連載 :
  インタビュー

Drupalの生みの親が語る、日本市場の可能性とDrupalのこれから

2014年10月3日(金)
高橋 正和

「Drupal」は、さまざまな企業から米国ホワイトハウスまで広く使われているオープンソースのCMSだ。ちなみに、Think ITのサイトもDrupalで運営されている。

Drupalの創始者であり、企業向けにDrupalのサービスを提供するAcquia社の創業者兼CTOでもあるDries Buytaert氏(以下、Dries氏)が、9月に来日した。同じ9月には、企業向けのDrupalホスティングサービス「Acquia Cloud」が、AWS(アマゾンウェブサービス)の東京リージョンでのサービス開始を発表し、日本に参入している。

Dries氏の来日にあわせて、9月16日にプライベートイベント「DRUPAL NIGHT TOKYO 2014」が開催された。このイベントで講演したDries氏に、DrupalやAcquiaについて話を聞いた。なお、イベントについても後日追ってレポートする。

[協力]シーアイアンドティー・パシフィック株式会社

―― 改めて、Acquiaについて紹介してください。

Dries:Acquiaは私が作ったDrupalの会社で、Drupalの製品とサービスを提供しています。特に、大きな企業へのサポートを中心としています。

「Acquia Cloud」はDrupalのホスティングサービスで、Drupalに最適化されたインフラを作って提供しています。開発ツールもセットになっています。

また、マーケティングの人に対するサービスもあります。1つはパーソナライズのソリューション、もう1つは企業内検索のソリューションです。

Drupalの商用サポートサービスもサブスクリプションで提供しています。24時間×365日のサポートで、SLAも付いています。LinuxにおけるRed Hatのようなサービスです。

現在、7年目に突入し、500人の従業員が働いています。去年、「米国で最も成長している技術系非公開会社(Fastest Growing Private Technology Company in North America)」に選ばれました。

―― 大企業のニーズがあると考えてAcquiaを設立したのでしょうか?

Dries:はい。当時、Drupalは大企業に受けいれられる必要がありましたし、大企業はAcquiaを必要としていました。もう1ついうと、私は仕事を必要としていました(笑)。そこで、Ph.D(博士号)をとった翌日にAcquiaを設立しました。

Acquiaはボストンにあります。ボストンにはMITやハーバード大もあって、スタートアップ企業で賑わっています。その中で先週(9月12日)、私はMass Technology Leadership Council(マサチューセッツ技術リーダーシップ評議会、MassTLC)により、「CTO of the Year」に選ばれました。

―― おめでとうございます。さて、講演でもDrupalの特徴の1つとして、オープンソースCMSの中でも大規模で使われているという話がありました。最初に作ったときから、大規模を想定していたのでしょうか?

Dries:いいえ。最初は自分のホームページ用に作りました。それを1年後にオープンソースとして公開しましたが、10人も使えばいいと思っていました。最初の7年は、週末の趣味のプログラミングとして開発していました。現在のようになったのは、事故のようなものです(笑)。

―― Acquiaが今回、AWSの東京リージョンで日本市場に参入しました。Acquiaから見た日本市場の可能性について教えてください。

Dries:日本市場にニーズがあることはわかっていました。Drupalの公式サポーティングパートナーであるCI&Tのカスタマーは日本にもいます。

問題は、その市場規模でした。今回来日したのも、日本でのDrupalの状況を知るためです。

―― 実際に来日して、日本市場の可能性はどうでしたか?

Dries:確かな機会があるとわかりました。

もう1つ感じたのは、日本の企業に役立つために、もっと日本のDrupal開発者が必要だということです。そのためには、育成と、日本語ドキュメントが必要だと思います。この問題は、「鶏が先か、卵が先か」の関係ではあるのですが。ただ、日本の学生にとってもDrupalの開発者になるのはいいことだと思います。

(イベントスタッフ):Drupalアソシエーションの日本支部を作る予定はありませんか? また、そのためにわれわれがサポートできることはありますか?

Dries:イベントを開催していくには、組織を作って財務などの管理をする必要が出てきます。Drupalアソシエーションはそのためにあります。Drupalアソシエーションは枠組みなので、日本支部はむしろ日本のみなさんがジャッジすることです。よいことだと思います。

(イベントスタッフ):日本では過去に、勝手にオフィシャル(公式・公認)を名乗って独占しようとする人が出るというトラブルがありました。それを防ぐためにも、Driesさんが日本でのDrupalの商標を取得してもらえませんか?

Dries:やりましょう。

―― 近くリリース予定のDrupal 8は、現在のバージョンから大きく変わると聞きます。どのぐらい変わるのでしょうか?

Dries:大きく変わります。まず、WebアプリケーションフレームワークのSymphony2ベースになります。これによって、コードが100%オブジェクト指向になります。これは、デザインパターンなどの手法を持ち込めるなど、開発者にとって扱いやすくなると思います。

次に、標準機能で、モバイルとRESTful Webサービスに対応します。モバイルへの対応はDNAレベルのもので、レスポンシブWebデザインやHTML5なども採り入れています。また、RESTful Webサービスにより、スマートフォンのアプリを開発してアクセスしたり、外部のサービスとつながったりできるようになります。

ユーザービリティも大きく変わります。新しいWYSIWIGエディタにより、コンテンツの編集が簡単になります。また、多言語対応も、日本のような市場には重要です。いままではインストールした後から各言語を追加する必要がありましたが、Drupal 8では最初から各国語が含まれて、インストーラーで言語を選んでインストールできるようになります。

編集部より:
Dries氏によるブログポストおよびANNAIの紀野氏による翻訳も公開されています。
Acquia、シーアイアンドティー・パシフィック、ANNAIの3社共催によるDrupalの無償ハンズオントレーニングが10月6日に開催されます。

フリーランスのライター&編集者。IT系の書籍編集、雑誌編集、Web媒体記者などを経てフリーに。現在、「クラウドWatch」などのWeb媒体や雑誌などに幅広く執筆している。なお、同姓同名の方も多いのでご注意。

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