シスコ、鬼門のマルチベンダー&オープンスタンダードでキャリアのシステム刷新に挑む

2015年5月1日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
 
今回は、シスコシステムズ(以下、シスコ)が開催した通信キャリアとサービスプロバイダー向けのセミナー「シスコEPNセミナー」を紹介したい。本セミナーは2015年4月2日に六本木のANAインターコンチネンタルホテル東京で開催され、登壇者の大部分が本社の社員、日本人の登壇者も所属は本社というまさに本社主導のセミナーだった。
 
なお、本記事のタイトルは釣りの様だが、セミナー後に雑談したシスコでEPNのオーケストレーションのコアとなるスウェーデンのTail-f Systems(以下、Tail-f)買収に関わった本人が「これはとてもシスコらしくないやり方だが、これからはマルチベンダーとオープンスタンダードを推進していく。それがこの買収の本当の意味だ」とコメントをしていたのが印象的だったので、このタイトルにさせて頂いた。
 
本セミナーの主テーマであるEPNとは何か。「Evolved Programmable Network」の略であるが、字面だけではよくわからない。シスコのWebサイトにも解説があるが、やはりこれだけを見てもエンタープライズ側の人たちには理解されないのではないか。
 
「Evolved Programmable Network(EPN)」
 
そこで、昨年4月に公開されたレポート記事を紹介する。これが一番分かりやすいだろう。
 
「シスコEPNセミナー」セッション概要
 
このセミナーが開催されたのは2014年3月27日であり、この直後にTail-fの買収が行われたわけだ。この時にはまだTail-fの名前はどこにもなく、SDNやNFVの話題に終始している。登壇者も今回のセミナーとはほとんど被らないという、たった1年でここまで変化するものもなかなかないのではないか。
 
EPNとは、サービスプロバイダーが顧客に提供するサービスを構築する様々なベンダーのネットワーク機器を、アプリやビジネスのニーズに合わせてオーケストレーションするプラットフォームだ。それをシスコが2014年7月に買収したTail-fのソリューションで実現したので、それを日本のキャリアとサービスプロバイダーに売り込みたいということであったように思われる。
 
EPNのキモは、構成の追加や変更を手動ではなくTail-fのソリューションを使って自動化・セルフサービス化することが可能だと言う部分だろう。本セミナーでは、ドイツテレコムの導入事例をベースにサービスのオーダーからネットワーク機器の発送、サービスや機器に合わせた構成管理の自動化など、企業がサービスプロバイダーからサービスを購入する際の一通りのプロセスフローをWebポータルから行い、自動的に構成されるまでを紹介した。そのような構成管理をシスコ製品だけでなく他社のネットワーク機器にも行えるというのが、マルチベンダーの由来だ。そして、それを実現するのがIETFで制定されたネットワーク構成のためのプロトコル「NETCONF」と、デバイスをモデリングする言語「YANG」だ。シスコとしては、これらを称して「オープンスタンダード準拠」と言いたいのであろう。
 
NETCONFとYANGについては、Tail-fが作成したスライドがわかりやすい。
 
「NETCONF YANG tutorial」
 
シスコは、Tail-fの買収によりAT&Tが推進するネットワークのソフトウェア化プログラム「Domain 2.0」にサプライヤーとして選定されることになった。逆に言えば、Tail-fを買収しなければDomain 2.0には選ばれなかったのではないか。買収が発表された当時の米国ニュースサイトを見直すと、それぐらいTail-fのソリューションはキャリアやサービスプロバイダーに評価されていると思われる。今回のセミナーでもNETCONF、YANG、そしてTail-fのオーケストレーションがEPNの根幹を支えているのだと思われるスライドが多数使われていた。
 
ここで、講演の一部に触れておこう。VP, HERO MarketingのBrendan Gibbs氏は「Cisco EPNのビジョンと戦略について」というタイトルで講演を行い、スライドを使用してEPNのコアとなる「Evolved Service Platform(ESP)」を紹介した。ESPではオーケストレーションとしてTail-fのソリューションが、下位のVIMレイヤーにはVMwareもしくはOpenStackが使われていることがわかる。
 
VP, HERO Marketing Brendan Gibbs氏
 
The Ochestration Layer of ESP
 
セミナーを通して興味深かったのは、Sales Business Development DiretorのHal Gurley氏による「ネットワークプログラマビリティによるビジネスインパクトについて」と題された講演だ。Gurley氏はTail-fのソリューションのコアとなる「Network Service Orchestrator」を紹介。ここでも、如何にシスコがTail-fのソリューションをベースにサービスプロバイダーの業務を自動化するかを強調していた。本記事の冒頭に挙げた「マルチベンダーとオープンスタンダードを推進していく」とのコメントはGurley氏によるものだ。
 
シスコのマルチベンダーとオープンスタンダードへのコミットメントを紹介するGurley氏
 
セミナーの最後には、NTTコミュニケーションズとKDDI、ソフトバンクモバイルのネットワーク技術者が、プロバイダーにおけるNFVの将来についてパネルディスカッションを行った。ここで語られた内容は興味深いものではあったが、日本3大通信キャリアの技術者を登壇させることでキャリアへの印象付けと集客に繋げたことは否めないだろう。シスコとしては信頼性を最優先するゆえに、未だレガシーシステムから脱却できていない通信キャリアにおいてもTail-fが提供するマルチベンダーのオーケストレーションを梃にしてシステムの売り込みを強めたい、という意思の表れが見えたセミナーであった。
 
来年のEPNのセミナーにはどういったメッセージが込められるのか、楽しみである。
著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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