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テクノロジからみたSaaSの経済学
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第1回:SaaSというビジネスモデルの成功要因とは

著者:ラクラス  北原 佳郎   2007/10/23
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ベンダーの立場から見たビジネスモデルのポイント

   それではここで、SaaSビジネスモデルの制約条件を整理してみよう(表1)。
  • 経営資源を準備するのはユーザではなくベンダーである
  • 導入時にはベンダーにキャッシュは入ってこない
  • キャッシュはベンダーに月極めで入ってくるが、いつでも解約され得る

表1:SaaSビジネスモデルの制約条件

   この条件をみれば、SaaSベンダーにまず必要なのは「キャッシュフロー」であることがわかる。ベンダーはユーザに成り代わり、ヒト、モノ、カネという3つの経営資源を準備しなければならない。

   にもかかわらず導入時にキャッシュは入ってこない。もちろん有料のカスタマイズを施す場合もあるが、それにしても主たる売り上げは毎月の月極め料金である。

   SaaSのような累積型のビジネスモデルは、一旦黒字を達成すれば、利益は安定して増加する。しかし、パッケージ販売と比較すると、投資回収期間は長いという特徴をもつ。キャッシュフローの確保は、SaaSベンダーの重要な経営課題である(注1)。

※注1: 独立行政法人情報処理推進機構がとりまとめた「先進的『ウェブ・サービス』を中心とする情報技術ロードマップ策定〜ソフトウェアサービス化及び情報の高付加価値化への潮流〜報告書(案)」(http://www.its-kenpo.or.jp/restaurant/sannou_bar/index.html)などに詳しい。

   加えて、想像した以上に投資回収期間が長かったからといって、途中でサービスを打ち切ることは極めて難しい。これもSaaSビジネスの特徴である。たとえユーザの獲得数が事業計画より大幅に少なかったとしても、既存ユーザへのサービスは継続しなければならない。よって、精緻な事業計画が不可欠である。

   キャッシュに余裕がある大手企業であっても、事業計画の重要性は変わらない。SaaSをはじめたからには、他事業部での利益をSaaSに投入し続けなければならないリスクも想定しておくべきである。せっかく立ち上がり始めたSaaSというビジネスモデルの芽を潰さないためにも、リスクを十分に計算した上で参入することが重要である。

   次に重要なのは、解約を食い止める手立てである。これもSaaSに限らず、累積型のビジネスモデルの基本である。特にB2Bにおいては、ユーザに導入してもらうための営業活動が欠かせない。

   ウイルス対策ソフトをはじめとしたITツールの購入契約を結ぶならさておき、「CRM(顧客情報管理)」や「HRM(人事情報管理)」といったビジネスアプリケーションに関するサービス契約を、Webページ上のクリックだけで締結することなど現実には不可能であり、対面での商品説明から契約締結までの一連の営業活動を抜かすことはできない。つまり商談獲得には必ず販売費という初期費用がかかるのである。

   初期費用を月極め料金で回収していくからには、解約を食い止めるだけの魅力をサービスにもたせる努力が欠かせない。望むべくはビジネスモデルの中にそのような仕組みを用意することだ。

   解約阻止の重要性は、いくら強調しても、強調しすぎということはない。それは、解約は「率」で決まり、成約は「数」で決まる傾向があるからだ。何も手立てを講じない限り、解約率が下がることはない。「ある一定の率を保つ傾向がある」ということは、たとえ順調に成約数が増加したとしても、解約率が下がらない限り解約数は増加していく。成約数が一定であれば、解約数が増加していく分だけ、純増数は減少していくのである。これも累積型ビジネスの宿命といってよい。成約数を増やすだけではなく、解約率を下げる不断の努力が必要だ。

   このように考えると、なぜ一部のSaaSベンダーが「プラットフォーム化」を宣言するのか、その意図がみえてくるのではないだろうか。「Ajaxを採用したWebブラウザとは思えないほど快適なユーザインタフェース」だけでは、解約阻止には不十分である。「ユーザは使い慣れたインタフェースから離れたくないものだ」という主張は正しいが、それが強力な解約防止策となる保証はない。

   そこで、「いつでも解約されるSaaS」という立場から脱却するために、プラットフォーム化を狙うという戦略が登場する。プラットフォームとして他のシステムと密に連携されれば、確かに解約は困難になるだろう。

   しかし、プラットフォーム化のために独自言語を提案し、それでユーザの囲い込みを狙うというのであれば、それはむしろ先祖返りと呼ぶべきだと筆者は思う。解約を減少させるポイントは、結局のところ付加価値の高い差別化されたサービスを継続的に改善していくことだと思うのだがいかがだろうか。

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ラクラス株式会社 北原 佳郎
著者プロフィール
ラクラス株式会社  北原 佳郎
代表取締役社長
人事情報データベースとWebワークフローソフトをユーザごとにカスタマイズしたSaaSで提供し、さらに要望に応じて日常人事業務のビジネスプロセスアウトソーシングも提供するという、日本初の人事SaaS+BPOサービス「ラクラスイオ」を提供している。著書に『「ヒト」を生かすアウトソーシング』『SaaSはASPを超えた』(いずれも(株)ファーストプレス)がある。


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第1回:SaaSというビジネスモデルの成功要因とは
  SaaSというビジネスモデルの成功要因は?
ベンダーの立場から見たビジネスモデルのポイント
  ベンダーの利益源泉