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基盤技術でASPとSaaSを比較する
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では、実際に個々の項目を通して、ASPとSaaSの違いを明らかにしていきましょう。
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運営母体(単独からマルチテナントへ)
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ASPの「P」がProviderを指すように、ASPはあるベンダーが自社製品をライセンス販売だけでなく、利用モデルでもサービス提供するビジネス形態が主流でした。
一方、SaaSは複数のベンダーが集まって総合的なサービスを提供するモデルが中心です。当然、その場合の運営母体は複数ベンダーの共同出資になったり、製品ベンダーではなくネットワークのキャリアやハードウェアメーカなど基盤系の会社が運営母体を構成するようなケースがあります。
ECに例えれば、初期の頃に登場した自社商品をネット販売する店舗がASPで、その後で急成長した楽天市場のようなモールがSaaSといえるでしょう。楽天市場がB2Cにおける成功モデルだとすると、SaaSはB2Bにおけるポータルサイトを目指していることになります。
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トレンド(Best of Bleed時代へ)
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企業(エンタープライズ)へのコンピュータの浸透が進み、今や広範囲な業務をコンピュータシステムでカバーする時代になっています。その利用の広がりに対応して、これまでのアプリケーションは順次適用範囲を拡大し、スイート(Suite)製品化を競ってきました。
しかし、あるベンダー単独で多様な企業形態の広範囲な業務すべてをカバーするのは困難だということがはっきりしてきました。「この業務にはこの製品が優れている」であったり「この業種のこのようなビジネス形態にはあの製品が強い」というように、それぞれに適した優良製品が存在しているのです。
そこで、Suite構想のアンチテーゼとして「Best of Bleed(日本語で適材適所)」という考えが登場し、優秀な製品をゆるやかに疎結合して利用する形態が見直されています。
ASPからSaaSへの進化の背景には、このような時代のトレンドがあります。競争力のある製品をそろえ、それらを組み合わせてユーザに提供する、このようなBest of Bleedをサービスという形態で実現するのがSaaSなのです。
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技術基盤(SOA化の浸透)
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この数年SOA(Service Oriented Architecture)という言葉があちらこちらで使われています。一時は何でもSOAを付けているような行き過ぎの感もありましたが、最近では少し落ち着いてきたように思います。その期待に実態が追いついていないため、もしかすると5年後には消えているかも知れませんが、その目指すところと考え方は正しいと思います。
SOAの考え方は、アプリケーションを「サービス」というユーザ利用単位にコンポーネント化し、それを組み合わせてトータルシステムを構成するものです。この発想は、企業内のシステムのあり方でもメンテナンス性やポータビリティなどでメリットをもたらしますが、特にSaaSにはぴったり当てはまる技術構想です。
利用したいアプリケーションがサービスという単位にまとめられ、それらを自由に選択、組み合わせて利用できるという利用形態、そのSaaSの根幹をSOAという技術が支えてくれるのです。
ただし、現時点ではSOAもまだまだ実態がともなっておらず、SaaSで提供されるサービスも機能単位ではなく製品単位がほとんどです。今後、皆の期待通りにSOAやSaaSが成功を収め、5年後にも名前が残るようであれば、その頃には製品からサービス単位へコンポーネント化が進んでいると思います。
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視点
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「ASPはベンダー視点だったから失敗した、SaaSはユーザ視点に立ってビジネスを考えているから成功する」などと言う人がいます。
ASPをやっていた人たちがユーザの事を視野に入れてないわけはないし、逆に冷ややかな見方をすれば、今の状況を見るとSaaSだってとてもユーザ視点とは思えません。しかしながら、確かにASPが伸び悩んだ理由として「ユーザ視点が不足していたこと」をあげないわけにはいきません。
ASP失敗の反省に立って、どうすればユーザがSaaSサイトを利用してくれるか、もっとそれを真剣に考えなければSaaSもASPの二の舞になります。そんな警鐘の意味も込めて、あえて表1には「視点の違い」という項目を入れておきました。
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著者プロフィール
株式会社システムインテグレータ 梅田 弘之
東芝、住商情報システムを経て1995年にシステムインテグレータを設立。常駐・派遣主体の労働集約的な日本のソフトウェア業の中で、創造性にこだわってパッケージビジネスを行っている。「アプリケーションは日本の方が上」と信じ、日本のIT産業が国際競争力を付けるためにやれることはやろうと決意している。
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