署・企業間連携/AIデジタルツイン』までの多様な技術を、総合的に使わなければ思い通りの成果は上がりません。当社はすべてをツール別に提供しているのが強みです。それらの組み合わせにより、データ準備から開発、品質改善、コストコントロールまでの、自社による一貫したコントロールが実現します」と今林は自信をみせる。
BIPROGY とEAGLYSが開拓するAIエージェントの未来
EAGLYSのツールで成果を上げている企業はすでに数多い。とある大手メーカーでは、複数部署が利用するAIナレッジベースとAIエージェントの組み合わせによる業務改善提案を通じ、DXの対象業務を生産管理から品質保証、調達管理などに矢継ぎ早に拡大することに成功した。また、別のメーカーでは「不具合に関する過去の類似事例」「関連する図面・部品表」「現場の点群データ」を連携させ、検索AIによりデータを現場での意思決定に役立てることで、対応工程を50%以上効率化させた。
生成AI、そしてAIエージェントの企業での活用はこれからが本番だ。その支援に向け、BIPROGYと EAGLYSは2025年8月、資本業務提携を締結した(図4)。「BIPROGYのシステム構築力と顧客ニーズ対応力に、EAGLYSのデータ整備力を組み合わせ、生成AI機能を業務アプリに組み込むための開発キット『Azure OpenAI ServiceスターターセットPlus』とEAGLYSのツールを活用し、AIエージェントの社会実装を共同で加速します」と両氏は意気込みを語った。
AIエージェントの活用を見据える多くの企業にとって、BIPROGYとEAGLYSは外すことのできないパートナーとなりそうだ。
