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【ネットワーク教習所】ニューラルネットワークの可能性

【ネットワーク教習所】
ニューラルネットワークの可能性

第3回:パルスニューロンモデルとは?

著者:名古屋工業大学大学院工学研究科 岩田 彰

公開日:2008/03/19(水)

パルスニューロンモデル

筆者らは、神経細胞における神経インパルスの伝達様式をモデル化した、パルスニューロンモデルを用いた研究を行っている。先に述べた階層型ニューラルネットワークで用いたモデル化は、結合係数とニューロンの膜電位は連続数値、さらにはシグモイド関数の出力も0から1の間の連続数値であり、これらを整数型あるいは浮動小数点型の複数ビットを用いてデータ表現をしている。主に高速演算器を有したコンピュータによるデータ演算を想定している。

これに対して、パルスニューロンモデルはより生体の神経細胞の様子に近く、ニューロンの入力・出力信号は時系列的なパルス列(1ビット、0と1の時系列信号)で表され、局所膜電位も生体のそれを模した減衰関数を用いている。このモデルは後述するようにハードウェア化した場合のコンパクト性を念頭にしたモデル化と言える。

図2にパルスニューロンモデルの構造を示す。

パルスニューロンモデルは他のニューロンと結合するm本のシナプス、各シナプスnにおける局所膜電位pn(t)、各局所膜電位の総和である内部電位I(t)、出力を他のニューロンに伝達する軸索から構成される。時刻tを連続値として扱うことも可能であるが、本研究では計算機上およびFPGA上でパルスニューロンモデルを用いるために離散値としている。

パルスニューロンモデルにおいては、まず各シナプスnにおいて入力パルスin(t)が入力されると、それぞれのシナプスに対応した結合係数wnの値に比例して局所膜電位pn(t)が増加(減少)し、その後、時間の経過とともに時定数τnで指数関数的に減衰する。

次に、パルスニューロンモデルは単位時間ごとに局所膜電位pn(t)の総和である内部電位I(t)を計算する。この内部電位I(t)がしきい値を越えると発火し、出力O(t)として1を出力する。またあるパルスニューロンモデルが一度発火した後、一定時間RPの間は内部電位がしきい値を越えた場合でも、生体の神経細胞と同様にこのパルスニューロンモデルは発火できない。この時間を不応期と呼ぶ。

パルスニューロンモデルモデルは通常のニューロンモデルとの違い、時間的に減衰する膜電位で情報を表現するため、時系列情報を扱うのに適している。演算が単純なため簡単な電子回路によって実装が可能であるという利点を持つ。

また、基本素子であるパルスニューロンモデルモデルのハードウェア化が容易であれば、システム全体を1つのハードウェアに搭載することが可能となり、従来手法より小規模なシステムを構築することができる。さらに各パルスニューロンモデルモデルはハードウェア化することで並列に計算することができるため、高性能な計算機などを用いなくても高速な処理能力が期待できる。

パルスニューロンモデルモデルは各ニューロン間のデータ転送路が単線で済むため、ハードウェア上に複数のニューロンモデルを実装する際に非常に有利である。また、伝達する信号が頻度変調されたパルスのストリームであるため、各ニューロンは基本的に非同期独立に演算が可能であり、多数のニューロンを実装した場合にも厳密な同期処理を行う必要はないという特徴を持つ。

図2:パルスニューロンモデルの構造

音源定位

筆者らは、このパルスニューラルネットワークを音源の位置を推定する音源定位に利用している。人間は2つの耳に入ってくる音の違いを利用して、音源の位置を知ることができる。この音源定位は、車の接近などの危険を未然に察知でき、周囲の状況を察知する上で欠くべからざる能力である。音源定位には、音源の水平面内の方向、上下高さ方向、音源までの距離の3つのパラメータがあるが、ここでは水平面内の方向について考えることとする。

人間の音源定位機構には、心理学、神経生理学それぞれのアプローチから研究が進められている。音源定位は、両耳に入ってくる音の時間差(ITD:Inter-aural Time Difference)と音圧差(ILD:Inter-aural Level Difference)を手がかりとして用いている。音の時間差や音圧差の検出には、脳幹の上オリーブ核が関与している。また、これらの神経細胞においては音の情報はすべて神経インパルス列によって伝達されており、音源定位もこの神経インパルスを入出力データとする神経経路網で行われていることなどが明らかになってきている。

これらの心理学、神経生理学上の知見をもとに種々の音源定位モデルが提案されているが、これらのモデルには計算コストの大きい相関値計算を用いているためコンピュータを必要としている。しかしながら、筆者らはコンピュータを用いずにハードウェア化に適したパルスニューロンモデルを用いた音源定位方式を提案している。 次のページ




名古屋工業大学大学院工学研究科  岩田  彰
著者プロフィール
名古屋工業大学大学院工学研究科 岩田 彰
1975年名古屋大学院工学研究科修士課程修了、名古屋工業大学助手、助教授を経て、93年同大学教授、02年11月〜04年1月同大学副学長、04年1月同大学大学院教授、現在に至る。81年工学博士(名古屋大学)、受賞歴:93年電子情報通信学会論文賞、98年情報処理学会Best Author賞など。
研究室ホームページ:http://www-ailab.elcom.nitech.ac.jp/


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INDEX
第3回:パルスニューロンモデルとは?
  ニューロンとニューラルネットワーク
パルスニューロンモデル
  聴覚神経回路モデルと音時間差検出モデル
ニューラルネットワークの可能性
第1回 ニューラルネットワークとは?
第2回 ニューラルネットワークの構造を知る!
第3回 パルスニューロンモデルとは?
第4回 音の見える化とは?