世界的に普及している高機能CMS、Drupal - 国内コミュニティメンバーが次バージョンや最新情報を紹介 -

2013年10月31日(木)
Think IT編集部

「DrupalCon Prague 2013」レポートとDrupalの今後について

日本のDrupalコミュニティのメンバーである紀野氏からは、9月にチェコ共和国のプラハで開催された「DrupalCon Prague 2013」の様子を中心に、新バージョンであるD8や、Drupalの現状について紹介されました。

DrupalCon Prague 2013は、9月23日~9月27日の開催期間中、約1800名が参加者しました。会場には200名規模のブースが8レーン設置され、約15のセッションを実施。さらに10名くらいの小さなブースでホワイトボードを使いながら濃い議論が交わされていたとのことです。

イベント終了後も、多くの参加者が現地でコードを書いたり開発をしたりと、10日間ほどDrupal漬けの人も多かったようです。一日の終わりにはパーティが開かれ、クイズ大会などで参加者たちが大いに盛り上がった様子。今回はアジア系の参加者も多かったとのことでした。

最大の話題は「D8」

今回のイベントで最も大きな話題は、バージョン6から7になった時以上に変化が大きいといわれている。来年リリース予定のDrupal 8(D8)についてでした。

D8では、重要なモジュールの内、ほとんどがコアに入るため、企業のティザーサイトレベルのサイト構築は8.0リリース直後から使い始められます。

目玉となるのはConfiguration Managementです。これまでViews、Panels、Taxonomyなどすべての管理画面の操作がデータベースに入っていたため、ローカルからのアップロード、デプロイするか困っていたユーザーは多かったのですが、コードに置換され、バージョニングが可能になるため、モジュール作成者だけでなく、管理画面を使ってサイト構築する人にも重宝する機能です。ファイルについては、現状Media moduleが必須ですが、これもコアに入るため、使いやすくなります。またViewsのような進化の早い機能もコアに入るため、安定性が重視され、バグが出にくくなるとのこと。

開発者の風潮として、新しい機能を次々に取り入れたいため、メジャーアップごとに大きく変化していきましたが、上記のことから8から9へのアップグレードも見通しが良くなります。

レスポンシブデザインについても、今でもいくつかのテーマは対応していますが、標準のテーマがモバイル対応するため、ユーザーは迷いなく使えるようになります。また、テーマエンジンがSymfony2由来のTwigに変更されるため、見た目にもきれいで今のテンプレートエンジンに慣れた人にも使いやすくなるようです。レイアウトシステムはPanels系のCtoolsという簡易的なメインツールがコアに入ります。

デベロッパー系の変化は大きく、戸惑いの声はあったものの、必要な変化ということでモダンなPHP開発ができるSymfony2に移行されることになりました。これから開発を考えているユーザーも参加しやすくなります。

Entityのオブジェクト指向への改良、Pluginなど新しい概念も取り込まれるとのことでした。Javaの世界では一般的なDependency Injectionは、機能追加などの際に作りこまなくてもアップできるよう、結合を疎にして入れ替えなどが楽にできるようになるとのことです。

Entityの改良については、コードがOOP(オブジェクト指向)に変更されます。Entity PIの提唱によってコアに入るようになるため、D7までのように、モジュールによってEntityが異なって混乱してしまうことが減ると予想されます。また、コアの部分にもSymfony2が(すべてではないものの)入る予定なので、Drupal 8にアップグレードしたすぐ後から、あまり迷うことなく使えるということでした。

先のセッションで四方氏が話したように、これまでサイトが遅いという課題については、コアメンテナーがかなり力を入れているという話があり、Symfony2が入ることで細かなキャッシュが有効になることが期待されています。

他に目立った話題として、DevOps系の話題が挙げられました、改修を行いながら継続して開発を行っていくテーマについては日本と海外であまり時間差なく注目されている様子です。

現在ではDrupalサイトの大型化が進んでいるようで、多くの自社開発している企業から事例を紹介する話が多かったのですが、一例として、Phizer製薬が全社のサイトをDrupalに変えようとしている話題が紹介されました。7を使っているので継続的な開発(CI)はしづらいものの、Feturesを含めた一切を自分たちで開発しているという話でした。

Drupalの様々な動作をシェルスクリプト上からできるようにするDrushというツールも人気で、Drushをつかったオリジナルコマンドを作ろうというセッションもあったようです。

紀野氏はその他ブースの賑やかさにも触れ、ディストリビューションを試すのに最適な無料のクラウドサービスや、アクィア(Acquia)社の話題も上がりました。レッドハットもブースを持ち、AWSのように簡単にDrupalの開発ができる環境を用意しているとのことでした。

D7からD8へのアップグレードに不安を感じているユーザーも多いことから、後方互換性を保つため、マイグレートモジュールをコアに入れることが会期中に決まりました。D6からD8へもコンテンツが移行できるようになり、より安心にDrupalを使用することが可能になります。

Drupalのフォーク、Backdrop

Backdropは、D7からD8への大きい変化を嫌った一部の開発者によってフォーク(分岐)したプロジェクトです。DrupalConの開催2週間前に発表され、IRC、ブログ界隈は騒然となりました。

大きな関心が寄せられた理由は、このプロジェクトを立ち上げたのがDrupalモジュールのスター作家だということでした。ユーザーが必ずといっていいほど使ったことのあるモジュールの開発メンバーがフォークするということで、影響力は大きく、賛否がはっきり別れることになりました。

ただし、これを機にDrupalプロジェクト本体が後方互換を意識し始めたこともあり、悪いことばかりではないようです。

Backdropプロジェクトは、D7をベースとして、その代替版として開発が進んでいます。D7をベースにD8の機能を追加していくため、直接の互換性はありませんが、モジュールの改変が楽だったりと、D8よりもマイグレーションが簡単になることを目指しているとのことでした。この話題は、今後もDrupal Cafeでフォローしていくとのことでした。

コアで活躍する人の中にも、このBackdropプロジェクトに賛同している人が多いものの、紀野氏はコミュニティの大きさや情報量はとても重要なので、簡単に移行してしまうと、開発経験のないユーザーほど困ってしまう事態になりかねないと述べました。

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2004年の開設当初からOSS(オープンソースソフトウェア)に着目、近年は特にクラウドを取り巻く技術動向に注力し、ビジネスシーンでOSSを有効活用するための情報発信を続けています。クラウドネイティブ技術に特化したビジネスセミナー「CloudNative Days」や、Think ITと読者、著者の3者をつなぐコミュニティづくりのための勉強会「Think IT+α勉強会」、Web連載記事の書籍化など、Webサイトにとどまらない統合的なメディア展開に挑戦しています。

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