TOPキーパーソンインタビュー> 今後ビジネスの世界に登場していく技術とは
「ちょいデキ!」社長から技術者へ
杵柄のストックが人生を決める!
話者:サイボウズ  青野 慶久氏
2007/10/22

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今後ビジネスの世界に登場していく技術とは

シンクイット — 新しい技術が登場し、興味が持ったものを手掛けるときに心がけていることを教えてください
青野氏:これにお答えする際に丁度いい「失敗」例があります。「RSS。これすごいな、これは世の中変えるな」と思ったのですが、そのときは普通のRSSリーダを作って世にだしてしまいました。しかしいま1つ「便利だ」という声をいただくことはできませんでした。

   そこで何が欠けているのかを考えたとき、それは「顧客視点」だと思いあたりました。「ちょいデキ!」でも書いていますが、僕が失敗するときは顧客視点が欠けているときなのです。

   技術が面白くて、技術をそのまま世の中に出してしまう。しかし、本当は技術を顧客バリューにして出していかなければお客様には喜んでもらえません。顧客が便利になる所まで導くことができなければ、どんなに良い技術も普及しないと思っています。

   もし良い技術に巡り合っても、それが顧客に対してバリューを提示できなければ、熟成する期間を持つ必要があると考えています。


シンクイット — RSSについてはその後、熟成されたのでしょうか
青野氏:RSSリーダは、情報通の方で沢山情報を仕入れたいと思っていたり、多くの情報から目利きのできる人には非常に良いツールだと思います。しかし一般的なユーザは「面白いものを探す」よりも「他の人が興味を持っているものを読みたい」という意識が強いものです。

   例えば、今まさに目利きのできる人が見ている/選んでいるニュースやWebページを知らせてくれるサービスがあればどうでしょうか。それを実現しているのが、サイボウズ・ラボが提供している「Pathtraq(パストラック)」です。

Pathtraq(パストラック)
http://pathtraq.com/

   これは、専用のプラグインを登録したWebブラウザで見られているWebページを集計し、今まさにみんなが注目しているものが分かるツールです。現在はGeekなユーザが主に使っているため、取り上げられるWebページもGeekなものが多い傾向にあります。しかし今後インストールするユーザが増えれば、一般的な傾向が見えるようになり、非常に面白いと考えています。

   このサービスは、1つは「匿名のCGM」という見方ができます。そしてもう1つに「ログの共有」という考え方があります。特に後者の「ログ共有」という考えに立つと、さまざまな展開が考えらるのです。

   これまでWebサイトの管理者は、自社のサイトはログだけしか判断基準がありませんでした。例えば飲料メーカーAが飲料メーカーBのキャンペーンWebサイトの注目度を調べようとしても、ログを入手できない以上わかりません。

   しかしPathtraqならば、飲料メーカーBのWebサイトのどのWebページを見ている人が多いかを判別できます。もちろん自社Webサイトと、どちらを注目しているかを比較することもできます。

   ログ共有は、実は非常にパワフルで、多くの可能性を秘めているのです。


シンクイット — これは、技術的には難しいものなのでしょうか
青野氏:驚くような技術を投入しているわけではありません。しかし、キーワードについて自動判別を行って、このページはビジネス向けなのか、普通のニュースなのか、といった分析を行う部分など、細かい点をみればさまざまな取り組みが行われています。

   このPathtraqのように、ビジネスに結びつけるときには「使う人が面白いと感じる」ような顧客視点が大事だと考えています。


今の自分を形作るのは子供の頃の体験

シンクイット — 技術者として、この仕事をはじめたきっかけを教えてください
青野氏:コンピュータの道に進んだのは、やはり子供のころにパソコンを触った体験が大きいと思っています。興味を持ち、感動した時の好奇心のままで今もずっと携わっています。

   その当時のコンピュータはさまざまな意味で「むき出し状態」だったので、プログラムを入れないと何もできませんでした。自分にとって、その頃の経験は忘れられないものです。

   今はコンピュータを買ってきても、Webブラウザを見て電子メールを書いたりするだけで、コンピュータの仕組みに触れる機会はありません。その点は、自分からみれば「かわいそうだな」と感じるところです。

   先日はてなのCTOの伊藤 直哉さんのお話を聞いてちょっとびっくりしたことがあります。彼は僕よりも若く、コンピュータを大学生のころから使いはじめたそうなのですが、あまりハードウェアのことを知らないというのです。

   今はスクリプト言語などですごく便利なものがあり、ハードウェアのリソースやOSの細かい部分を知らなくてもある程度のプログラムを書けます。ご本人として、その道を究めようとすると、やはりハードウェアやOSの仕組み、プロトコルの違いなどを知る必要がある、と感じているとのことです。

   「ただの仕事」と割り切るならば、表層的なアプリケーションだけ書ければよいのでしょうけれど、よい技術者になるためにはもっと深い部分まで知らないといけないでしょうね。


シンクイット — では、よりよい技術者への第一歩はなんでしょうか
青野氏:良いプログラムを書こうと思うと、自分が手がけているものの1つ下のレイヤ、もしくは1つ上のレイヤについて知識を持っていることが重要です。そこを自分でストレッチできなければ、現実に「プログラマとして35歳で頭打ち」ということになるかもしれません。

   私は経営者としての立場になっていますが、これについては人によって向き/不向きや好き嫌いがあると思います。この年齢になったから全員が全員、経営に携わる必要はないでしょう。

   実際にサイボウズ・ラボの畑はサイボウズの創業者ですが、彼自身は一生プログラマであり続けたいと考えています。実際に名刺にも「サイボウズ・ラボ プログラマ兼代表取締役」と、どっちが重要なんだと聞きたくなるような肩書きを載せています。

   無理に全員がマネジメントしていかなくてはならないわけではありません。しかしマネジメントが上手な人はレバレッジが効きますから、そういった面で非常に重要なポストであると考えています。

   また携帯電話のゲーム開発現場の話ですが、今の技術でプログラミングを学んだ人はあまりの制限の多さに挫折することが多いそうです。しかし、ファミコン時代にゲームを作っていた人はさまざまな工夫ができるといいます。

   ファミコン時代には、1つのカセットに32KBしかプログラムが入れられず、しかも音楽や映像、マップ、アルゴリズムを全部収める必要がありました。今から比べると、大変な制限の中ゲームを作っていたといえるでしょう。

   それだけに、工夫の余地や、工夫をするコツを非常に多く知っていて、限界にチャレンジできる技術者になれるのだと思います。


杵柄をストックすれば、それが身を助ける

シンクイット — 最後にThink ITの読者にメッセージをお願いします
青野氏:僕のように、技術者から途中で経営の道に入ってくる人も多いと思います。しかし、この分野で仕事をする限り、どの立場にいても「持っている技術」に助けられる機会があると考えています。

   例えばサイボウズ Officeを立ち上げてWebサイトで販売を開始した際にも、僕が技術者だったことから短期間でシステムを構築できました。それによって「インターネットダウンロード直販」が、いとも簡単にできたように世の中的にはみえたようです。

   しかしこれには、バックグラウンドとして僕が技術を持っていた、という状況があっただけで、これが普通のマーケッターなら苦戦の連続だったでしょう。それはとても僕にとってラッキーで、「昔取った杵柄がこんなところで役立つとは」という気持ちでいっぱいでした。

   松下電工時代に社内LANを導入し、Macを配って皆にメールを使わせた経験から、ネットワーク敷設から企業システムで必要な機能までを知ることができました。それは今ガルーンに対して何が必要かを語ることができる下地になっています。これはまさに杵柄のおかげです。

   特に技術者の方はさまざまな技術にチャレンジし、苦労を踏んでおくべきだと思います。いつか「昔取った杵柄」を活用できるように、「杵柄をストックしておく」ことが大事でしょう。

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久

サイボウズ株式会社
代表取締役社長
青野 慶久

1971年、愛媛県生まれ。大阪大学工学部卒業後、松下電工株式会社に入社。1997年、サイボウズ株式会社を愛媛県に設立、取締役副社長に就任。2005年、代表取締役社長に就任。

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